12
結界を張ったグレン様はこちらに戻ってきた。
結界が出来上がる寸前、アリス様が何か叫んでいたように思うが大丈夫なのだろうか?
「ごめんね、ちょっと二人きりで話がしたくてさ。アリスが淑女と部屋で二人きりなどありえませんっていうもんだから。」
そう言うとベッドの脇に腰掛けた。
私は『淑女』じゃないでしょう、アリス様…というのは置いとといて、何の話だろう?
「まずは、ごめんね。」
「…え?」
何についての謝罪なのか皆目見当もつかず、きょとんとしていると、グレン様が続けて申し訳なさそうにこう言った。
「フィーネちゃんは男爵に、気持ちを全部ぶつけたかっただろう?それを邪魔してしまったから。」
「あぁ。別に構いませんよ。むしろ止めてくださって感謝してます。あのままだともっと醜態を晒すことになってましたから。」
はは、と笑った。本当に助かったと起きてから思ったのだ。最後の方は完全に頭に血が上って余計なことを言っていたから。
「…一応言っておくけど、あの時止めたのは見苦しいとかそういうことじゃないよ。…君がまた空っぽになってしまいそうで怖かったんだよ。」
私は、目を見開きグレン様を見た。
(あぁ、学園にいた時の私の精神状態を、この人は気付いていたのか)
ふぅ…と息を吐き、
「なりませんよ、もう。」
そう言って笑った。
「あのまま、魔塔に幽閉されていたら、或いはそうなっていたのかもしれないですけど。今の私には心配してくれるアリス様も、グレン様達だっていますから。もう、あんな風にはなりません。」
「…そっか。」
そう言うとグレン様は優しく微笑んで、私の頭を撫でだした。
「あ、あの…」
「だめ?…リオには黙って撫でさせてたのに?」
「だめ、じゃないですけど…その…恥ずかしいです…」
そう言って私が手で顔を覆うと、その手をグレン様が退けて私の顔を覗き込み、少し目を見開き、クスクスと笑い出した。
「ちょ!」
「うん、真っ赤だねぇ。」
そう言われた私は恥ずかしさで更に顔が赤くなってるのを自覚しつつ、グレン様を睨む。
「グレン様のいじわる。」
ボソッとそう言うと、なぜかグレン様はパッと私から離れ、口元を手で覆い私から視線を外し、
「それは、ちょっと反則…。」
耳が赤くなっている。なぜ、グレン様が照れるのかと釈然としない。
グレン様は気を取り直すように、
「そうだ。フィーネちゃんに一つ聞きたいことがあったんだ。…学園で、他の生徒にベタベタしていたのは一人に一度きりだったろう?何で僕の所には半年もいたんだい?別に僕の事が好きなわけじゃなかったよね?」
そう私に聞いた。
(なぜ、か)
「えっと、秘密っていうのはダメ、ですね、はい。」
グレン様の圧が、話せと言ってる。
「…からです。」
「ん?」
「なまえを、呼んでくれたからです。」
ハッとグレン様が息を呑んだのが分かった。
あの時期、自分で決めた事とはいえ、精神的に少し参っていた。皆が表面上は私を聖女様と言いつつ、憐れみと蔑みの目で見ていて。私の側には誰もいない、そんな状況に心が折れそうだった。
そんな時に、次のターゲットはグレン様だと、ベンチに横になっている彼に話しかけたのだ。
「何か用かい?フィーネちゃん。」
口調は今よりも断然冷たいし、目には隠しきれない嘲りの色が浮かんでいた。だけど、この学園で初めて自分の名前を呼んでくれたのだ。
一人に一回。そう決めていたのに、気付いたら半年も彼の側に居てしまった。
そして気付いたのだ。
「グレン様、アリス様の事好きじゃないですか〜。」
そうぶっ込むと、グレン様は、目に見えて狼狽えた。
「は!?え、いや、は!?」
普段のグレン様っぽくなくて、思わず笑ってしまう。
「フィーネちゃん…!」
そう咎められたが、笑いが中々止まらない。今まで散々揶揄われたのだ、少しくらいいいだろう。
「あはははは…!ごめんなさい!ふふ。こんな動揺するなんて、思ってなくて!」
グレン様は額に手を当て項垂れていた。
「見ててバレバレでしたよ?ふふ。それを知ったから、もう行くのを終わりにしようって思ったんです。私、人様の恋の邪魔だけはしたくないんで。」
「なるほどね。」
「疑問が解消してスッキリしました?」
「うん。ねぇ、フィー。友達になろう。」
…なんて?
