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【第2章完結】1円ポーションから始める弱者救済マーケティング ―黄金の滴と賢者の秤―  作者: かっぷ
第一章:メルルゥ・アンブローシア

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12/40

12:期待しててください

 数日ぶりに感じる街の喧騒。

 しかし今日も今日とてコレといったこともなく、明日も明後日も、その次も……きっとそんな様子なのだろう。

「今日は忙しいんだ、のんびり焼き鳥食ってるヒマねぇぞ!」

「えっ、えっ……あ、後で……後でいいですから、ねぇテオさん!」

 屋台の前で涎を垂らすメルルゥを引き摺って、テオが最初にやってきたのは術士ギルドの受付だった。

「ここって魔法とかを管理してるギルドですよね? 私、初めて来ました」

「俺もだ。まぁ普通に生活してたら、あんまり接点ないよな」

 術士ギルドは魔法などの管理を一括して行う組織だ。

 着火や灯りに始まって、伝達や冷蔵など生活に深く根ざす各種の魔法だが、便利な反面、犯罪に用いられることも多いため厳しく管理、制限されている。

「ここで何するんです? 術を習う、とか? 私、魔法なんて使えませんよ?」

「魔法を習うわけじゃなくて、今日は鑑定を頼みに来たんだ」

 鑑定――それは未知なる物品を調べ、詳細を明らかにする行為。ダンジョンで入手された謎のアイテムなどに対して行われる場合が多い。

 術士ギルドはその道の専門家集団であり、鑑定書は「法的・公的な証明書」としての価値も備えている。独自の魔力印で偽造対策もバッチリだ。

 ちなみに世の中には、見つめるだけで詳細が分かる不思議な能力もあると噂されるが……テオにも、メルルゥにも、そんな強力で便利な能力とはご縁がない。

「頼みたいのは、この薬品で……はい、全部です。強度は最高で、それぞれに鑑定書と、写しもお願いします」

 受付にポーションをズラリと並べ、テオが手続きを進めて行く。鑑定強度には三段階あって、彼が頼んだのは最高強度の鑑定だった。

 それを大人しく後ろで見ていたメルルゥだったが、最後に彼が取り出した金額を見てブバッ! と吹き出した。

「ちょっ……!! テオさん! なっ……それ、もの凄いお金……えっ? えぇっ!?」

 彼が取り出した金額、合計30万円。鑑定費用ならびに鑑定書の発行費用だった。

「ま、待っ……さ、30万円って……ぽ、ポーションで言ったら……いち、じゅう、ひゃく……!」

「一本100円換算で、3000本の売り上げだな」

 サラリと言い放つテオにメルルゥは顔色を失う。

 そんな彼をメルルゥはぐいーーーっと引っ張って、受付カウンターの下に屈み込んだ。

「待ってください、高過ぎですよ! せっかくテオさんがコツコツ貯めたのに、それを私なんかが作ったポーションの鑑定に……むぐぅ!?」

 まだ何か言おうとしていたメルルゥだったが、テオに口を塞がれてムグゥとなる。

「いいから、いいから。この先、絶対に必要になる! これは決して無駄な捨て金じゃない。むしろここが勝負所だ」

 テオは改めてカウンターに30万円を置き、手続きを進める。

 術士ギルドの受付も、こんな100円ポーションに大枚をはたいて……と呆れた風の表情であったが、テオは全く気にしない。

「ひえぇ……ホントに、ホントに良いんですか? 良いんですよね?」

 不安そうなメルルゥ。その肩を軽く叩き、テオは言う。

「大丈夫だ、俺を信じろ。俺も……メルを信じてる」

「……!」

 そんな風に言われたら、何も言えないではないか。

 メルルゥは言い足りない言葉や不安をグッと呑込んで、それらの代わりに大きく一回、頷いた。

「よし、じゃあ次は……戦士ギルドだ。行くぞメル!」

「え……えっ? 戦士ギルド? あのテオさん、まさかまた……いっぱいお金を払ったりとか、しませんよね?」

「……ん? うぅん……?」

「えっ!? ちょっ……! テオさん!? まさか、また……テオさん! 答えて、ちゃんと答えて! テオさん!!」

 賑やかに喚く二人に術士ギルド中の注目が集まる中、彼らは次なる目的地、戦士ギルドへと向かったのだった。


 戦士ギルドとは、肉体を武器に戦う戦士を管理するギルド――というよりは、彼らが使う武器や防具を管理する組織である。魔法と同じく犯罪に使われることも多い武器だけに、管理が必要というわけだ。

