20 研究室
「フィー。着いたよ。ここが僕の研究し……」
目を開けると、視界いっぱいに広がる紺色。
グレンのローブだと理解し、自分がグレンにピッタリくっついていたのだと気付くと同時に一気に顔が火照った。
「ご、ごめん、転移って初めてだったから、驚いて。」
そう言いながら慌てて離れる。
グレンからの返事がない。
やっぱりベッタリくっつき過ぎて不快だったのかと慌てて再度謝りながらグレンを見た。
「グレン、本当にごめんなさ…?え?」
グレンは顔を耳まで真っ赤になっており、それを隠そうと慌てて片手で顔を覆い隠した。
それを見た私も、自分がやってしまった失態を思い知らされたようで居た堪れなくなり、さらに顔を赤く染め上げた。
「あ──、お茶でもいれるから、とりあえずその辺に座ってて!」
そう言うや否やグレンは隣の部屋に移動し、私は一人ここにに取り残された。
一人になったことで、落ち着きを取り戻した私は部屋の中をぐるりと見回した。
壁一面に本棚があり、何百冊もの魔導書などの書物が置いてあった。なんなら本棚に入りきらない本は床に乱雑に重ねて置いてあるし、ソファの上も本でいっぱいだ。
デスクの上には私にはよく分からない魔道具が色々置いてあった。
「うわぁ、研究者の部屋って感じ。」
そう言いながら、ソファーの本と本の隙間に座り真横に置いてあった本を手に取った。
「えーっと、『聖女の歴史』。
へぇ、こんな本もあるんだ〜。』
パラパラと中を見てみる。
──初代聖女『アイリーン』はある日突然この国に舞い降り、魔界から来る魔獣の被害を受けていたこの国を守る為に守護結界を張った。
「アイリーン……」
その名前はこの国の誰もが知っている偉大な初代聖女の名だ。けれど──。
「やっぱりなんか違う気がする。」
子供の頃からその名を聞くたびに、違和感を感じていた。その名で正しいはずなのに、もっと相応しい名がある気がして──。
「フィー?」
コトンとテーブルの隙間にティーセットを置いたグレンが心配そうに私を見ていた。
パチリとひとつ瞬きをすると、感じていた違和感がすっと消える。
「あ……。」
「それ、読んでたのかい?」
「ほんの少し。グレンはこの本読んだの?」
「読んだよ。
聖女というものをしっかり理解しないとと思ってね。
ちなみにそれは導入編で、全部で10冊あるんだよ。
多分11冊目はフィーの事が書かれるかな?」
(プライバシーの侵害だわ!
ぜっっったい拒否してやるんだから。)
そう決意していると、グレンはソファーに置いていた大量の本達を側の床に移動させ、私の隣に座って紅茶を淹れてくれた。
アールグレイのいい香りがする。
「どうぞ。
アリスの家で出されるお茶とは天と地の差だけどね。」
そう言うグレンは、先程の赤面が嘘だったかのようにいつもの調子に戻っていた。
先程と違うのは髪型もだ。
いつも肩までつく長さをそのままにしている彼が、今は後ろに一つで結んでいる。
纏めきれなかったサイドの髪がサラサラと頬にかかっている。
「か、髪、纏めてるの初めて見た。」
いつもと違う髪型をしてるだけなのに、変に色気を感じてしまってドギマギする私に、グレンはニヤリと笑い、
「似合う?」
と小首を傾げながら少し私に顔を近づけて言った。
(これ、ぜっったい揶揄われてる!)
そう分かっているのに、顔が赤くなってしまう自分を内心ボコボコにしながら、半パニック状態で
「──っ!に、似合ってるよ!
私はこっちの方が好き!」
と勢い任せに言ってしまい、ハッとした時には全ての言葉を音にした後だった。
「あ、ちが、いや違わないけど、その、えっと…」
何か言わなくてはと思うが、弁解の言葉は出てこない。
何も言わないグレンをちらりと見ると、隣で頭を抱えて唸っている。
不意に見えた耳が赤くなっているのを見ると、ささやかな達成感を覚えた。
(揶揄われた反撃成功?
いや、私のダメージも大き過ぎて痛みわけだわ……)
心を落ち着かせるために淹れてくれた紅茶を飲んだ。
──うん、美味しい。
そうしていると隣から大きな溜息が聞こえた。
「はぁぁぁ……。フィーはずるいよ。」
チラリと私をうらめしそうに見ながら言うグレンに、
「先に揶揄ってきたのはグレンでしょ?」
グレンはむぅ……と唸り、私の頬にかかっている髪の毛を手に取りそのまま指で頬を撫でながら耳にかけた。
バクバクと心臓の音がうるさい。
「──うん。そうなんだけどね。
でも、やっぱりフィーはずるいと思う。」
そう言いながら困ったように笑うグレンに、私は内心首を傾げつつ、赤い顔を隠すようにカップに残った紅茶を飲み干した。
ここから、少し甘さを出しつつ、フィーネの問題を解決していきたい!頑張れフィーネ!頑張れグレン!
続きがよみたい!面白い!と思って頂けたら高評価、ブックマークよろしくお願いします!作者大歓喜します!




