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報告 2

 

 レナードの言葉に、嫌がらせというレベルなのかと問いたかったが、その笑顔が怖かったので、突っ込むことはやめておいた。

 ん?もしかして私の無事を祈ってくれたからそれで相殺して呪詛が嫌がらせ程度になったとか?

 いやいや、その祈りだってカムフラージュでしょう、どう考えても!


「それで、そのマチルダ嬢が私を攫って何をしようとしていたの?まさか本当に覚悟を問うだけじゃないでしょう?」

 ってか、普通覚悟を問うのに牛は差し向けないでしょう!そのマチルダ嬢って馬鹿なの?仮にも侯爵令嬢だよね?


「待て、そもそも誘拐にも関わっているのか?」


 ルークの言葉に「?」だ。


「調べていますが、そちらは関わりがないようですね。まあ、マチルダ嬢は持論をたくさんお持ちのようですので、本人からの聴取には時間がかかりそうですが」


 レオの言葉に、「は?」と思わず声が出た。

 なにそれ。

 誘拐犯は別にいる?

「それじゃあ、なに?私は二人から狙われたってこと?」


「誘拐についてはまだ、犯人は確定していないからな。犯人がどれだけの人数なのか、組織なのかわからない」

 ルークの静かな、でも重い声に、私は思わず息を飲んだ。


 組織?

 組織って…。

 なにそれ。

 私ってそんなに狙われるほど人気物件なの?


 違う、そうじゃない。

 ルークの…、王太子の婚約者ってそういうものなんだ。

 馬鹿は…、私も同じだ。

 そんな事なんにも分かってなかった。


 隣に座るルークを見ると、眉根を寄せて少し気まずそうにこっちを見ていた。

 私が何も言えずに黙っていると、フッと笑って頭にポンポンと手を置かれた。

 その優しい表情に、ますます胸が詰まる。


「エクセター侯爵は?」

 美月の頭から手を離すと、ルーカスはレナードに向き直った。


「別室にてお話を聞かせていただいています。もちろん移動制限付きですが」

 まあ、事実上の拘束ですよと、レナードが爽やかに笑う。


「ノーライズ領の件がもう少し調べが進んでから拘束したかったが仕方がないな。まあ、表向きはマチルダ嬢に関連してということに」


「ええ、そのように。ですがまだマチルダ嬢の拘束も表には出していません。先にノーライズ領に動かれても困りますので。エクセター侯爵は政務が忙しく、屋敷に帰れないという事で、引っ張れるだけ引っ張りますよ。ノーライズ領からの報告はあと数日で上がってきますしね」


「そうだな。オリヴァー、状況が確認出来次第出立できるように」

「御意」


「あと…、ミツキ」

「へ?」

 まさかこのタイミングで呼ばれるとは思っていなかった。完全に安心しきっていた。


「この状況では気になるかもしれないが、()()()()()()()()()に過ごしてくれ」


 ルークの少し困った顔に、私も胸が痛む。

 急に行動を変えれば、何かあったのかと周囲に勘繰られる。さっきまでサッカーの練習も控えなければと思っていたけど、そうじゃないってことね。それにできる限りってことは…。

「うん、分かった。今日と…、実質あと二日だもんね。それくらいは頑張るよ」


 その場の空気が固まった、気がした。

 だけど、そんなこと気にしていられない。隣のルークを見上げニッコリと笑ってみせた。


「ルーク。いつ何があるかわからないから、今のうちに言っておく」

「―――っ」

 私の言葉に、ルークの表情が歪んだ。

「ありがとう。あなたに逢えて、私はとても幸せだった」

 ルークに精一杯の笑顔を向ける。


「レオ、団長、カイト隊長。皆ありがとう。お世話になりっ放しで離れるのは心苦しいけど、タイムリミットが迫ってるから」

 少し肩をすくめると、レオの目が細められた。

 団長が、私とルークを見比べながら何かを言おうと口を開きかけた。でもそれは、ルークの上げた右手によって制される。


「ミツキ、疲れただろう?もう今日は休んでいいぞ。――カイト、ミツキを部屋まで送ってくれるか」


「――御意」

 ほんの一瞬躊躇ったカイト隊長が恭しく礼をする。


「わかった。ありがとう」

 私は、自分の言葉で冷え切ったルークの執務室を後にする。

 丁度良かった。

 私もそろそろ限界だった。

 そんなにこの感情を押し込めていられそうになかったから。


 奥歯を噛み締め、足早に翡翠の間に向かった。




 冷え切った空気の中、レナードが低く重い声で問いかける。

「ルークは、それで良いのですか?」


「良いも悪いも、ミツキがそう決めたんだ」

「私はあなたの気持ちを聞いているのです」

 レナードは、ルーカスの目を真っ直ぐに捉えた。



「俺の気持ち?―――はっ、そんなもの何になる?俺の想いがどうあろうと、あいつの気持ちは初めから決まっていた。今日そのことをはっきり告げられた、只それだけだ!―――俺の気持ちなど何の役にもたたない!」

 苛立ちを隠せず、語気が荒くなる。

 俺の気持ちの思うままに振舞って良いのなら、ミツキを城の奥に閉じ込めて帰さない。帰すものか…。

 ―――クソッ!


 ダンッ

 思わず叩いたテーブルの音が、執務室に虚しく響いた。


 違う!そんな事がしたい訳ではない!そんな未来を望んでいた訳ではない…。

 違う……。


 俺は荒れ狂う胸の内を自制しようと、拳を握りしめた。




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