116 側に居続けるために
「何が、最悪ですの!?
ゼフィロス!
私のフィーネに人前であんな破廉恥な事をして!
帰ったらしっかりと淑女に対する接し方を教えて差し上げますわ!」
アリスがツカツカと怒りを露わにしながら私達の前に来ると、ゼロを指差してそう宣言した。
「いや、それをいうならあんなとこにネロを隠したフィーネの方が淑女教育をやり直した方がいいんじゃねぇの?」
ゼロは、顔を引き攣らせながらアリスから視線を逸らしたが、ふと思いついたようにニヤリと笑ってそう言うと、視線を私に落とした。
「ちょっと、ゼロ!
こっちに振らないでよ!」
私は慌ててゼロを諌めるが、アリスは頬に手をあて首を傾げると、ラウール様に似た笑みを浮かべて私に恐怖の宣告をした。
「あら。元々そのつもりですわよ。
ほら、パーティの為のマナー教育をすると言いましたでしょ?
その時に、きちんとお教えしますわ。
ね?フィーネ?」
「ひぃっ!」
恐ろし過ぎて思わずゼロの服を握りしめる。
すると、いつの間にか側に来ていた殿下が片手に鳥籠を持ち、笑いながらもう一方の手で私の頭を撫でた。
「ははっ。私のアリスは完璧な淑女だからな。
しっかり学ぶといい。」
そして、ゼロとラウール様に視線をやるとスッと瞳に威厳を宿し、口を開いた。
「さて、ゼフィロス、ラウール。
1つ、王太子としてお前達に言っておきたいことがある。
フィーネも私も、常に大局を見て行動している。
……もちろん、フィーネの自己犠牲ありきの作戦立案は却下だがな。
私達も含め、これからはある程度、身を切る覚悟が必要になってくることもあるだろう。
この先の未来の為に盤上の駒を揃える段階の今、今回のようにお前達の私情を優先して私達の邪魔をすることは許さん。
──この国は、私の国だ。
誰にも壊させはしない。
その為に、お前達の力が必要なんだ。
頼むぞ、ラウール、ゼフィロス……ネロ。」
「──御意。」
ラウール様が眩しそうに殿下を見て頭を下げた。
「──妾の事も頭数に入れるなんて、リリスの子孫は欲が深いわね。
本当にリリスにそっくりなのよ。」
籠の中のネロは何故か殿下から出来るだけ距離をとるようにしながら、そう呟いた。
そして殿下は穏やかに言葉を続けた。
「──ゼフィロス、友人として一つ言わせてくれ。
お前に比べたら人間は短命だ。
だからこそ人間は、今を大切に生き、幸せな未来のために努力するんだ。
お前は過去と今を混同させすぎだ。
過去を忘れろとは言わん。
ただ、私達人間の側にいたいのなら、お前は過去に呑まれないよう努力しろ。
失うことへの恐怖に駆られて、大義を見失うなよ。」
ゼロも眩しいものを見るように目を細め、ふっと自嘲するように笑った。
「前に、フィーネとラウールに同じことを言ったんだよ。
まさか自分に返ってくるとは思わなかったな。
俺も努力しねぇとだなぁ。
──側に居続けるために。」
グッと私を抱える手に力が籠った。
ゼロの紅い瞳に決意が宿っているのを見て、心がぽかぽかと暖かくなった。
「そういえば、ピィちゃんはなんでそんな端っこにいるの?」
私は首を傾げてネロに聞いた。




