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【第2章完結】1円ポーションから始める弱者救済マーケティング ―黄金の滴と賢者の秤―  作者: かっぷ
第一章:メルルゥ・アンブローシア

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13/40

13:ネガティブキャンペーン

 その噂がテオたちの耳に入り始めたのは、彼らがお出かけを楽しんでから半月ほど経った頃だった。

 最初の内は小さくヒソヒソと囁かれ、次第に大きく、おおっぴらに何処に居ても聞こえだして……二人が知ったのは、その頃だ。

「何なんですか、あの噂! 根も葉もないっ! 根拠も、整合性も、何一つないデタラメばっかり!!」

 メルルゥが鼻息も荒く憤慨するが……無理もない。

 地域に蔓延していたのは、こんな噂話だった。

 曰く、味付きポーションは効能が低い。

 曰く、味付きポーションは健康に悪い。

 曰く、味付きポーションには違法な素材が使われている。

 それ以外にも、1円ポーションは盗品であるだとか、中古ポーションは消費期限切れであるだとか、メルルゥのポーションについて考え得る限りの悪い噂が流れていたのだ。

 そして噂の最後は必ず「ポーションは正規ライセンス契約店で」と締めくくられる。

「うぅぅぅーーー……っ! 誰が、どうしてこんなコトを!」

 怒りの声を上げるメルルゥだったが、考えるまでもなく道具屋ギルドだ。きっと向こうもバレバレなのを知った上で仕掛けており、気付いてないのは世間知らずなメルルゥくらいだろう。

 所謂ネガティブキャンペーン――出る杭は打たれるとばかりに、どういった業界でも多少なり存在し、勢いのある新参には降りかかる通過儀礼ではあるのだが……ここまで露骨だと、いっそ清々しい。

 仕入れ先封じが効果なしと見て、即座に二の矢を放つ。道具屋ギルドの判断力と行動力は敵ながら天晴れという他にないが――。

「ざぁーんねん! 効いてませぇーん!!」

 そう叫び、ケタケタと気持ち悪い声で笑うテオ。笑い声のバリエーションが、また増えた。

「馬鹿め! 仕掛けが遅いんだよノロマぁ!! こっちはとっくの昔に対策済みだっての!! ざまぁ見ろ、ケヘヘヘヘーーーっ!」

 テオが言うように噂が流れ始めたここ半月。ポーションの売り上げは特に落ちていなかった。むしろ噂の広まりや新フレーバーの登場もあって売り上げはジワジワと伸びている程だ。

「テオさん、どうしてですか? 根も葉もない噂ですけど、信じる人がいても不思議じゃないのに……」

「まぁそうだよな。特にメルのポーションは道具屋ギルド未認可品。俺だって最初は、大丈夫かなって思ったし」

「そんなコト思ってたんですか!?」

 ここに来て明らかとなった事実にショックを受けるメルルゥ。

「そりゃ仕方ないって。道具屋ギルドの流通品がある程度の値段すんのは、安定品質って部分に金が掛かってるからだ。正規ライセンス品は高いけど安心ってブランドが確立してんのさ」

「じゃあ……逆に私のポーションは、よくわかんない粗悪品かも……って思われるわけですね」

 ショックから立ち直ったメルルゥの言った内容は概ね正しく、故に道具屋ギルドはその弱点を突くべくネガティブキャンペーンを仕掛けてきた。

 だが、しかし。

「安心ブランドを確立してんのは、何も道具屋ギルドだけじゃねぇ! それが……コイツだ!」

 辺境ダンジョン入口前のポーション露天。そこに掲げられた新たな看板には「術士ギルド安全認可品」「大丈夫! 術士ギルドが認めたポーションだよ!」と大きく書かれ、その下には鑑定書の写しが、これ見よがしに貼られていた。

「この為の大金だったんですね!」

「そういうコト。大枚叩いた甲斐があっただろ?」

 ニヤリと笑うテオだったが、もし鑑定してヤバい結果が出ていたら墓穴であった。メルルゥを信じてはいたが、未認可だし、独自製法だしで、ちょっと不安があったことは黙っておく。

「術士ギルドの鑑定書だけじゃないぜ。戦士ギルドのお墨付きだって貰ったんだ!」

 鑑定書を掲げる看板の隣。そこには盾の形をした看板が掲げられ「戦士ギルドのオススメ品」「あの戦士も愛用する確かな品質!」と太字で書かれていた。

 術士ギルドの鑑定書を店に来た客向けとするなら、戦士ギルドのお墨付きは現場で戦う者たち向けだ。

 テオが散蒔いた3000本のポーションは戦士ギルド内で無料配布され、各人へと行き渡った。それは今まで辺境ダンジョンへ訪れていなかった中級冒険者たちの手に渡り、生死を分かつ前線で使用され、その効能が体感として認められた。

 結果、戦士ギルドはメルのポーションにお墨付きを出し「戦士ギルドのオススメ」との文言を掲げる許可を出したのだ。

 そして更に嬉しい誤算として、同時期に巷で名を上げたドラゴンスレイヤーが激辛ポーションを愛飲していたことも二人の追い風となった。

「術士ギルドの鑑定書を見れば噂が嘘だって判断出来るし、実際にポーション使ってる冒険者からも悪い噂は出ない上、戦士ギルドのオススメ品。となりゃあ、あのくらいの噂なんざ屁でもねぇ!」

 とはいえ――。

「まぁ道具屋ギルドのネガティブキャンペーンが少し早く仕掛けられてたら、ここまで上手く回らなかっただろうな。両ギルドもお墨付き出すのに慎重になっただろうし」

 兵は迅速を尊ぶ。最速で行動を起こしたテオの行動力が、決断に時間の掛かる大規模組織を出し抜く形となったのだ。

「やりましたね、テオさん! これでしばらくは平穏に……」

「いや、まだだ!」

 ニコニコ笑顔で座り込もうとするメルルゥの顔を左右から挟んでムニィと変形させ、上下に揺さぶりながらテオは続ける。

「仕入れ妨害に、ネガキャン。いままで散々好き勝手やってくれたんだ。次はこっちから仕掛けるターンだろ!」

「むぇっ? し、仕掛けるぅ……?」

 口端を大きく歪め、ニタリと笑うテオ。

「反撃準備は整った……見てろよ、道具屋ギルドぉ! ギャフンと言わせてやるぜぇ!!」

 意気上がるテオの腕の中、顔を挟まれたメルルゥがぎゃふんぎゃふんと声を漏らすのだった。

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