16 怪しい
Side:アリス
(なんだか、リオとグレンが変ですわ)
フィーネが眠りから覚めて暫く、私は他の家門の令嬢達とのお茶会に出席していた。
以前から決まっていた茶会で、この国の公爵令嬢として欠席などできる筈もなく、泣く泣く家を空けていたのだが。
昨日、久しぶりに少し時間が空いたので、フィーネと、リオ、グレンと会ってお茶をしていた。
その時の雰囲気が少し前と違っていた事に疑問を持ったのだ。
(私がいない間に絶対何かありましたわね?)
前世から『ヒロイン』との恋物語を沢山読んできた。
それこそ逆ハーや、一途なもの、最初は冷遇されていたが後から溺愛系まで山程読んでいたのだ。
その自分の知識のレーダーに、ビビッと引っかかっている。
「怪しいですわ。」
そう言うと、目の前で執務をしていたお兄様が反応した。
「何がだ?」
私は朴念仁の兄に、溜息をついた。
「お兄様はずっとこの屋敷にいましたのに、気付きませんの!?
リオとグレンのことですわ!
何か雰囲気が変とは思いません?」
お兄様は実務を一旦止め、休憩にする事にしたらしく使用人に紅茶を二人分運ばせた。
「いや、リオは一昨日会ったが騎士団の問題点を指摘して改善を行ってくれると言っていたな。
特に変わった様子は無かったが。
グレンは相変わらず魔塔との往復だ。
暫く顔を合わせてはいないな。」
用意された香りの高い紅茶を上品に飲みながら、そう言う兄に異を唱えた。
「違いますのよ、お兄様。
アリスとの間で、二人に何かあった気がしますの!」
「何かとは?」
首を捻りながらそう言うお兄様に、この朴念仁!と心の中で罵りながら、
「分からないからこうして聞いているのですわ!」
と言う。
「ふむ。これを飲んだら様子を見に行くか。
暫く執務室に篭りきりで屋敷の様子に気を配っていなかったからな。
何か問題が起きたとは聞いていないが、少し見回ってみよう。
変だと確信すれば本人達に直接聞いてみれば良い。」
そう結論付けたお兄様に、直接聞くのはデリカシーにかけるのでは…と思いつつ、お兄様ならうまく言ってくれるだろうと同意してちょうど良い温度になった紅茶に口をつける。
「アリスは昔から興奮すると幼くなって可愛いな。」
とほざく兄を恥ずかしさでキッと睨みながら、フィーネの事を考えた。
同郷(日本)でおそらく同年代の、同じような趣味を持っていたこの世界で初めての大親友。
(『大親友』は私が勝手に言っていますけれど、おそらくフィーネは親友とは思ってくれている筈ですわ)
一番最初にしたお茶会、とても楽しかったのだ。
公爵令嬢として、普段の茶会は常に淑女然として緊張感を持って行っている。
下手な振る舞いで足を引っ張られないよう、次期王妃としての立ち振る舞いを意識していた。
だが、フィーネとは『公爵令嬢』でも『次期王妃』でもなく、ただの『アリス』として接する事ができる。
それが気楽で、楽しかった。
あの後の事がなければもっと色んな話をしたかったし、もっとお互いの事を知り合いたかったのだ。
それを。
(あのクソ男爵め)
普段は令嬢として絶対言わない罵詈雑言で罵る。
紅茶をまた一口飲み、心を落ち着けると、リオとグレンの事を考えた。
(リオはなんだか、フィーネに対する接し方が少し、いえ大分甘い気がするのですわ。
対してグレンは何か遠慮しているような、戸惑っているような感じですわね。
そしてフィーネはいつも通り何も変わらない、可愛くかっこいいフィーネでしたわ。
という事は)
「やはりフラグが立っていますのかしら?」
思わずそう呟くと、お兄様が
「ふらぐ?とはなんだ?」
と聞いてくるが、説明が面倒だし朴念仁には分かりっこないのでスルーだ。
「さて、お兄様、行きますわよ!」
「私はまだ飲んでる途中なのだが。」
そう溜息をつきつつも苦笑いで使用人にティーセットを片付けるよう指示し、私に続いて立ち上がった。この兄は私に甘々なのだ。
フィーネを探すために屋敷を歩いていると、前からグレンがやって来た。
「グレン、戻っていたのか?」
お兄様が尋ねると
「うん、まぁまた魔塔に行かなきゃいけないんだけどね。
新学期の研究の準備もあるし、フィーとの魔術の訓練が始まる前に諸々終わらせておこうと思って。」
グレンも魔塔に最高学府の研究室の準備に忙しいらしく、フィーネの魔術の訓練は、1週間後から始まる。
じっとグレンを見る私に、グレンが気づき話しかけた。
「?どうかしたかい?アリス?」
「忙しいのにわざわざ戻ったのはフィーネの様子を見に来る為かしら?」
そう聞くと、私から不自然にサッと目を逸らし言った。
「っ、そうだね、でも邪魔になりそうだったから、魔塔に戻るところだよ。」
「邪魔?フィーネは何をやっているんだ?」
「あれ?報告ないの?
フィー、今リオと体術の訓練してるんだよ。
少しでも強くなりたいんだってさ。
今訓練場にいるよ?」
「は!?いや、リオから騎士団を鍛える旨の報告は受けたが
……フィーネの訓練は、聞いていないが?」
「えー?フィーは、
『ラウール様には(屋敷で好きなように過ごしていいって)許可をもらってるから』
って言ってたよ?」
「あんの!無駄知恵の働くお転婆聖女が!」
お兄様がそう怒っているが、私は別の所に意識を向けていた。
リオとの特訓。二人の時間。
……もしかして、フラグがそこでたったのですわね!?
リオは影ですし他者分析も自己分析もお手のものですもの。
となると、グレンは?
怒りが収まったのかお兄様が、
「グレン、お前寂しいのか。」
と言った。
「は…?」
きょとんとお兄様見るグレンを私も見る。
「だから。フィーネとリオが急に仲良くなって寂しくなったのかと言っているんだ。
元気がないのはそのせいか?」
それを聞いたグレンは顎に手を当て視線を逸らして何かを考えているようだった。
(あ、なんかこれはまずい気がしますわ……)
「全く。馬鹿真面目だな。
フィーネがリオと仲を深めたとしてもだ。
グレン、お前もこれから同じようにフィーネと仲を深めればいい。
それと俺たちは友だろう?
何かあれば相談しろ。
あの時のように、無駄に離れていくなよ。」
とグレンの肩にポンと手を置いた。
グレンは、
「あ、あぁ。そうだね。」
と言いながらも、
「大事な友達を取られて寂しかったのか……?
うわぁ、この歳になってそれは恥ずかしいでしょ……」
とぶつぶつ言っている。
(え、え?待ってちょうだい?
友達!?それっ!違いますわ!)
「あー、感謝するよ、ラウール。
今度はちゃんと相談する。」
とお兄様と笑い合うグレン。
対する私は蒼白だ。
(お兄様!言い方──!)
ここに兄を連れて来た自分を恨み、膝から崩れ落ちそうな私に気付いたお兄様が、こちらを心配そうに見る。
「どうした?アリス。次はフィーネとリオのところへ行くんだろう?疲れたなら抱っこしていくか?」
そうほざく兄お兄様に、
「お兄様のおばか!!」
と叫ぶのだった。




