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 ルークのご両親とお食事会―――。


 それってつまり、

『王太子の求婚を断った小娘を、迎え撃つ国王陛下御夫妻』

 ってことだよね?


 なんだか断罪イベントっぽいけど、きちんと謝罪してお礼を言おう。

 ここに残って欲しいと言ってもらったのに、応える事が出来なかった。



 あれ?いやいや、ちょっと待って。

 普通に考えたら、帰れるのに“居ろ”という方が無茶振りな気がする。


 えっ、だよね?

 だって逆に考えたら、ルークが日本に転移してきた場合…

『気に入ったから日本にずっと居てね』

 って言って、居る?

 帰るでしょ?

 そう、だよね。


 いや……。


 ――――だから?


 だから、なに?



 自分の選択が間違っていないと―――?



 嫌だ。


 私…。

 何で今更、帰る理由探しているの?

 この前ルークに言った事で十分じゃない。

 そうよ。


 私は静かに目を閉じた。


 ―――明日の朝には帰るんだ。


 私が覚悟を決めている間に、茜色だった空は深く濃い青にその色を変えていた。

 突然、思い出したように、身体が寒さに震えた。

 暗くなったバルコニーから、辺りを見渡して扉を閉める。

 ―――大丈夫。

 心の中で呟いた。




 夜の帳が降りた頃、翡翠の間を訪ねてきた人物を見て思わず立ち上がった。

 読んでいた本を落としたのにも気づかず、思わず駆け寄る。


「ルーク!」

 嬉しい!

「良かった、もう会えないかと……」

 少しだけホッとする。全面的に避けられていたわけではない、そう思えた。

 私の顔は、今、緩みっ放しのハズだ。

 対して、ルークの顔は複雑に歪んでいた。


「ルーク…?」

 私が首をかしげてその顔を覗き込むと、そのまま固まった。


 もしかして、いや、やっぱり怒っている?


 少し不安になった私の気持ちを察知してか、ルークが表情を和らげた。

「ミツキ…、迎えに来た」


「迎え?」

 その言葉に、一瞬ドキッとした。

「ごめんルーク、私これから国王御夫妻と食事で…」

 ―――いろいろ誤ってくるのよ。その言葉を飲み込んだ。


「分かっている。だから迎えに来たんだ」

「え?どういう事?」


「その食事会には俺も参加する」


 ―――え?


 ルークの前で御夫妻に謝罪するの?

 や、それやりにくいでしょう。

 それはそれで、ちょっと複雑すぎるんだけど―――。


 その思いが、ルーカスに向けられた笑顔の変化に表されていたみたいだった。


「何故、そんな顔をする?―――俺がいるのは嫌か?」

 ルーカスの眉根が寄った。


「そ、そんな事っ、あるわけ、ない、じゃ、ない…」

 これだけ噛んだら、あるって思うよね、普通。

 怪訝な顔のルークに、精一杯首を左右に振り回した。

 真顔で。


 ルーカスの表情が緩み、クックっと笑った。

「おまえは…、ミツキは相変わらずミツキだな」


「?」

 なに?

 どういうこと?


 私の疑問に構うことなく「ほら、行くぞ」と手を引かれる。


 まあ、いいか。


 ルークについて歩き出す。

 温かい、ちょっとゴツゴツした大きな手。

 ああ、ルークの手だ。


 ―――この手を忘れない。

 ギュッと握り返す。


 突然ルーカスが歩みを止めた。じっとミツキを見つめる。


「へ?何?」

 目を瞬かせてルークの顔を見る。

 心なしか頬が赤い?

 何か言いたげなのに、口は真一文字に結んでいる。


 そうして深く息を吐いて、また歩き出す。


 ―――だから何?

 もう、言いたいことがあるならハッキリと…。

 いや、まあ、いいか。

 私も…、言えないことだらけだもんね。


 そのまま無言で歩いていく。

 つないだ手は、いつの間にか指を絡ませていた。

 後僅かな、この時間を心に刻む。



 案内された部屋では、席に着いてもルークがじっと見つめてきていた。

 その視線は熱く少し切なくて、私は目が離せなかった。

 胸の奥がざわめく…。

 生唾を飲み込んだとき、



「ゴホン」

 咳払いにハッとした。

 途端に顔が熱くなって赤面しているのがわかる。


「ルークよ、気持ちはわかるが、給仕が困っておる。そろそろ良いか?」

 肩を竦めて片眉を上げた王が、ちらりと給仕を見た。


「父上、否と言えば待っていただけますか?」

「えっ?」

 そんな父の態度などお構いなしに、真剣な眼差しで答えるルーカスの思わぬ反応は、油断していた王に間抜けな返事をさせてしまった。


「嫌だわ、ルークったら。あなたにミツキさんを独り占めさせるために、この席を設けたのではなくてよ?」

 すかさず王妃が突っ込んだ。

 フフッと優雅に笑うと、王妃は美月にウインクをする。


「失礼いたしました」

 溜息をつき、謝罪の言葉を口にするルーカスの表情は、見るからに不満げだ。

 そもそも、国王夫妻に溜息とかどうなのかと思うが、お咎めがない所を見ると、OKということなのか。

 相変わらず仲の良い王族だ。


 美月は火照った頬を覚ますように手で頬を覆い、ニマニマとキラキラな三人の様子を眺めていた。


 この、夢のような時間もあと少し。

 うん、大丈夫。

 ちゃんと落ち着いている。

 ちゃんと笑えている。

 ちゃんと―――。



 楽しい時間だった。

 謝罪をしようとすると、そんな言葉はいらないと止められた。


 この国の大好きなところ、サッカーの話。

 楽しい時間はあっという間だった。

 笑顔で最後の挨拶を交わす。


 最後まで笑顔で―――そう思っていた。


 だけど、ハグをしてくれた王妃様の手は、少しだけ震えていた。

 優しく迎えてくれた王妃様との思い出を噛み締めた。様々な思いを飲み込んで、笑顔で送ってくれることに胸が熱くなる。

 思いは同じなんだ。


 私もしっかりとハグを返した。



 こうして、私の異世界での生活は終わっていこうとしている。

 今また、ルークに部屋まで送ってもらっている。

 これで終わり。

 後は寝るだけだ。


 いろんな思い出が浮かびそうになるのを、必死で押し込める。今思い出したら、どうなるか自信がない。それよりもこのつないだ手の温もりに浸っていたい。


 不意にルーカスが立ち止まる。


「どうしたの?」

「ミツキ、少し、歩こう」


 方向転換してたどり着いたのは中庭。


 見たことあると思ったら、ルークがプロポーズしてくれたところだ。


 あの日の三日月―――。


 今夜は満月。

 星が見えなくなるくらい、眩しく輝いている。


「今日も月が綺麗だね」

 互の表情が判るくらいに、月明かりが照らしていた。

 私の呑気な言葉と裏腹に、ルークは沈痛な面持ちだった。


「ルーク、ありがとう」

 何度お礼を言っても足りない。

 私の大事な人。


「私はルークを忘れない。きっと一生、あなたのことを思うわ。だから、―――最後にお願いがあるの」


第11部分~第20部分、内容が変わらない範囲で改稿(加筆・修正)しています。

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