114 決着
アリスが一喝すると、火球がゼロに向かって放たれた。
ゼロは腰に回していた腕を火球に向けると同じ大きさの火球を作りぶつける。
ドンという衝撃波から守るようにゼロが体で私を覆った。
「っ!あっぶねぇ。
アリス!
お前、感情のままにぶつけてくんなよ!」
「失礼な。私の愛しいアリスはそこまで単純ではないぞ。」
気がつくと、殿下がラウール様の首元に剣を突きつけていた。
「リオ、何をしている。
フィーネの拘束を解け。
──命令だ。」
威厳溢れるその声と圧で、リオを呼び命令する。
リオは、それを聞いた瞬間すぐに動いた。
瞬き一つの間に私の前に来ると手にしている黒いダガーで拘束している蔦を切り裂く。
ゼロはそれに舌打ちをすると、グッと服の中から私の肩を掴み自分の体へ押し付けると、改めて腰に手を回し転移した。
ハッと気づくと私は空中に浮いていた。
「っ!」
「大丈夫だ。落ちやしねぇよ。足下ろしてみろ。」
私がゆっくりと足を下ろすとまるでそこに地面があるかのように安定した足場になっていた。
ホッと息をつく私に、後ろから肩口に額を乗せると痛いほどぎゅっと腕に力を入れた。
「ネロ、頼むから、消えてくれ。
フィーネはもう決めちまった。
こいつの意思は変えられねぇ。
けど……俺は、あんな思いをするのは二度とごめんなんだよ。
フィーネの身体がリリスに侵食されていったあん時の恐怖が忘れられねぇ。」
震える声が切実で、私は心がギュッと萎んだ。
だけど、ダメなのだ。
ネロは消えてはいけない。
「ゼロ!ダメなの!ピィちゃんは、これから先の──」
「分かったわよ。」
私の胸元からふわりとネロが出てきた。
「──っ!ピィちゃん!ダメ!」
「うるさいわね。
あんたはもう少し、しっかりとした欲を持つのよ。
そんな霞のようだからゼフィロスは不安なのよ。
──全く。全然リリスと似てないのね。
……フィーネは。」
私は、目を見開いた。
「ピィちゃん、名前……っ。」
「ゼフィロス、早くするのよ。
また邪魔がはいるわよ?」
「── 結べ。『業華の血剣』」
ゼロが私の肩から手を退け、剣を持つとネロに振りかぶった。
私の背中に密着しているゼロの表情は見えない。
けれどきっと、痛々しい顔をしてるのが簡単に想像できて、そんな決断をさせてしまう自分の愚かさと、それでも曲げられない自らの意思に辟易する。
ネロはフッと笑うと硬く目をつぶったのを見て、私は咄嗟に叫んだ。
「──グレン!お願い!!」
グレンは私の前に転移してくると、すぐさまネロに魔術で結界をはりつつ、ゼロの剣を手のひらに展開した魔術で受け止めた。
バチバチと魔力が弾ける。
グレンは顔を歪ませながらも受けきるが、ゼロの力の方が強いのかググッと押されていた。
ゼロが苛立ちを隠すことなくグレンに怒鳴った。
「何度もっ!邪魔すんじゃねぇよ!
分かっててやってんのか!?
こいつの味方をするってことは……」
「分かってるよ!!
けど、仕方ないじゃないか!
お願いを、されてしまったからねっ!
──フィー!」
そう言い返したグレンは困ったように笑いながら、私に手を伸ばした。
その手を私が握ると、彼もギュッと握り返し、ゼロの方を見てニヤリと笑った。
「ほら、先生。
早く行かないとフィーが落ちちゃうよ?」
その言葉を聞き、瞬きをした次の瞬間、私はさらに遙か上空に転移させられていた。
重力から切り離されたかのような浮遊感のあと、一瞬の静寂を置いて落下が始まった。
「──っ!きゃぁぁぁ!」
(私が呼んだらゼロの斜め上に転移させてって言ったけど!
言ったけどさぁ!高すぎだよ!グレンの馬鹿!)
落下の恐怖と戦いながら、それでも絶望しないのは必ずゼロが来るという安心感があるからだ。
(あぁ、ほら、来てくれた)
少し下にゼロが受け止められるように両手を伸ばしているのが見えると、落下速度が収まりふわりとゆっくり落ちていく。
ゼロの腕の中にポスっと収まると、私はゼロの首に両腕を回しぎゅっと抱きついた。
「あぁ……くそ。捕まっちまった。」
ゼロは、落胆したように、けれど少しだけホッとしたかのようにそう呟いた。




