13 月明かりの下で
ご無沙汰しております。
投稿日特に7日にこだわってたわけじゃないのですが、振り返ると7の日が続いてました。
『リョウガ……たしの……わいい……や』
誰かが僕を呼んでいます。優しい声で僕の名前を。
〝リョウガ〟と。
ああ、この声は……
ふと目を開けると、明かり取りの天窓から月の光が差し込んでいます。
ん? 月の光? ここはどこでしょう? いつもの固くてゴワゴワしたベッドではなく、もふもふで暖かです。
「ワフ」
「……アイリちゅ?」
「ワフゥ」
そうでした、思い出しました。
冷たい井戸水で身体をゴシゴシされて、か弱い僕は熱を出したのです。
ここは治療室のベッドのようです。アイリスのお陰でもふもふですね。
アイリスを洗ってくれたみんなに感謝です。
夜ということは、夕食の内臓料理を食べれずじまいではないですか。なんてことでしょう。
それにとても喉が乾きました。さてどうしましょう。
アイリスに手伝ってもらってムクリと身体を起こすと、隣のベッドでモゾモゾと動く気配がします。
「リューク、どうした?」
ゼクスです。となりのベッドで寝ていたようです。
ゼクスはベッドから出て、ボクのところにやってきておでこに手を当ててきます。
「熱は下がったみたいだな」
「ゼクちゅ、おみじゅ」
「ん、喉が渇いたのか? ちょっと待ってろ」
ゼクスは音を立てないように扉をあけて出て行きました。あんなに親切な少年だったでしょうか?
アリア以外あまり接する機会がなかったのでよくわかりません。
顔を上げると天窓から差し込む月明りが何かに反射してキラりと光りました。
『リョウガ』
「……お母たん?」
月光の下に佇む母の姿がそこにありました。
ハイハイで近寄ろうと、手を前に出そうとするとシーツが絡まり、僕の身体はとすんと転がってしまいました。そのままシーツを引きずりながらベッドの端まで行きお母さんに手を伸ばします。
「お母たん?、お母たん」
『リュウガ、私の坊や』
幻でしょうか? 幻でも構いません、そこにお母さんが……
ガチャリ。
「リューク、水持ってきたぞ」
扉の開く音に、母から視線をゼクスに向けたのはほんの一瞬のことでした。
けれど振り向くとそこに母の姿はありません。
「お母たん?」
天窓から差し込む月明かりの下に母の姿はなく、周りを見回してもどこにもいません。
いなくなってしまった。
さっきまでそこに……
「う、うううわぁぁぁん」
「ちょ、リュークどうした?」
「うわぁぁぁん」
ゼクスはカップを持ったままうろたえています。けれど僕はそんなゼクスに構っている場合ではありません。
「リューク、ゼクスどうしました?」
僕の泣く声が聞こえたのか、シスタータバサが部屋にやってきました。
「わかりません、急に泣き出して」
シスタータバサは僕を抱き上げて揺すってあやそうとします。
違う、違います。
僕が欲しい腕は、この人じゃ……うわぁぁぁん。
〈side シスタータバサ〉
あまり泣かないリュークがこんなに大泣きするのは二度目です。
ようやく眠ったリュークの前髪をかき上げつつ額に触れますが熱は下がった様です。
うつ伏せで、ぷりんとおむつに包まれたお尻を突き出す様に眠るリュークは、以前の様な感情のない子供ではなく、ごく普通の子供に見えます。
以前はこんな寝方もしませんでしたから。
こちらで寝返りをさせなければ動くことがなかった。
シスターチェスタもファーザーロレンスも、きっとこの子は長くはもたないと思いました。
けれどリュークはこの一年の間、病気をしませんでした。
本当に不思議な子です。冷たい井戸水で体を洗って熱を出すなんて、当たり前のことなのにリュークは大丈夫なんて思ってしまってましたね。反省です。これからは気をつけませんと。
リュークも普通の子供に……なったんでしょうか?
隣のベッドを覗くと、眠そうな眼差しでゼクスがこちらを見上げています。
「ゼクス、あなたももう眠りなさい。リュークなら大丈夫そうですから」
「はい、シスタータバサ」
目を閉じるゼクスの頭を優しくなでると、眠いのを我慢していたのかすぐに寝入って規則的な寝息が聞こえてきました。
今いる子供達の中ではポッドが一番上で十三歳ですが、性格的なものか十歳のゼクスの方がリーダーシップを発揮して、皆を率いている様に思います。
辺境の地では子供はゆっくり歳をとることができません。
特に孤児院の子たちは早く大人になろうと生き急いでいる様に思います。
そんな子供たちに、子供でいいのだと言えるほど、辺境の孤児院の暮らしは楽ではありません。
悲しいかな、領主様の援助は徐々に減っています。
小さな子供たちは自分の食べるものを自ら探しに行かねばならぬほど。
今年はもう少し畑を広げた方がいいかもしれません。
眠る二人の子供に、掛布をかけなおしてから、そっと部屋をでてシスタータバサは扉を閉める。
扉を閉める最後のほんの一瞬、視線をドアノブに向けず正面を見ていたら、天窓から差し込む月明かりの中に動く影に気付いたかもしれない。
誤字のご指摘ありがとうございます。感謝しております。




