19 魔術の訓練
今日からとうとう魔術の訓練が始まる。
昨日まで、毎朝ランニングをして、リオと体術の訓練をしたり、騎士達に剣の使い方も教えてもらったり、ラウール様の執務を手伝ったりと忙しい日々を送っていた。
昨日の夜、グレンが公爵邸に戻ってきて満面の笑みで言ったのだ。
「やる事ぜーんぶ終わらせてきたよ!
フィー、明日から魔術の訓練を始めよう。」
♢♢♢♢♢♢♢
「あぁ……緊張する。胃が痛いぃ……」
リオに髪を結ってもらいながら、ボヤく私にリオは、
「ではグレンから逃げますか?お手伝いしますよ?」
とクスクス笑いながら言った。
「……結構です。」
そう。逃げても何もならない。
私がこの障害を取り除くのは必要不可欠だ。
だけど……。
「それはそれとして、緊張するよ……。
何も解決しなかったらどうしよう。
何か糸口が見えたらいいんだけど……。」
今日は一つに緩く編み込みをするようだ。
リオはとても可愛い花の髪留めを持ちながら編み込み中だ。
「グレンは、良くも悪くも天才です。
解決すると思いますよ。」
「そっか。
確かにグレンは今代最強の天才魔術師様だもんね!
ん?……良くも悪くも?」
変なワードに引っかかり聞き返すが、それに対する返答はない。
その時、ドアがノックされグレンが入ってきた。
「フィー、準備はでき……、は?」
途中で言葉が不自然に止まったので疑問に思い、扉の方を向こうとするが、
「フィーネ様、じっとして下さいね。」
とリオに言われては動きようがなく、グレンを見る事が出来ない。
「えっと、どうしたの?グレン?」
そう聞くと、
「なんで……、いや、……リオは、器用だね?」
といった返答が返ってきた。
「そう!毎日、違う髪型にしてくれるの!
なんなら使用人より細かいんだよ。
最初は緊張してたけど、ちょっと慣れてきたし、可愛くしてくれるから嬉しくって!」
「毎日……。」
そう反復するグレンに、首を傾けそうになったが、リオにじっとしてと言われたのを思い出して、大人しくする。
ふと、くっくっと笑う声が後ろから聞こえてきた。
「リオ?」
「いえ、グレンは本当に良くも悪くも天才だと思いまして。
さぁ、出来ましたよ。」
そう言いながら私の横に立ち、サイドに落ちていた髪をそっと掬い上げ、耳にかけた。
そして内緒話をするように口を耳に近づけて言った。
「──あまり慣れすぎないで下さいね?」
「ひぃっ!」
私はがばっと耳に手を当て仰け反ると、クスクス笑っているリオを睨んだ。
「また揶揄われた……!
もう、グレン!行こう!
リオ!髪ありがとう!」
顔が真っ赤になっているのを自覚しながら、グレンを引っ張って魔術の訓練に行くのだった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
ずんずん歩いていると、ようやく顔の熱がおさまってきた。
「……フィー!ストップ!」
グレンに繋いだ手をぐっと引っ張られ、私はたたらを踏んだ。
「あ!ごめん、手!勝手に!」
無意識に繋いでしまっていた手を離そうとしたが、グレンにぎゅっと握られてしまい、離せない。
「えっと、グレン?」
じっと私を見るグレンが何故か元気がないように思えた。
「元気ないね。体調悪かったりする?
私の訓練の為にスケジュール詰めてたんだよね?
今日は休んだ方がいいんじゃないかな……」
そう言うとグレンは繋いだ手にぐっと力を入れて、自分の方に引き寄せた。
グレンとの距離は歩幅1歩分になり、その近さに緊張する。
「……大丈夫だよ。
それより、フィーはどこに行くつもりだったんだい?」
「んん?あれ?訓練場じゃないの?」
そう答えると、ははっと笑われた。
「行くのは魔塔だよ。
魔術について何かやるなら魔塔が一番だからね。
あっちは設備も文献も揃ってる。」
「魔塔!?……でもどうやって?」
魔塔までは公爵家から王城を挟んで反対側の王都の端だ。
馬車で1時間はかかる場所にある。
行けないことはないだろうが、往復2時間、襲撃のリスクを考えると難しいだろう。
首を傾げ、グレンを見ればフッと笑い魔術を展開しながら、
「僕を誰だと思ってるんだい?」
「え?わっ!」
そう得意気に言うと、繋いだ手を再度引っ張り、残りの一歩をゼロにした。
私を腕に抱えたグレンは魔導陣を展開すると、銀の魔力が周りを支配する。
(そうか、転移魔術か)
「離れないようにしっかり僕に捕まってて。」
そう言われたので慌ててグレンの着ている紺色のローブを掴んだ。
魔術が発動する瞬間、私の背中回されたグレンの手に、グッと力が入った気がした。
「え?」
驚きグレンを見ようとしたが、キラキラと周りを魔力に照らされ、影になって表情がよく見えない。
ただ、やっぱり少し元気がないように思えた。
(さっきは大丈夫だって言ってたけど、やっぱりなんか、あったのかな?)
そう思った瞬間、魔導陣が私たちを飲み込んだ。




