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触れられざる校則

パソコンがバグって更新が遅れました。連続更新します。

 一週間と言わず一ヶ月にすれば良かっただろうか。

 二日目にして俺は早くも後ろ向きな事を考えていた。投票は死んでも嫌なので全力でこの一週間は走り回る覚悟だが、それはそれとして一週間は短過ぎた。啖呵を切った割には俺も視野が狭いというか想像力が足りていないというか。

 気のせいだと良いがどんどん話が拗れているので、できれば早期に解決したい。出来るものならそれが最善だ。

 放課後になるまでは蒔凛と話せない(投票してもないのにクラスへ行くと確実にバッシングを浴びるだろう)ので、相変わらず保健室へ赴いて安宿先生との会話を楽しまんとする。

「おはようございますッ、先生」

「やあ、おはよう。……元気そうだね。心配したつもりだったけど、余計なお世話だったかな」

「いやそんな。めっちゃ嬉しかったです! 危うく愛の告白をしそうになりましたよ」

「そういうのは当人を前に冗談めかして言うものではないと思うけれど。ま、いいよ。取り敢えずそこに座って。君に教えたい事があるんだ」

 協力は出来ないと言われた以上、先生になんらかの成果は期待していない。彼女は居てくれるだけでも十分だ。本当に心の支えになっている。

 養護教諭とは斯くあるべしとまでは言わないが、俺にとって最高の先生はきっと卒業しても変わる事はないだろう。

 安宿先生が机の上に広げたのは古ぼけた紙切れだった。


「……『界立高校十の校則』?」


「校長室で見つけたものだ。勝手に取ってきたのは悪いと思うが……まあ勝手に証拠隠滅まで図った人間もいるし、違法には違法を。だよ」

 現在校長室は材緣寺の手で立ち入り禁止が敷かれている。裏を返せば材緣寺は幾らでも立ち入り出来るという事であり、証拠隠滅を図った人間が何処の派閥かは考えるまでも無い。

「証拠隠滅を図った人間……そんなの知ってるなら早く教えてくださいよ。公平性とか良いですから」

「まあ落ち着きたまえ。私は飽くまで事実を知っているだけだ、人間までは分からないよ。それと―――これね」

 そう言って彼女が取り出したのは画用紙を雑に畳んで作ったかのような小さな箱。やや上部分に切れ込みが入っており、どうやら蓋になっているらしい。中には何も入っていない。

「これは?」

「煙草の箱さ。校長先生が愛用していたものだよ」

「え? 何でこんなものぐさな小学生が図画工作で作った作品みたいなものを愛用してたんですか?」

「それは本人に聞いて欲しいんだけど……校長先生はね煙草が好きだったんだよ。君達学生の前では……滅多に吸わなかったけれど」

 煙草から出る有害物質の関係で喫煙者の形見は相変わらず狭い。相変わらず、というのは俺が小学校の頃から何も変わっていないという意味だ。その嗜好は知らなかったが、学生の前で吸わなかったのは教育者なりの矜持とそれでも吸いたいジレンマ故の行動だろうか。

「……あ、もしかして机の横にあった銀色の皿って灰皿ですか?」

「おいおい…………しかしいい所に気付いたねぇ。じゃあ君がいつも見ている灰皿の中ってどうなってたかな」

 そもそもあれを灰皿とは思っていなかったので記憶にない。仮に灰皿と知っていたとしても景色の一部として目が認識しているので、全く思い出せない。という事は使っていないという事では……否。学生の前では吸わないだけと安宿先生は言った。つまりそこにあるべきは吸殻ではないだろうか。

 今までがどうだったかさっぱり思い出せないので直近の記憶を探ってみる。やっぱり思い出せなかった。

「済みません。吸殻があったような気もするししない様な気もします」

「――ー私が校長室に入った時、灰皿に乗っていたのはこの箱だ。吸殻は証拠隠滅の一環で綺麗さっぱり無くなっていた。でも代わりにこれが残っていたんだ。塩を送っているとも思えないけど、貰わないに越した事はないだろ」

「はあ……っえ?」

 証拠隠滅……?

