102 バルコニーでの朝食
バルコニーに行けば既に朝食が準備されていた。
朝日が差し込むバルコニーに、優しく爽やかな風が吹く。
その風がふわりとパンとアールグレイの香りを運んできた。
私達は席に座ると、それぞれ好きなパンを取り皿に取って食べ始めた。
ゼロは猫の姿のまま、前足でパンを挟みハグハグと小さい口で一生懸命食べていた。
そのあまりにも可愛い姿に私はノックアウト寸前だ。
グレンもリオも、一口食べると口に合ったのか、少し目を見張ると上品に次々とパンを消費していった。
私はバターの芳醇な香りを感じることができる、サクサクッとした絶品クロワッサンを食べながら、グレンとリオの勢いに目を見張った。
「2人ともすごい食べるね。お腹空いてたの?」
2人は口に入っているパンを飲み込み、飲みやすい温度になった紅茶を上品な仕草で飲んだ。
「朝早くから、グレンと模擬戦をやっていたんです。」
「昨日、また先生に惨敗しちゃったからねぇ。
その復習も兼ねてね。
あと新しく使えるようになった魔法の練習とかもやったんだよ。」
「魔法!すごい!もう使えるようになったの!?」
「僕は天才だからね。」
するとゼロが口の周りにパンの粉を沢山つけて、それを否定した。
「お前が天才じゃなくて、俺が優秀な先生なんだよ!
大変なんだぞ。こいつらの相手は。」
私はふふっと笑いながらゼロの口元をナフキンで拭いてあげた。
そして先程から黙り込んでいたリオが気になり声をかける。
「リオ?どうしたの?」
リオはハッと私を見ると、少しばかり苦い顔で笑った。
「私はまだ、魔法が使えないんですよ。
グレンは、本当に天才だと思います。」
「リオ、だからグレンと比べんなっつったろ。
お前ら2人は戦いのフィールドがパンとスープくらい違うんだ。
比べるだけ無駄だ無駄。」
「それは、分かっています……。」
「お前はまず、その力を受け入れることからだ。
拒否してたらいつまで経ってもそのままだぞ。」
「──っ!分かっています!」
突然叫ぶようにそう言ったリオに驚き、ビクリと体が跳ねた。
リオはハッとして私を見ると、苦しそうに顔を歪め「すみません」と謝った。
彼は落ち着くように、一つ深呼吸をすると紅茶を一口飲んだ。
私は重くなってしまった空気を変えるように、わざと明るく願望をゼロに話した。
「私も魔法使いたいなぁ。
アリスも殿下も使いたいって言ってたし、今度魔法を教えてよ!」
「まあ、それはいいけどよ。
フィーネは兎も角、アリスやクリスは難しいかもしれねぇな。
こいつらほど血が濃くねぇ。」
「それなら、今度ゼミの一環で先生が『先生』をするのはどうだい?
もちろんパフィス先生がいない時にね。」
「そんな適当でいいんですか?グレン『先生』?」
呆れたようにそう言うリオに、グレンは軽く笑って流した。
「あはは。大丈夫大丈夫。
だってほら、うちのゼミは『古代魔術・魔族研究ゼミ』だからね。」
「なるほど!『魔族』のゼロに、古代魔術である『魔法』を教えてもらって両方の理解を深めるのね!」
うんうん、なるほど!と頷く私にグレンはクスクスと笑って頭を撫でた。
そんな話をしながらもモグモグと食べ続けていたゼロは、丸くなったお腹をさすりながら、
「うぇ。食い過ぎた……。腹いっぱい。」
とテーブルの上で仰向けに転がった。
「行儀悪いよ?ゼロ。」
「人型に戻ればいいのでは?
そもそもなぜその姿で食べてたんですか?」
「そりゃ、この姿で食べた方が可愛いだろう?」
ゼロのその言葉に、私は確かにと頷いたが、グレンとリオはドン引きしたように顔を引き攣らせた。
「コレが僕達の先生なんて嘆かわしいね……。」
「全くです。それでいて強いんですから腹立たしいですね。」
「……冗談だよ、冗談。そんな目で見んな。」
そんな面白いやりとりをクスクス笑いながら紅茶を飲む。
芳醇なアールグレイの香りが鼻から抜け、ほっと息をついた。
「そうだ。グレンにちょっと相談があるんだけど。」
「ん?なんだい?」
「グレンも私も、魔力を持て余してるでしょ?
その魔力を外部のアイテムに保存して使えるようにならないかなって。」
「へぇ。面白いことを考えるね。
それは開発し甲斐がありそうだなぁ。」
「でね、ロイドが魔石を加工してくれそうな魔族の人を紹介してくれることになったの。その時はグレンもついてきて欲しいんだよね。やっぱり専門の人がいた方が話が早いと思うし。」
「うん。いいよ。
じゃぁその日までにアイデアをまとめておこう。
ダンス練習の前に打ち合わせしようか。
練習後はそんな余裕はなさそうだからね。」
「──フィーネ様、いつロイドと会ったんですか?」
そのリオの言葉にギクリと肩を跳ねさせ、思わず目を泳がせた。
「確かに。
ロイドと会うような時間はなかったよね?
──フィー?」
グレンとリオからの視線が痛い。
「あーあ。口滑らせちまった。」
そうボソリと呟いたゼロを抱えると、私はガタッと立ち上がり戦略的撤退を図ることにした。
「あ!私、招待状の返事を書かないと!!」
たいへーんと言いながら部屋に戻る私の背後から、2人の大きな溜息が聞こえてきたのだった。
沢山食べる男子ズです。
ゼロはお母さん(笑)なので、2人が沢山食べれるように小さくなって食べてました。
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