112 200年のその先
side:ネロ
「200年だ。」
「──?」
「お前らと別れて100年。
人間界に来てお前らが死んだことを知ってからさらに100年。
この200年、俺は孤独だった。
魔界での100年はまだよかったさ。
あっちには他に知り合いもいたしな。
それに、また会えると馬鹿みたいに信じてた。
──最後の100年は地獄だった。
お前らは死んじまってたし、いくら待ってもリリスの生まれ変わりには会えない。
そもそも、俺が生きてる間に生まれ変わるか確証もなかった。
それでも、会いたかったから待ったんだ。
1人で、地獄のような日々を過ごした。」
その時のことを思い出しているのか、ゼフィロスは眉根を寄せ苦しそうだった。
「なんで……。
それならなんで、リリスを選ばなかったのよ!」
「あの地獄を救ってくれたのは、リリスじゃねぇ。
フィーネだ。
俺の孤独に気付き、我慢するなと言ってくれたフィーネなんだよ。
お前、昔言ったよな。
愛しているのに、なぜ求めないのか。
何を犠牲にしてもかまわないと思えってさ。
俺はリリスを愛していたが、そこまで想うことは出来なかった。
あいつが幸せなら、それでいいと納得出来てたんだ。」
「今は……彼女に対しては違うというの?」
ゼフィロスはフッと幸せそうに笑った。
その瞳には固い決意がこもっていた。
「違うな。
俺は、俺の手でフィーネを幸せにしたいと思う。
誰にも渡したくねぇし、なによりフィーネを失いたくない。
あいつを失わないためなら何を犠牲にしてもいい。
フィーネを選んだあの日に決めたからな。
この『世界』があいつが消えることを望んだら、俺はこの『世界』を壊して消すってな。
──やっと手に入れた俺の幸せを奪わせはしない。
悪いな、ネロ。
お前がいると、フィーネが消えちまうかもしれねぇ。
不穏分子は消すのが定石だ。」
チラリと紅い瞳に懺悔の色が見えた。
分かってしまった。
ゼフィロスは、妾が眠っていた約150年という長い時間を『生きて』いた。
妾達と別れ、孤独と苦しみと悲しみと恐怖と共にあった200年の先。
今彼が手に入れた幸せが、あの希薄な欲をもつ彼女だというなら、その幸せもいつ失うか分からない恐怖と共にある。
指の隙間から零れ落ちそうな彼女を、必死に繋ぎ止める彼の欲望が、妾を殺すのだ。
振り上げられた剣を確認すると、妾はゆっくりと目を閉じた。
──リリスに、会いたかった。
──ゼフィロスに頭を撫でてほしかった。
──グリムにもっと話を聞いてほしかった。
──ティナとは会ったらまた喧嘩をするだろうけど、ほんの少しだけ、会いたい。
──消えたら愛しい彼に逢えるかしら。
目の端から涙が溢れた。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
転移をすると、目の前の結界の中でゼロが剣を振り上げていた。
ネロは地面に縫い付けられているように動かない。
「──っ!ダメ──!!!」
グレンが結界に触れてそれを消したと同時に、ネロに結界をはって剣を防ぎ、その隙にリオがネロを回収した。
そして私達の周りに結界をはる。
「──チッ。喋りすぎたか。
ラウールは、足止めも出来ねぇのかよ。
──あぁ、あっちもやり合ってんのか。」
ゼロは髪を掻き上げながら舌打ちをすると、ラウール様の方を見て眉根を寄せた。
私はグレンの腕から離れると、つられてそちらに視線を向ける。アリスと殿下が何か沢山の人と戦っているのが見えた。
「なんで。」
リオの手の中でポツリと呟くネロは、先程までの勢いはなく、起き上がる気力もないようだった。
「ネ……えっと、ピィちゃん。怪我はない?」
「なんなのよ、そのふざけた呼び名は……。」
「いやだって、ピィちゃんが名前呼ぶなって言うから。
呼び名がないと不便だし。
それで、怪我は?」
「──っ!ムカつくわね!怪我はないわよ!
なんで、助けるのよ!
……もう、いいのよ。
ゼフィロスの願いは、欲望は痛いほど分かったから。
もう、消えてあげるのよ。
貴女もその方がいいでしょ?
妾をゼフィロスに渡すのよ。」
言葉を発しながら段々と意気消沈していくネロに、私は苦笑してそっと頭を指で撫でた。
指先に暖かな体温を感じる。
「嫌。
私は、ピィちゃんに生きてもらわないと困るの。
ピィちゃんの願いの全部は叶えられない。
だって私はまだみんなと一緒に生きていたいって思うから。
でも、出来る限りの事はする。
『会いたい人』に会えないのは辛いもんね。
ゼロは、私が止める。
ちゃんと話して、『納得して』もらわなきゃ。
グレン。
耳貸して。」
私がグレンに耳打ちをすると、グレンは目を見張り眉根を寄せた。
「──フィー、それは……。」
「大丈夫。お願い。」
私は真っ直ぐグレンを見ると、グレンは大きく溜息をついて頷いた。
「はぁ……。分かったよ。
リオ、行こうか。
先生を、止めよう。」
リオも大きな溜息をつくと、ネロを私の手に渡した。
そして私の頭をふわりと撫でた。
「また、無茶をするんですね?
まったく、フィーネ様はいつもいつも。
──師匠は、待ってくれているようですね。
相変わらず余裕で、ムカつきますねぇ。」
「まぁ、先生だしね。
けど、いつもより余裕はないみたいだよ。
ほら、意識がフィーにいってる。」
リオはスッと目を開けるとニヤッと笑い、拳をグレンの方に向けた。
「行きましょう。リベンジです。」
「ふふ。何度目かのね。」
グレンがその拳に自らの拳をコツンと合わせると、それを合図に2人がその場から立ち消えた。




