11:属性過多
赤熱した岩肌、噴き上がる溶岩。息を吸えば肺が灼け、何をせずとも皮膚が爛れる灼熱の岩窟。
その最奥に、ヤツは居た。
モンスターの頂点、最強の魔獣――レッドドラゴン。
ひとたび羽ばたけば千里を飛び、鉤爪は鋼鉄をバターのように切り裂く。そして吐き出す火焔のブレスは、この世の何よりも熱く、全てを燃やし、融解させる。
そんなレッドドラゴンの前に、一人の男が立っていた。
鈍色の鎧に身を包み、手には大剣を携える。肌に刻まれた歴戦の傷跡が風格を感じさせる、屈強な大男だ。
おそらくは人類最強クラス――だが、そんな彼でさえ……額に大量の汗を滲ませている。
岩窟の熱さ故か、それともドラゴンの放つ放射熱を受けてのことか。或いは強大な敵を前に、冷や汗を滲ませるのか。
否。
全て否。
彼が滲ませる汗は、そのどれでもない。
「んぐっ……ぷはァ! やっぱコレじゃねぇと気合いが入らねぇな!」
懐から取り出した鮮やかなオレンジ色をしたポーションを一気に飲み干し、戦士がニヤリと笑う。
額に滲む汗が増し、ペロリとなめた唇が赤く変色する。身体中から汗が蒸気のように吹き出して――食欲をそそるスパイシーな香りが洞窟に満ち満ちた!
フレーバーポーション・カレー味/超激辛。
つい先日登場したばかりの新フレーバーだ!!
「テメェの炎なんざ超激辛ポーションに比べりゃ、ぬるま湯みてぇなモンだ! さァ、行くぞ赤トカゲ! 覚悟しやがれ!!」
大剣を掲げ、レッドドラゴンへ斬りかかる戦士。雄々しい叫びと、赤竜の咆吼が岩肌を揺るがす。
そして男は――ドラゴンスレイヤーの称号を手にしたのだ。
メルルゥの朝は早い。
植物系の特性を持つアルラウネのハーフであるが故か、あまり夜に強くない彼女は、とても早起きだ。
日が昇ると同時に目覚め、スカスカと寝息を立てるテオを尻目に川へと向かい、身を清める――コミックスやアニメなら刮目すべきサービスシーンであろう。
今の季節、水は冷たいが寝ぼけた身体に心地良く、染み入るようにさえ感じられる。
ゆっくりと水浴びを楽しんだ後、冷えた身体を温めるために朝日を浴びての日光浴へ。
岩場に腰を下ろし、足先だけを水面に遊ばせて目を閉じる――ファンタジー世界の住人たるメルルゥは、自分のことでありながら気付いていないのだが、この時の彼女は光合成をしている。
髪で日光を受け取り、足先で水を吸い上げて、口から酸素を吐く。ハーフ・アルラウネ……なんだか凄い種族だ。
「うぉ……っ!? め、メルルゥ!?」
と、その時。寝ぼけ眼のテオがやってきて声を上げた。慌てて目を逸らし、手ぬぐいで目線を切っている――顔でも洗いに来たのだろう。
「わ、悪い! まさか居るとは思わなくって……!」
「あはっ……大丈夫ですよ、テオさん。寝間着を着てますから……残念でしたね?」
慌てるテオを揶揄い、楽しげに笑うメルルゥ。
しかしテオにとっては、笑い事ではない。
朝日の眩しさに目覚めた彼は、まだ眠いなーと思いながら身支度を調えようと川へ。そうしたら、そこの岩場に……震え上がる程に美しい女性が腰掛けていた。
光る水面に照らし出される幻想的な美貌。目を閉じて静かに寛ぐ様は、絵画でも見ているかのようだった。
そして朝の光を受けた薄いネグリジェは透け、ボディラインがシルエットとして浮かび上がる。それは非の打ち所なく女性的な魅力に満ち満ちて――平たく言ってしまえば、物ッ凄くエッチな身体付きをしていて――思わず見入ったテオは、それがメルルゥだと気付けなかったのだ。
「か、揶揄うなよ……ったく。あんま水辺で遊んでると風邪引くぞ」
「はぁーい」
強めの口調で動揺を隠し、顔を洗う。その時に触れた顔は、自分でも熱いと感じられる程に火照っていた。
最初に会った時から、可愛い娘だなとは思っていた。
けれど何せ彼女は弱り、くたびれていて顔色も悪く……それどころじゃない印象の方が勝っていた。
けれど栄養状態が改善されてストレスが減り、肌つやは良くなって髪も潤う。そして一緒の時間が増えてくると否応なしに気付く。
メルルゥは驚くほどに可愛らしく、アホほどスタイルが良いことに。
今まで気付かなかったテオがトロいのか、この美貌とスタイルを誤魔化し続けたメガネと調薬エプロンが凄いのか。
何にせよ、こんな怪物と一緒に寝泊まりし続けて、よく平静で居られたものだと感嘆と嘆息を禁じ得ない。
しかし、それに気付いた所で、どうしろと?
ペチン! と両手で頬を叩くように挟み、テオは気合いを入れ直す。
パートナーをエロい視線で睨め回している場合ではない。
彼は戦わなくてはならないのだ。小さな自分たちを容赦なく呑込もうとする道具屋ギルドという強大な怪物と。
先を読み、対策を練って、即座に実践する。
足回りの良さは小規模小売りが巨大組織に勝る点の一つ。立ち止まってはいられない!
「朝メシ食ったら、今日は街に行く予定だから。忙しくなるぞ、そのつもりで準備しといてくれ」
「はーい……ふふっ」
なんだか知らないが、朝から妙にメルルゥの機嫌良い。全く意味が分からないと首を捻るテオを、隠れ巨乳でメガネのハーフ・アルラウネが、ずっと見つめていた。




