121 魔力制御
「というか、どうやってリリスを呼ぶつもりなのかしら?」
ネロがリオの肩の上で首を傾げながら私に問いかけた。
「固有能力を使おうと思って。
前にリリスに身体を使われた時、使い方が何となく分かったの。
彼女の固有能力は自分自身にも有効だと思うんだよね。」
「それは、危険じゃ、ないんですか?」
リオの瞳が不安に揺らいでいた。
ゼロは溜息をつきながらリオに答えた。
「危険じゃないわけねぇだろ。
一歩間違えりゃ廃人だぞ。」
そのゼロの言葉に、ハッと息を呑む音が彼方此方から聞こえた。
みんなは眉根を寄せ、じっと私を見ている。
私は、心配をかけてしまっているという事実に居た堪れなくなり、スッと視線をそらした。
私のその様子を非難するようにゼロが眉根を寄せて、私の額にデコピンをした。
「いたい……。」
「こいつらの不安や心配から目を逸らすな。
お前が無茶をするってことは、こういうことなんだよ。
俺だって本当ならやらせたくねぇ。
それを分かってて、お前はやるんだろ?
なら、ちゃんと受け止めろ。」
私はグッと手を握りしめると、みんなの顔をもう一度ちゃんと見た。
心配、不安、やるせなさ、恐怖、怒り。
そんな感情が心に刺さる。
みんなが私のことを大切に思ってくれているからこその感情。
それを受け取り、私は心が満たされていくのが分かった。
みんなにこんな顔をさせているのに、嬉しいなんて。
──なんて私は醜悪なのだろうか。
そう自嘲し、目をつぶって、深呼吸をする。
心を落ち着かせると、改めてみんなを見て頭を下げた。
「心配かけて、ごめんなさい。」
アリスはギュッと私に抱きついた後、私の両頬を手のひらでムニッと押しながら、頬を膨らませて言った。
「本当ですわ!フィーネは心配ばかりかけるんですもの。
でも、それがフィーネですものね。
私達が心労で早死にしてしまわないように、気をつけてくださいませ。
──けれど、もしもその無茶が限度を超えることがあるなら、みんなで囲んでお説教ですわよ?
いいですわね?」
最後の一言の声のトーンが低い。
アリスの口元は笑みを浮かべているにも関わらず、目は据わっているのが恐怖を倍増させている。
私は顔を引き攣らせて、赤べこのようにコクコクと頷いた。
ゼロはそれを見て、ふっと笑うとぽんぽんと私とアリスの頭を撫でた。
「フィーネ、制御に気をつけろ。
このチョーカーを外したら押さえてる魔力が一気に噴き出る。
おそらくは前の比じゃない。
魔力に呑まれるんじゃねぇぞ。
使う魔力は、ほんの少し。ひと匙ほどでいい。
それで無理なら諦めろ。いいな?」
「うん、わかった。」
「アリス、お前らも。もう少し離れろ。
フィーネが放つ魔力の香りに酔っちまうぞ。
グレン、ヤバそうなら自分達の周りに結界を張れよ。
ネロはこっちに来い。」
ゼロが矢継ぎ早にみんなへと指示を出す。
グレンは分かったよ、と頷くと、みんなを連れて少し離れた場所に行った。ネロはゼロの肩にとまり、少し緊張しているのか体を硬くしてゼロにしがみつくように足に力を入れていた。
目を瞑り、深く深く、深呼吸をする。
全速力で走った後のように心臓の鼓動が早い。
そして、少しだけ震える手でゆっくりとチョーカーを外した。
外したチョーカーを手の中に握りしめたその途端。
──ドクン
大きく心臓が鳴った。
カチャンという音と共に床にチョーカーが落ち、身体に力が入らずペタンと地べたに座り込んだ。
身体の中から溢れる魔力と香りが辺りに広がっていく。
パンッと小さい音がして、一つに纏めていた髪が解けて、魔力の奔流に身を任せるようにふわりふわりと空気中を踊った。
「フィーネ!制御しろ!」
そう言うゼロの声が聞こえるが、どんどん溢れてくる魔力を止めることができない。
息があがって苦しい。
(どうしよう。どうすればいいんだっけ……。
苦しい。息が、できない──)
片手で胸元をギュッと握りしめながら、地面に這いつくばる。
「──フィー!」
離れていたはずのグレンの声が聞こえて、顔を少し上げると、彼がいつのまにか私の目の前で膝をついていた。
自分に結界を張っているのか、身体の表面に薄い膜で覆われていた。
グレンは私の腕を引っぱり上げて抱きしめると、背中をゆっくりと撫でた。
「いいかい、フィー。まずはゆっくり深呼吸をするんだ。」
私はギュッとグレンの服を握りしめ、言われるままに深く息を吸う。グレンの甘いムスクの香りが、ほんの少しだけ私の中に入ってくる。その香りにぞくりと私の中が震え、もっと、もっととせがむように彼にしがみつき香りを吸った。
「うん。いい子だ。
さぁ、フィー、蛇口を想像してごらん。
開きっぱなしのそれを、少しずつ閉めていこう。
ゆっくりでいいからね。少しずつ、少しずつ。」
その穏やかな落ち着く声に従って、私はイメージした蛇口を少しずつ閉めていった。
「そう。上手だね。さすがはフィーだ。
──先生。魔力量はこれくらいかい?」
グレンが私の頭を撫でながらゼロにそう聞くと、ゼロはホッとしたように是と答えた。
「あぁ。
──さすがなのはお前だ、グレン。助かった。」
「まぁ、経験があるからね、魔力制御はお手の物さ。
正直この制御方法でいけるかは五分五分だったけどね。
──さぁ、フィー、あとは大丈夫かい?」
私は名残惜しいなと思いながら、グレンから離れてお礼を言った。
グレンが来てくれなかったら、魔力に呑まれていただろう。
「うん。ありがとう、グレン。」
グレンは微笑みながら頷くと、わたしの頭をひと撫でしてみんなの所へ戻っていった。
私は目を瞑りながら両手を胸の前でギュッと握り、もう一度深呼吸をして目を開けた。
そして、私の中の『彼女』に命令する。
「『リリス・イヴ・アスモデウス。──扉を開きなさい。』」
その言葉を放った瞬間、私の意識はあの星空の空間へと落ちていった。
自分を客観的に見て卑下するフィーネの癖は、どうにかなりませんかね。
少しずつ少しずつ、成長していく彼女を見守っていってください!
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