120 やられたらやり返す
「さて!じゃぁ、始めようか。」
私は努めて明るくそう言うと、和やかだった雰囲気がピンと張り詰めたような空気になった。
私はそれに苦笑すると、手を少し上に上げてネロと目線を合わせた。
「ピィちゃん、私、自分からリリスを呼んだことはないの。
だから、もしも失敗したらごめんね。」
「──いいのよ。
簡単に出来るものだとは思ってないのよ。」
「まぁ、拒否なんていうのは許さないけどね。」
そうニヤリと勝気に笑うと、ピィちゃんは呆れたように言った。
「フィーネは負けず嫌いだわね。」
「ふふっ。
──私、『やられたらやり返す』が信条なの。」
「だからといって無茶をしてはいけませんよ?
──あぁ、もし戻るのが遅ければ、明日朝昼晩とトマトのフルコースにしてもらいましょうか。」
リオは、いつもの笑みに少しばかり不安を覗かせると、ふといいことを思い出したかのようにふわっと笑ってそう言った。
「うぇ……。それ、最悪。」
リオは、私が顔を歪ませて心底嫌そうにしたのが可笑しかったのか、耳元のタッセルピアスをシャラと揺らしクスクスと笑いながら頭を撫でた。
ネロは、トマトは美容にいいのよ?と言いながら私の手から離れリオの肩に止まった。
「大丈夫だ、フィーネ。
王宮の料理人達は優秀だからな。
絶品トマト料理の数々が出てくるだろうさ。
──あぁ、だが美味しかったら罰にはならないな。
一品は必ず生のトマトを出そう。」
うんうんと頷きながら、リオの援護射撃をする殿下に私は顔を引き攣らせる。
「『お兄様』なら、代わりに食べてあげるっていう一言があって然るべきでは!?」
「だから……都合のいい時だけ『お兄様』と呼ぶんじゃないと前も言っただろう。
すぐに戻ってくればいいだけの話だ。違うか?」
「うぅ……。まぁ、それはそうなんですが。」
「フィーネ、明日は女子会なのですわ。
料理人達に、美味しいお菓子を沢山作るように頼んでいますの。
流石にトマトのお菓子は嫌ですわよ。」
「うん。それは私も絶対嫌。すぐに戻ってくるね!」
「フィーネ、無事に戻ってきたら言いた──、」
「お兄様!ストップですわ!!
その先は言ってはダメです!
フラグダメ、絶対!ですわ!」
アリスは慌てて彼の口に両手を当てて塞ぎ、ラウール様の言葉を遮った。
「アリス、ナイス!
ラウール様は前科がありますからね……。
なんでそう何度もフラグを立てようとするんですか。」
私は溜息をつくと、ラウール様を睨めつけた。
彼はアリスの手を口元から退けると、私達の会話がよく分かっていないようで眉根を寄せ首を傾げた。
「ふらぐとは何だ。先程の言葉を言ってはいけないのか?」
「そうですわ!
帰ってきたら言うんじゃなくて今、言ってくださいませ!」
「そうか。だが、ここで説教をするわけにはいかないだろう?」
「──へ。」
私はその言葉に顔を引き攣らせた。
「あら。お説教、ですのね。」
「どうやらフィーネは、一つ一つ間違いを正していかないといけないようだからな。
大丈夫だぞ?
明日も予定が詰まっているしそんなに長くはない。
──素直に聞けばな。
安心して戻ってこい。」
「ひぃっ!」
眼鏡を上げながら笑みを浮かべるラウール様の後ろに鬼が見え、私は思わず隣のゼロの後ろに隠れた。
「ははっ。ラウールの説教はしつこくて嫌だよねぇ。」
分かるよ分かるよ、とうんうん頷くグレンにラウール様の鬼のような視線がとぶ。
「ほぉう。そうかそうか。
そんなにグレンも説教を受けたいのか。
それならお前もフィーネと一緒に執務室へ来い。」
「うわ、しまった。
失言だったなぁ。
……いやぁ。
いくらフィーと一緒でも、それはちょっと嫌かな。」
私はゼロの後ろでニヤリと笑い、グレンの前に行った。
そして、キュッとグレンの服の裾を引っ張ってわざと上目遣いでコテンと首を傾げた。
「グレン、一緒に行ってくれないの?」
「──っ!フィー、それは、ずるくないかい?」
珍しく赤面したグレンを見て、ゼロは呆れたように目を細めた。
「お前、色仕掛けはしねぇんじゃなかったか?」
私はニヤリとしながら、笑いを漏らした。
「ふふ。今読んでる本に、こうすると男の人は言うことを聞いてくれるって書いてあったの。
いざ、実践!ってね。」
「最悪だね、その本。帰ったら捨てよう。」
顔を引き攣らせてそう言ったグレンの目に本気の色が見えて、帰ったら速攻本を隠さないと、と思いながら目を逸らした。
「フィーネ。」
ゼロが私を呼んだ。
思いの外、真面目な声に目を見開きゼロの方を向く。
ゼロは私の前に来ると、わたしの背中に手を回し、自分の額を私の額にコツンと合わせた。
そして、私にこう宣言した。
「もしもフィーネが、リリスに消されたら。
俺は、お前の身体ごと、リリスを殺す。
そんで、その後は──言わなくても分かるな?」
私は瞳を揺らすと、そっと目をつぶった。
ゼロの覚悟が、痛いほど伝わる。
「うん。分かった。
そうならないように、ちゃんと戻ってくるね。
──待ってて。」
フッと笑った気配がした後、ゼロは一度額を離したが、すぐに私の後頭部をそっと手で引き寄せる。
おでこにふわりと柔らかい感触が触れた。
「──おまじないだ。
ちゃんと待ってるからな。
行ってこい。」
私が驚きで目を見開くと、今度こそ離れたゼロがニヤリといつものように笑い、頭をポンポンと叩いた。
私は額に手を当てながら、少し紅潮した頬をそのままに、
「──行ってきます。」
と笑ったのだった。
久々の後書き──!
ネロのを本当の意味で仲間にする為にフィーネが頑張ります!
けれど一番頑張る人たちは、待つことしか出来ないゼロ達ですね。
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