告白 2
ルーカスが、美月の頬に流れる涙をそっと拭った。
その手の優しさに、こみ上げる想いがさらに涙となって溢れ出す。
奥歯を噛み締め堪えようとしても、一度溢れてしまった思いは止められなかった。
「―――ごめっ、…ん。止まら、な…い…」
悲しみ、苦しみ、寂しみ…。いろんな感情が一気に吹き上がってくる。このままだと、せっかく蓋をした想いまで吐露してしまう。
もうどうしたらいいのか分からない。胸が張り裂けそうだ。
えも言われぬ不安に、頬に添えたルーカスの手を握りしめる。美月は胸の痛みに耐えるべく、その手にすがりついた。
「ミツキ―――」
呼ばれて顔を上げると、心配そうに覗き込むルーカスのエメラルドグリーンの瞳があった。
「ふぇっ…、ルーク……」
大好きなその顔が涙で滲んでいく。
触れているこの手から、愛しいという感情が流れ込んでくるかのように熱が伝わってくる。
この大きな手に何度も助けられた。大事に包んでくれた。何度も…何度でも。
この世界で出会ったかけがえのない人。
その笑顔も、拗ねた顔も、呆れた顔も困った顔もその全てが美月にとっても愛おしい。抱きしめる腕の強さも、囁く言葉も、甘い口づけも…。
ほかに何もいらない。
ただそこにいるだけで、同じ時間を過ごす、それだけで十分だった。
それなのに……。
いくら望んでも永遠に届かない。
触れることも、見ることさえ出来ない世界に帰るのだ。
「――――っ」
そんなの、耐えられない。
「うっ…、ふっ……」
胸が痛い。
息が苦しい。
すがりつく手に力を込めると、頬から手を離し、強く抱きしめられた。
「そうやって一人で堪えるな。何のために俺がいるのだ?」
「――――」
美月は逞しい胸に埋めた頭を、小さく振った。
「だから馬鹿だと言うんだ。俺もお前も思いは同じだろう?何もかも吐き出して楽になれ」
「――――!」
ルーカスの袖を握り締めていた手に、さらに力が入る。
「ミツキ…」
ルーカスが優しく、美月の髪に、耳朶に口付ける。全身を強ばらせている美月の心を解きほぐすかのように。
「ルーク…、いや…」
「ミツキ?」
ルーカスは僅かに逡巡した。
「嫌、ルークと離れるなんて嫌…。っ、嫌だ」
「ミツキ!」
「嫌ぁぁ―――」
美月が慟哭する。
その悲痛な心の叫びをルーカスは知っている。
すがるように二人は抱き合った。
同じ思いを共有するものとして。
唯一無二の存在として―――。
只々抱き合った。
どれだけ時間が経ったのだろう。
いつしか涙は止まっていた。
ルーカスの胸の中、その居心地の良さにすっかり体を預けていた。
「ルーク…」
「ん?何だ?」
美月の問い掛けに、甘く優しい響きが返ってくる。
その反応に安堵する。
「疲れた」
ぼそっと呟くと笑われた。
「少し座ろう」
ルーカスが来ていたコートを脱ぎ、草の上に広げどうぞと勧めてくれる。
「え、ダメだよ。草の汁が着いちゃう」
これは曲者だ。落とすのに結構難儀する。
「心配するな、大丈夫だ。俺は便利な魔法使いだからな」
軽く片目を伏せるルーカスに刹那見とれる。
「そ、そんなことまで出来るの?――便利すぎる…」
目を丸くする美月に、ルーカスも微笑む。美月の手を引いてコートの上に座らせ、ルーカスも隣に腰を掛けた。
「まあ、俺がやらなくても城には優秀な人材がいるからな。見事に元通りになるぞ、物によってはそれ以上にな。泥汚れに草木の汁、血糊…。っと、悪い、これは女性にする話ではなかった…な……」
しまったと美月を見たルーカスが、僅かな間をおいて眉根を寄せた。
―――その輝かんばかりの笑顔は……。
「そうだよね!私の練習着もストッキングもいつもすっご~く綺麗になって帰ってくるもの!どんな仕事してるのか気になっていたのよ!やっぱり専門の人がいるんだ!凄いね~~」
「おまえは一瞬で表情が変わるな。さっきまで泣いていたのは幻かと思うくらいに…。その調子なら今からでも見に行きそうだしな」
「え?行って良いの?」
「――――待て」
思わず腰を浮かしかけた美月を、慌てて止める。
「俺を置いていくつもりか」
「―――あ」
……コイツ本気で行く気だったな。ルーカスがジト目で見る。
「ゴメン…」
やばい、本気で忘れるところだった。ってか忘れてた。私、単細胞すぎる~~!
目を白黒させたあげく、引きつった笑みを見せる美月にルーカスが笑い出した。
「そんなに興味があるなら手配はするが、今は…。今この時間は…、お前の時間を俺にくれないか?」
甘く笑いながらルーカスが参月の顎に手を伸ばす。
「う、うん。それはもちろん…」
その笑顔に心臓が跳ね上がる。
いや、色気がダダ漏れですけど、王太子様。
自分の顔が赤くなっていくのがわかる。
赤い顔の美月を見て、ルーカスがくすりと笑った。
「ミツキ、口が開きっぱなしだ」
そう囁いて、美月の唇を啄む。
それから互いに目を合わせて唇を重ねた、何度となく。
…熱い思いが溢れてくる。
それをすべて受け止めようと、美月は無意識のうちにルーカスの首に手を回した。ルーカスもそれに答えるかのように美月の腰を抱きしめた。
互いに抱き合い、貪るように口付けを交わした。
今だけは、この時だけは何も考えずに―――。




