110 傀儡
side:ラウール
アリスと殿下を拘束するため、魔法を使った。
相手は敵ではなくアリスと殿下だ。
この程度の魔法で何の問題もないだろう。
おびただしい程の蔦が一気に2人の足元から頭上の高さまで伸びていく。
そして2人の身体に絡みき、俺を掴んでいた腕も蔦に絡まれ離れていった。
「くっ!ラウール!」
「お兄様!離してください!」
2人から解放された俺は、少し先にゼフィロスとフィーネ達を見つけ、目を細めると走り出そうと一歩踏み出した、
その瞬間──。
「──っ!私をなめないでください!」
アリスが火の魔術を使い、蔦を燃やし尽くした。
殿下の方の拘束も一緒に燃やしたのだろう。
アリスの魔力制御は完璧だ。
アリス本人と殿下は髪の毛一本燃えてはいない。
「相変わらず、過激だな。俺の妹は。」
思わず「困ったな」と呟きが口からこぼれる。
それを耳ざとく拾った殿下が、フッと笑みを浮かべた。
「だろうな。
お前は俺たちを攻撃することは出来ないだろう。
そういえばゼフィロスが言っていたな。
拘束するならまずは鎮圧からだと。」
「お兄様、行かないでくださいませ。
フィーネ達の邪魔をしないで下さい。
お願い、ですわ。」
胸の前で手を組み、上目遣いで頼んでくるアリスに眉尻を下げその可愛さに思わず溜息をついた。
アリスは、こう言えば俺が折れるということを知っている。
いつもならば、そうだろう。──だが。
「そのお願いは聞けないな、アリス。」
俺は、かけていた眼鏡を外すと胸ポケットにしまった。
記憶を取り戻してから、眼鏡に抑制魔法をかけていた。
この便利すぎる固有能力をやたらめったら使わないようにする為に。
だが、今は必要ない。
「──芽吹け。『偽りの偶像』」
ふわりといつもと違う魔力が場を支配する。
後ろに縛っている髪が魔力によって揺らいだ。
固有能力を使うのは久しぶりだ。
2人を傷つけないように制御し易くするため、そしてこの人間の体への負荷も考え詠唱をして発動する。
2人がいる場所を中心に50ほどの傀儡が現れ、俺に跪いた。
「ラウール、これは、なんだ?」
氷の剣を生成し、アリスの腰を引き寄せ守るようにしながら警戒心を露わにする殿下に、フッと笑う。
「婚約者として頼もしい限りだな。
兄としては面白くないが。
さて、殿下が言った拘束の前に鎮圧というのは正しいが、そもそもお前たちを拘束する必要などない。
ただ、足止めさえできれば十分だ。
最後に、さっきの質問に答えようか。
──これは俺の固有能力だ。
命を創造する、当代最強と言われた固有能力。
その、ほんの一端だ。
──『捕えろ。但し傷一つつけるなよ。』」
その言葉を聞き、顔を引き攣らせた殿下は自分達の前後左右に魔導陣を展開させた。
傀儡は2人の拘束に動くが、2人に触れる前に氷の塊が矢のように突き刺さり崩れ落ちた。
同時に撃ち漏らした傀儡を切り伏せていく。
アリスも魔導陣をいくつも展開させると、火球を幾つも傀儡にぶつけ戦闘不能にしていった。
あっという間に数が10を切った。
「ふむ。流石にこの数では足りないか。」
パチンと指を鳴らし、数を増やす。
その数さらに200。
「アリス、殿下。それと遊んでおけ。
──すまないな。」
「お兄様!!待ってください!」
「ラウール!!」
必死に俺を呼ぶその声に振り返る事なく、ゼフィロスの所へ急いだ。
あいつ1人で、ネロを消させるわけにはいかない。
ゼフィロスが、リリスではなくフィーネを選んだあの日。
あいつが一体どんな思いでその選択をしたのかは、察して余りある。
その恐怖も、苦しみも、痛みも、覚悟も。
あいつはたった1人で背負っている。
フィーネを守る為に、罪を背負うというのなら。
その罪を俺も背負おう。
──今度こそ、共に。