「え、フィー?」
「そう、フィーネだから、『フィー』。愛称だよ、僕だけの、ね。」
そう額に当てていた手で、組んだ足に頰を付くと、私の目を真っ直ぐ見て言った。
「アリスとも友達なんだろう?なら僕とも友達になって?嫌かい?」
嬉しさが込み上げた。
「すごく、嬉しいです。名前も、友達も!!」
そう言うと、グレン様はニヤッとして、
「なら、その敬語も、『様』もやめようか。』
と言った。
「いやいや。無理です!それは無理です!」
「友達なのに?それに聖女様は立場的に王族と一緒だよ?ほら、言ってごらん?」
「すごくイイ笑顔で仰られますね、さっきの仕返しです?」
「そうじゃないでしょ?」
(くっ。これ、絶対引かないやつだ)
「…グレン!…これでいい?」
若干睨みながらヤケクソで言うと、グレンはクスクス笑いながら、
「うん、よくできました。」
とまた頭を撫でた。
「そろそろ、アリスが扉を壊しそうだなぁ。」
ベッドから立ち上がりながら扉を見て言った。
パチン
指を鳴らすと銀の魔力を帯びた結界がキラキラと崩れていく。
「綺麗」
そう呟く私に、ふっとグレンが笑ったのが分かった。
「グーレーンー!!何をやってますの!?フィーネ!グレンに何もされませんでしたか!?」
お怒りのアリス様がこちらに向かってくる。
「えっと、大丈夫です!話をしただけなので。」
そう言ったがアリス様のお怒りは静まりそうにない。
「グレン!お前というやつは!アリスを宥めるのが大変だったぞ。危うく扉がなくなる所だった。」
ラウール様もお怒りだ。
「はは。ごめんごめん。」
「それで?話したいことは話せたのか?」
殿下が言うと、
「うん。友達になったんだ。ね、フィー?」
とグレンが言ったので反射的にうん!と返して気付く。
(あ。しまった)
「フィーネ!!?なぜ、私には敬語なのに、グレンにはタメ口なんですの!?ずるいですわ!私にも敬語はいりませんわ!大親友ですもの!ね!?」
(はわわ…美しいお顔が目の前に!!でも圧がすごいです、アリス様…)
「う、うん、分かった、アリス。」
圧に押されそう言うと、アリスはそれは嬉しそうに花が咲いたような満面の笑みを浮かべた。
それを見た殿下は、
「なんだ、あの笑みは!私に向けられたことはないぞ!?」とショックを受けられているし、ラウール様は、
「うん、今日もアリスは可愛いな。」
とご機嫌だ。
いつの間にか現れていたリオは、なぜか私の頭を撫でながら、グレンをじっと見て、
「友達、ですか…。」
「なんだい?」
「いえ、別に。」
とため息をつきながらグレンと話している。
「えっと。リオも私と友達になってくれる?」
そう聞くと、リオは
「ええ、もちろん。」
ふわりと笑いながら答えてくれ、嬉しくなった。
「ならば私とも友人だな。」
「では俺もだな。」
と殿下とラウール様もニヤッとしながら言った。
この世界で初めて出来た友達との幸せな日々を想像しながら、もうあの暗闇で一人になることはないのだと静かにそっと息を吐いた。
フィーネの実家編はここで完結です!
毎日よく頑張った私!
…とは言いつつ、フィーネ達の物語を書きたくてスラスラ書けてしまい。
明日からは暫く残りの公爵邸での日常を書きつつ、フィーネへの恋を自覚していくあの人や自覚して!のあの人を書きつつ、アリスのフィーネちゃんへの友愛とオタク心を書きつつ、などして神殿編へ向かいます!
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