106 本探し
「さてと。そろそろ本探しを再開しよっか。」
ゼロは大きな欠伸をしながら肩の上で体をグッと伸ばした。
「やっとかよ。早くしねぇと昼飯の時間になっちまうぞ?」
「へへ。ちょっと遊びすぎちゃった。」
「探すと言ってもこの膨大な数の中どう探しますか?
その本のタイトルも分からないんですよね?」
リオが顎に手を乗せ首を傾げながらそう言うと、私達もぐるっと周りを見渡しながら途方もない数の中、たった1冊をどう探すかを思案した。
「そうなんだよね……。
結局かくれんぼしても手掛かりなかったしなぁ。
手掛かりは精々頭より高い所にあるかも。ってことくらいかな。」
「高い所、かい?」
グレンが不思議そうに聞いてきた。
みんなの頭の上にも疑問符が乗っている。
「人間が探し物をする時、自分の目の高さより上を見ることを無意識に怠る傾向があるんだよ。
『物は下に置く』っていう固定観念と、首を上げる手間のせいでね。
まぁ、他にも理由はあるんだけどそこは割愛して。
人間がなかなか手に取らない場所に置くって考えると、上の方かなって。
ゼロ、どこか気になる場所あったりする?」
「あぁ。つーか、それらしい本あったぜ?」
私達はその言葉に一様に驚いた。
「なによ。考え損じゃない。早く言ってよ!」
「思考はサボらないほうがいいだろ。
それに、お前らきゃぁきゃぁ言って俺の話聞く感じじゃなかったろうが。」
「ぐぅっ……。」
「それで、ゼフィロス、その本はどこにあるんだ?」
殿下がそう聞くと、ゼロはピョンと私の肩から飛び降り、床に足がつく瞬間に人型に戻った。
「こっちだ。」
ニヤリと笑ったゼロは私達が来た方とは逆の回廊に歩き出した。
私達は後ろからゼロに着いていく。
「フィーネの予想は当たってる。
あの本棚の一番上の段だ。」
そう言いながら掌を上に向け人差し指でその本を指さすと、クイっとと人差し指の関節をまげた。
本が棚から抜けふわっと浮くと、ゼロの手の中に静かに置かれた。
私達はその本を覗き込む。
見た目は普通の本だ。
リオはその本をゼロから受け取りパラパラと中身を確認すると、懐かしそうに笑みを深めた。
「『初めての闇魔術』ですか。懐かしいですね。
この本は影の子供達なら皆読む本ですよ。
この本から闇魔術の基礎を学ぶんです。
これはその本の原本ですかね。」
ラウール様が、リオから本を受け取り探るように眼鏡の奥の濃紫の瞳を細めた。
「確かにほんの僅かだがティナの魔力を感じるな。」
今度はグレンが本を手に取り、眉根を寄せて観察するが諦めたように溜息を漏らした。
「うーん。僕には分からないなぁ。」
「ま、だろうな。
グレンはティナと似た魔力を持っているからな。
自分の魔力に混ざってティナのものを感知するのは難しいんだよ。」
「私にもただの本に見えるな。──っと、アリス?」
殿下がグレンから本を受け取り見ていると、アリスが隣からヒョイと本を取り上げ、勝気に笑うと私に本を手渡した。
「こういうのは、フィーネが触れることで何かが起きるのがセオリーですわ!
はい、フィーネ。」
「え?あ、うん。」
差し出された本を手に取ると。ふわりとあの日に見たのと同じ金色の魔力が本から湧き上がってきた。
無意識に身体が強張っていたのか、そっと背中を撫でる優しい手に肩の力をぬく。
隣のゼロを見ると、その視線に心配の色と安心させるような色を見つけ、深呼吸をした。
改めて本を見ると、表紙部分に文字が浮き出てきていた。
「『リリス・イヴ・アスモデウスとネロ・ロワール・レヴィアタンの血族の血をここに』?
なるほどね。
3段階認証にしてるんだ。」
殿下とリオは、人差し指をそれぞれ魔術で作った刃で少し切ると、ジワリと滲み出た血を本の表紙に付けた。
その時、その本を持つ私を中心に魔法陣が発動した。
キラキラと金色の魔力の奔流が辺りを埋め尽くす。
ゼロはグッと私の腰を抱き寄せながら、叫んだ。
「お前ら、俺とフィーネを掴んどけ!転移するぞ!」
その言葉が終わるより早く、全員が私たちの服や身体にしがみつく。
直後、視界を圧迫するような光が弾け、私たちは王宮の書庫から跡形もなく消え去った。
無人になった書庫にはまた静寂が戻り、ステンドグラスから差し込む光だけが、静まり返った床の上で色鮮やかに揺れていた。
次回はネロとの初対面!
頑張ります!
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