 吸殻を失くして煙草の箱を残したままというのは隠滅にしてはザルではないか。校長の愛用していた箱なら何が残っているか分からない。俺が何らかのツテで証拠を得ないとも限らない以上回収して然るべきの筈だ。



「気付いたね。そしてさっき君に見せた『界立高校十の校則』という紙はこの中に入っていた。君も知っての通りこの学校の校則は『五つ』しかない。この意味、分かる?」



 証拠隠滅。

 そう呼ぶにはあまりに不自然な手掛かりの残し方。

 また、それは同時に材緣寺の仕業という前提が崩れた瞬間でもあった。

「…………えッ?」

 深い躓きと共に俺は首を傾げた。



 校則その一『校舎内において在学中の生徒は立場を対等とする』 


 校則その二『在学中の生徒は国界選挙の有権者として選挙に参加しなければならない。ただし、特別指導中の生徒はその限りではない』


 校則その三『国界選挙の結果は絶対であり、その結果は全世界に反映されなければならない』


 校則その四『在学中の生徒が死亡・他者による暴力で負傷した場合、国界選挙はすみやかに中止され、その年は前回の結果を延長しなければならない』


 校則その五『この学校の在学者及び卒業者は決してこの国から出てはならない』



 それがこの学校に存在する全ての校則だ。校則と言いつつ大部分が選挙に関わるというのもおかしな話だが、どんな数え方をしても五つから増える事はない。

「だから何だって話かもしれないけどね、しかし無意味にこんなものを残すというのも考えにくい。私には君の潔白を証明出来ないが―――これを追えば、或は結果的にそうなるかもしれないね」

 根拠もなければ確信もない。だが考えてもみれば俺に対する疑惑も中々どうしてこじつけだ。証拠隠滅まできっちりやる辺り、龍斗は何としてでも俺の一票が欲しいらしい。だから生半な証拠などぶつけても効果は無い。

 そもそも俺は圧倒的不利な状況で身の潔白を証明しなければならないのを忘れてはならない。

 現場には立ち入らせてもらえないし。

 恐らく交流のある人物は調べあげられ、保健室以外で捜査進捗を漏らせば龍斗に漏れる。

 何故か複数の事件が校長の死を契機に発生し続けている。

 そんな状態なので、どんな手掛かりに対しても『無意味』『非効率』『無関係』と宣う事は俺には出来ない。やれる事をやるとは即ちそういう事だ。


 ―――取り敢えず蒔凛を頼るしかなさそうだな。


 生徒とはいえ財閥のお嬢様なら十の校則について何か知っているのではないだろうか。奇しくも今後の方針が固まったのは嬉しく思う。





 それはそうと。


 



「先生。何でもしてくれるって言いましたよね?」

「え。うん。言ったねぇ」

「じゃあ膝枕してください!」

 有無を言わさずして俺は彼女の膝にしがみついた。いつにもなく年不相応に甘え始める俺に対して彼女は露骨に困惑を示しつつも、足を開いて俺を歓迎する。これはこれで臍の辺りに顔を埋められるので悪くない。

「……時々思うんだが、蓮二君。君は本当に高校生か? 甘えるなとは言わないけれど、これじゃあまるで幼稚園児だよ」

「ばぶばぶ」

「それは赤ちゃん。……ふぅ。仕方ないなあ。ほら、おいで。私としても恥ずかしいけれど、言ってしまったものは仕方がない。君だって疲れてるんだろうからね」

「ありがとうございますッ」

 体勢が変わる。俺の頭は先生の膝に預けられ、優しく頭を撫でられるのだった。

「こういうのはお母さんに頼みなよ。誰かに見られても私は知らないからね」

「それはつまり安宿先生が俺のお母さんって事で宜しいですか?」

「…………馬鹿。甘えるのも程々にしないと次から変態って呼ぶからね?」


 これから確実に忙しくなる。甘えられる時に甘えておくのは至って普通の事だと俺は声を大にして言いたい。

 

 蒔凛にまで変態扱いされるのは流石に嫌なのでやめておく。
















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