 そして戦士ギルドでは、メルルゥが心配したような大金の放出はなかった。

 その代わりに通常ポーションを3000本。それを無償で戦士ギルドへ提供したのだ。

「し……信じられません。やけにいっぱいポーション持ってきてるな、とは思ってたんですけど……あんな沢山、まさかタダで……! 何が、目的……なんですか?」

 ショックのあまり声を枯らしたメルルゥに焼き鳥を買い与え、二人は適当なベンチに座って休憩を取る……今日も良い天気だ。

「ちょっと、もぐもぐ……テオさん!」

「あー……悪い、考えを整理してたんだ。いまから説明するよ。でも、その前に……もう一件だけ寄っていいか?」

 そんなテオがメルルゥを引き連れてやってきたのは、街の目抜き通り。その通り沿いに構える、これまでの二件とは全く趣の異なるお洒落な店舗――ブティックだった。

「ほら、もう串は置いとけって。メルは、どれがいい?」

「……? どれ、とは?」

 彼の言っている意味が分からず、首を傾げるハーフ・アルラウネ。その手から串を取り上げられて、ようやく頭が動き出す。

「え、何ですか? 服を……買う? 私に? 買ってくれる、みたいな流れですか?」

「流れも何も、その通りだよ。ブティックで他に何するってんだ」

 溜息交じりに言うと、店員が可笑しそうに笑いを噛み殺している。

 なんとなく気恥ずかしさを感じつつ、テオはメルルゥを促した。

「ほら最近メルも店頭に立つタイミングが増えただろ? それに街にだって来る機会あるし。その時用に、何着か気に入ったの選んでおけよ」

「うぇっ!? な、何着って……何着です? ど、どれを……どのように……?」

 店で服を買うことに馴れていないのか、メルルゥがオドオドと目を泳がせている。テオとて女性用のブティックなど馴れてはいないのだが――。

「そうだな、取り敢えず無難でフォーマルなの一着と、店頭に立つ時に着る制服っぽいの二着。あとは好きなの一着か、二着か……そんなモンかな」

「わ、分かりました。じゃあ……選んでみます」

 まるで不審者のような挙動不審さでメルルゥが服選びを始めると、見かねたらしい店員が彼女の傍に付いた。まぁこれで大丈夫だろう。

 暫く一緒に生活して気付いたのだが、メルルゥは殆ど服を持っていない。

 調薬の時に付けるエプロンと、その下に着ている簡素なワンピースだけ。流石に下着類までは把握していないが……普段着にしているエプロンとワンピースは調薬の際に飛び散った樹液やら何やらで汚れ、お世辞にもキレイとはいえず、ぶっちゃけボロボロでみすぼらしい。

 折角可愛いのだ。テオとしては以前から服を買ってやりたいと思ってはいた。しかし一人で女性用ブティックに入るのは恥ずかしいし、サイズも分からない。

 だからこのお出かけは渡りに船だった。

 制服やフォーマルと一緒に、と話を持って行けば、メルルゥの遠慮も少しは和らぐのでは? そんな考えもあった。

「あら! お姉さん、凄くスタイル良いですね。羨ましいわ」

「え、えへへ……お恥ずかしいです」

 テオがそんなことを考えながら時間を持て余していると、試着室の中からメルルゥたちの会話が漏れ聞こえてきた。

「でしたら、こんな風に胸元の開いたデザインがオススメですよ! オッパイの控え目な方だと首回りにアクセがないと寂しくなりがちなんですが、このバストなら……!」

「こ、これは流石に……恥ずかしいですよ。殆ど丸見えじゃないですか……!」

 殆ど丸見えとは!?

 どんな服で、どのような様子なのか?

「もう少し大人しいのがイイですぅ……」

「そうですか? じゃあ、こちらの……」

 もっと頑張れよ店員! めっちゃエロいの薦めてくれ!!

 心の中で声援を送るが、この熱い想いは店員に届いただろうか?

 とはいえ……テオよ、落ち着け。エロ過ぎてメルルゥが着てくれないのでは意味がない。彼女の好みが第一だ。

 でも、だけど……男としては、やっぱり期待してしまう。

 剥き出しの肩。露わな胸の谷間。背中が大きく開いていて、更におヘソも見えている、というのも捨てがたい。

 後はミニスカートとか……そうだ、深いスリットの入ったロングスカートというのも素敵だ。

 肌の露出は多い方が嬉しいが、露骨過ぎても萎えてしまう複雑な男心も考慮に入れたい。

 そう思えば、さっきは何もかもメルルゥの好きに選べと促したが、制服くらいは自分が好きなデザインを選んで押し付けても良かったかもしれない。そしたら、あんなのやこんなのが選べたかも……というか世の中の経営者とかって女性従業員の制服を選ぶとき、こんな葛藤を抱えているのか? だとしたら――。

「テオさん、お待たせしました」

「うぉっ!? びっくりした!」

 深遠なる思考の海から引き上げられて、テオがビクリと顔を上げる。

 そこに立っていたのは見たことのない衣装に身を包んだ、儚げで美しい女性だった。

「ど、どう……ですか?」

「ああ、良く似合ってるよ」

 メルルゥの問いにノータイムで応えたのは、彼の人生でも屈指のファインプレーだ。

 ゆったりとした薄手のシャツにレースのカーディガン。柔らかなラインのロングスカートには、膝くらいまでのスリットが入っている。彼女の髪色に合わせたのか全体的に緑、青系統でコーディネートされており、シンプルで清楚ながら、どこか色っぽい……そんな雰囲気を感じさせる絶妙な服装だった。

「えへへ……ありがとうございます」

 はにかみ、頬を赤らめて俯くメルルゥ――男心を抉る強烈無比な一発だ。殆ど表情を変えずに耐えられたのは、テオが日頃から彼女の攻撃に晒されて少なからず耐性が付いていたからに他ならない。

「私服、それにしたのか。もう一着くらい……」

「あ、はい。実はもう……店員さんに選んで貰って、制服とかも決めました」

 全く気付いていなかったが、ふと見れば店員が何着かの服を抱えてレジに向かっていた。

 服の合計金額は、10万ちょい。大金だが……惜しむべき金ではない。

 そう思いながらテオが支払いを済ませた、その時だ。

「制服、期待しててください」

「……!?」

 店員がコソリと耳打ちをした。

 どういう意味だ? 何を期待しろと……?

 困惑の表情を見せるテオに、ニヤリと笑みを返す店員。

 彼はそこからの一日を、意味深な言葉を抱いたまま過ごしたのだった。

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