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【第2章完結】1円ポーションから始める弱者救済マーケティング ―黄金の滴と賢者の秤―  作者: かっぷ
第一章:メルルゥ・アンブローシア

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10/40

10:計算もできない馬鹿のすること

 洞窟で集めた空き瓶は、メルルゥが精製した魔法水(ポーションから薬効を省いた溶液)で洗浄・殺菌し、リサイクルへと回す。

 これで当面は足りるだろうという量を確保出来た。

 まあ、また足りなくなったらなったでダンジョンに行けば……とテオが考えた瞬間、ギロリとメルルゥの鋭い睨みを受けて身を竦める。

「わ、分かってるって……もうやらないって言ったろ? 大丈夫、ちゃんと別の案があるから」

「……それが、コレですか?」

 ジト目のまま、メルルゥが視線を移す。

 そこには新たな看板が置かれており「空き瓶をお持ち頂ければ、ポーション15円引き」と書かれていた。

「こうしておけばポーションを使い終わったお客が、空き瓶を捨てずに持ってきてくれるだろ? 空き瓶の自動回収システムってワケ」

 得意気に話すテオだったが、メルルゥは指先を顎に当てて首を傾げる。

「でも……瓶を普通に買ったら10円ですよ。5円分、損してませんか?」

「ああ確かにメルの言う通り、損してる。でもコレは――」

 そして蕩々と、テオは語り始めたのだ。


 その頃、道具屋ギルド連合・東部支部長室。

「空き瓶の回収? 15円の値引き……?」

 部下からの報告を受け、ゼノスはギシリと椅子を鳴らした。

「ええ、愚かな連中です。苦し紛れに値引きをするも、瓶の価格は10円……15円で引き取るなどすれば、すぐに資金ショートで自滅。計算もできない馬鹿のすることですな」

 カラカラと笑う部下を尻目に、ゼノスは椅子へ深く掛け直して思考を深める。

 確かに部下の言う通り、15円割引とすれば連中は瓶に5円も高い金を払っていることになる。売値の5%は無視できない金額だ。

 しかし空き瓶がポーションの割り引きチケットとなるのだから、金銭にシビアな――特に懐事情の厳しい初心冒険者どもは空き瓶を捨てず、こぞって持ち込むことだろう。

 そうなれば、どのようなことが起こるか。

 まず空き瓶が潤沢に手に入る。仕入れルートを封鎖したこちらの方策は、これで意味を成さなくなった。

 集まるのは中古の瓶だけではない。街で10円で瓶を買って持ち込めば15円の割引になるのだから、新品を持って行く者も出るだろう。

 更に、ポーションの瓶は規格が共通だ。普通の苦いポーションが入っていた空き瓶さえ持ち込まれるようになったなら――。

「詳細な調査が必要だ」

「は……調査、ですか?」

 呟いたゼノスだったが、部下の表情には「何の調査?」と書かれている。

「その露天商を詳しく調べろ。特に、1円ポーションの仕掛け人……おそらく空き瓶回収を仕掛けている者と同一だ。その者について詳しく調べ尽くせ」

 指示を受け、部下は即座に退室した。

 既に露天商の調査報告は上がっていたが、もっと細やかな資料が要る。表層的な特徴や能力だけに留まらない、生まれや育ち、人となりまで。

 そして、その上で――。

「二の矢が、必要か」

 件の露天商に纏わるファイルを「対処済」の棚から引っ張り出し、ゼノスは再び、目を通し始めたのだ。


 そして場面は、洞窟前へと戻る。

「――ってワケで、その5円は必要経費っていうか……広告費? みたいな扱いだな」

「はー……なるほど。色々ぐわっと纏めて、1円ポーションみたいな効果があるってことなんですね」

 大人しく聞いていたメルルゥは、ふわっとした概念で受け取ったようだ。

 ちなみに1円ポーションも未だに続けている。テオ曰く「利益還元」であるらしい。

「そうやって集めた空き瓶にポーションを詰めて、また100円で売る……さすがです、テオさん! ズルい! あこぎです!」

「ぐっ……! 俺をどんな目で見てやがるんだ? しねぇよ、そんなこと」

 すぐに気を取り直したテオは、集めた中古の瓶を洗浄しながら言った。

「中古の瓶を使うポーションは新品と分けて、値引きして売る。そんで詰めるのは甘い通常ポーションだけ。フレーバーポーションには使わない」

「そうなんですね……分かりました。でも、どうして分けるんです? 拾った瓶もピカピカなのに……」

 不思議そうなメルルゥに、テオも少し悩ましげな表情を見せる。

「色々理由はあるんだが、一つは……忌避感を値段でカバーしたいんだ」

 少し間を置いて、テオは続ける。

「ポーションは口を付けて飲む物だ。いくらキレイに洗浄してても、誰が使ったか分からない中古品を使うのは気が引けるだろ? だからその忌避感を、値段でカバーする」

 懐事情の厳しい若手や、コスパ重視のベテランは中古を選ぶ。そして中古はヤだな、新品がいいな、という人には通常品という選択肢が残り、それは利益の柱となる。フレーバーポーションを値引きしないのも、それが理由の一つだ。

「それじゃあ中古品のお値段は、どのくらいにするんです?」

「うぅむ……それについては、めっちゃくちゃ迷ったんだけど……断腸の思いで70円に設定しようと思う!」

 ポーションの通常価格は100円であるから70円は30%という大幅値引き。かなり思い切った値段設定だ。

 どうしてその値段に? と聞きたそうなメルルゥに、テオは難しい顔で百面相をした後に、絞り出すように内情を語る。

「値を下げないと忌避感の払拭にならないし、下げ過ぎると転売が横行しちまう……で、そのギリギリラインが80円くらいなんだけども……」

 そこでまた言葉を途切れさせ、しばらく何事か考える。

「なんていうか、それだと面白くないっていうか……大きく跳ねない気がするんだ。それに安い方が冒険者は――特に若い連中は嬉しいんじゃないか? って思って……」

 そして最後に彼は「ダメかな?」と付け加えた。

 後半の物言いがロジカルなものでないが故の一言だった。

「ダメじゃないですよ、良いんじゃないかと思います。お客さんが喜んでくれた方が、私としても嬉しいですし」

 メルルゥにそう言われ、自身が戻ったのだろう。テオは「そっか」と呟き、明るい表情を見せた。

「んじゃ、まぁそういうことだから。早速始めようぜ! んでぇ、それとは別にメルには頼みたいことがあってだな……」

「何ですか? 新しいフレーバーの件なら、もう試作が……」

 言い掛けたメルルゥはテオに耳元で囁かれ、くすぐったそうに身を捩ったのだった。

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