113 失策
一瞬のうちにリオがゼロに肉薄し、魔術を纏った手のひらでゼロに触れようとしていた。
逃げ場を失わせるように、グレンが2人を炎の壁でぐるりと囲い込む。
リオの猛追を避けながら、諭すようにゼロは言った。
「──グレン、リオ。
やめろ。
お前らも、フィーネを失いたくねぇだろ?
俺がネロを消さねぇと、フィーネが消えちまうかもしれねぇんだよ。」
そんな言葉が聞こえ、私は慌てて2人に声をかける。
「──っ!
そんなことにはならないよ!大丈夫!
私はそうなるつもりはないってば!」
「お前、抑えてる魔力を解放してリリスを呼ぶつもりだろ。
あいつの強い魂がお前を消し去るリスクを、お前が考えてないわけないよな?」
ゼロは私を睨みながらそう言った。
やはり見抜かれていたのかと、その視線を受けながらふぅと息を吐く。
ゼロのその言葉に、リオとグレンは攻撃の手を止めてしまった。
私は、スッと2人を睥睨する。
「……グレン、リオ。なんで止まるの?
私の味方なんだよね?」
「やめてやれ。
こいつらを追い詰めんなよ。」
溜息をついて2人を庇うゼロをキッと睨みつけた。
「そもそも、私はその時になったら、ちゃんと説明しようと思ってたんだよ。
それなのに、ゼロも、ラウール様も、ネロを消そうと先に動いちゃうから……」
「当たり前だろう。」
背後からラウール様の、静かな、それでいて怒りが籠った声が聞こえたかと思うと、グッと抱きすくめられた。
離れようともがくが、腕の力が強くびくともしない。
出来るだけ、ネロを潰さないように抱え込んだ。
「なるほどな。
ゼロはフィーネの無茶を予測して、その原因を消そうとしていたわけか。てっきり、未来の懸念を消すための決断だと思ったが。」
「いや、そっちもある。
ネロのリリスに対する執着はよく分かってるからな。
あの頑なな様子を見て、フィーネが無理だと判断したと同時に、俺も決断した。
まぁ、単純にネロの言葉に殺意を抱いたっつーのもあるが。」
「私は、そんなにやわじゃない。
ほんの少し、リリスに体を貸すだけだよ。」
「リリスに、会えるの?」
腕の中のネロがポツリと呟いた。
「うん。会わせてあげる。
っていっても、初めてやるから出来るかはわからないんだけどね。
最善は尽くすよ。
──私のせいだから。
本当ならネロは、リリスと一緒にいられたはずだったもんね。
ごめんね。
私は消えたくなかったの。
もっとみんなと一緒にいたかった。
謝っても謝りきれないけど。
せめて、会ってほしいの。
──私達の未来のためにも。」
「俺たちがそれをさせると思うか?
── 絡めとれ。『緑の抱擁』」
低く冷徹な声が耳底に響く。
ラウール様が私から離れた瞬間、足元からドッと蔦が私に絡みついた。
腕に絡みついた蔦はネロを抱え込んでいる私の腕をググッと広げていく。
「──っ!ピィちゃん!私の服の中に入って!」
「っ!えぇ!」
スルッと胸元から服の中に潜り込んだネロにホッと息を吐く。
私の正面には困ったように顔を引き攣らせたラウール様がいた。
「フィーネ……。それは、狡いな。」
「ふふ。これで手は出せないでしょ?
ラウール様はいいお兄様だもん。」
完全に蔦で絡めとられてしまったが、とりあえずネロを奪われることはない。
(──どうするか。
グレンとリオは、私につくか悩んでるだろうな。
ラウール様は聞く耳を持たないし。ゼロは……!)
ハッと気付くとゼロが後ろから私の腰を左腕で抱きしめた。
耳元でゼロの声が響く。
いつもより低く、覚悟のこもった声。
──まずい。
「失策に気づいたか?
ラウールには無理だろうが、俺には出来るからなぁ。
先にグレンとリオを説得するべきだったな。
まぁ、今のあいつらはお前の『大丈夫』より俺の言葉を信じるだろうが。」
スルッと私の胸元に手を入れる。
服の中でゼロの手がネロを探す。
ネロがゼロの手を避けるために動くと羽が肌に擦れてくすぐったい。
「──っ!ひゃぁっ!ゼロ!ちょっとは躊躇してよっ!馬鹿っ!んっぅ。」
「ネロ、逃げんな!
さっきは覚悟決めた顔してたろうが!
フィーネの言葉に希望を見出してんじゃねぇよ!」
その時、私の女神の一喝が場を制した。
「何を!してらっしゃるの!ゼフィロス!お兄様!
破廉恥ですわ!!」




