18 ハイボール
ブラウンを基調とした室内に、女性らしい華やかな調度品。
所々にサファイアブルーがあしらわれている物が置いてあるのはやはりクリス殿下を意識してのことか。
その室内のキングサイズの大きなベッドに、アリスは淡いブルーのネグリジェ、私は白のネグリジェを着て座っている。
サイドテーブルにはルイボスティーと、先程食べ損ねたアップルタルト、クッキーにマカロンがお洒落に置かれていた。
「本当ならビールとかチューハイがあれば最高でしたのに。」
ルイボスティーを飲みながらぼやくアリスに同意しながら、
「私ハイボールが飲みたい。焼き鳥食べたい。梅水晶も。」
とアップルタルトを食べながら呟く私。
完全にアラサー女子の会話だ。可愛くない。
顔を見合わせた私達は、ふふふっと笑い合った。
「やっとゆっくりフィーネと話せますわ……。
やっとですわ!」
「あはは。なんかバタバタしてたからねぇ」
「さて、まずは自己紹介しますわ。
前世の名前は「はるか」
26歳で小学校の先生でしたの。
ジャンルはヒロイン系メインで、悪役令嬢系、育児系も読んでましたわ。」
「へぇ!先生だったのね!
私は前世の名前が「さくら」
25歳の普通の会社員だったよ。
ジャンルは悪役令嬢系メインで、ヒロイン系はあまり読まなかったなぁ。
ファンタジーだけじゃなくて推理系とかホラーもよく読んでた。基本雑食なの。」
と、アリスに続けて言った。
「まぁ。ヒロイン系はどうして読みませんの?」
「うーん、どうして、かぁ。
ヒロインが嫌いとかじゃなくてね、私悪役令嬢が好きだから。
そっちメインの話を進んで読んじゃうんだよね。
悪役令嬢、カッコいいじゃない?
凛として、真っ直ぐで、気高くて。
たまに愚かな所があるとグッとくるのよ。」
「私はヒロインが好きよ。可愛いし、見てたら笑顔になるもの。
私が悪役令嬢に転生したと分かった時はそれはそれは絶望でしたわ。」
「あ、それは私もそう。
何で悪役令嬢じゃないの!?
ってちょっと絶望してた。」
あははは。と笑い合う。
と、アリスが真面目な顔で言った。
「初日の夜、ごめんなさいね。
私も前世を思い出したその日はパニックと記憶の整理で泣いたり喚いたりしましたの。
まだ5歳でキャパが少なかったのもあるけれど。
だから絶対フィーネもそういう時間が必要だと思ってあの人達には念を押したつもりだったのだけれど……。」
はぁ。と溜息をつき、しゅんとするアリスに、
「ううん、あの状況じゃ、私の監視は必要不可欠だったから。仕方ないよ。」
と言い、アリスの頭を撫でた。
アリスは頬をピンクにして、プイッと明後日の方を向くと
「私の方が年上ですのに……。」
と悔しそうにボヤいた。
少し冷めてしまったルイボスティーを飲むと、ふとアリスのネグリジェに目が留まる。
「アリス、そのネグリジェって、殿下の推し色?」
「ゴホッ!ゴホッ……な!!?
なに言いますの!?いきなり!」
咽せたアリスの背を撫でながら、ニヤニヤしながらアリスの顔を見る。
「いやだって、薄いけどブルーだし。
なんならこの部屋至る所にサファイアブルーが……。」
アリスは顔が真っ赤になって、口をパクパクさせていた。
何か言いたいのだろうが音になっていないのがまた可愛い。
「ふぅん。なるほどねぇ、相思相愛、いいねぇ。
殿下の部屋にもアリスの色が入ってるのかなぁ?」
そう言うと、アリスが私の背中をバシバシ叩いてきた。
淑女にあるまじき行為だ。
可愛い。
(ちょっとからかいすぎたかな)
マカロンを口に入れながらアリスが落ち着くのを待つ。
少し疲れた様子のアリス様が、マカロンを一口齧った。
「はぁ……。もう、私のことはいいんですのよ。
フィーネはどうなんですの?」
首を傾げながら私に聞く。
(マカロンとアリス様。
うーん、この世界に写真があればいいのに)
「んー?私がどう、ってなにが?」
「す、好きな方とか、いらっしゃいませんの?」
「アリスに、リオに、グレンに、クリス殿下に、ラウール様かな。」
「それは、友達としての『好きな人』ですわ!
じゃなくて、恋愛対象としての『好きな人』ですわ!」
ぱちぱちぱちと瞬きをして、私は首を傾げた。
「あー、それは、いない、かな」
「本当に!?よく考えて下さいませ。」
「うーん。
今はさ、アリス達と友達になれて幸せいっぱいだし、それにやらなきゃいけない事もたくさんあるし。
恋愛どころじゃないんだよ。
そもそも、私前世から合わせても恋ってした事なくて。
本の中の、知識でしか分からないんだよね。」
「恋愛経験ないんですの?」
「そう。しかも男友達っていうのも初めて。
だから男の人の距離感も分かんないの……。
──リオが最近ね、毎朝私のヘアアレンジするのよ。
距離近いし、指が当たるし生きた心地しなくて……。
あれ、男友達の距離感として普通なの?」
お泊まり会で相談しようと思ってた事を聞いてみる。
「……ヘアアレンジ。リオが?
……あー、ふつう、ですわ、多分。」
「普通なの?そうなんだ…」
(そっかぁ。ならこのままやってもらおうか……。緊張するんだよなぁ。
まぁ、そのうち慣れるかな)
「アリスに相談して良かったよ!
また何かあったら聞いてくれる?」
アリスはそう言った私の手を取り、少し興奮した様子で、
「ええ!もちろん!何かあったらすぐに!
お話ししてくださいませ!ええ!すぐに!」
身を乗り出していうアリスに困惑しながら、これだけは聞きたかった事をアリスに問いかけた。
「アリス、殿下とのエピあるよね?ね?
沢山聞かせて!」
この後夜遅くまでガールズトークは盛り上がり、翌日、目の下にうっすらとクマを作った令嬢二人が、必死に欠伸を噛み殺しながら一日を過ごすことになるのだった。
おまけ
「クリス様!聞いてくださいませ!リオが!フィーネに可愛いと言ってましたわ!それで、毎朝フィーネの、髪を!」
「へぇ…リオやるじゃないか。もう隠そうともしないんだね。そうだアリス、私もアリスの髪を弄ってもいいかい?」
みたいなのも書きたかったです。




