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王妃様 2

「あのっ…」

「あら、なあに?何か良いお話かしら?」

 王妃が優美な微笑みを絶やさず見つめてくるが、その奥に、その言葉以外の話は許さないという圧力を感じる。


「…いや、その…」

「なあに?話しにくいようならわたくしの話を先に聴いていただいてもよろしいかしら?」

「は、はい。それは勿論」

「あら、よかったわ。私ミツキさんにお願いしたいことがあったのよ!」


 緩まない無言の圧力に“お願い”という言葉が加わり、美月の緊張感を否が応でも高めていく。


「何でしょう?」

「わたくしミツキさんを見ていて思いましたの。ハーヴェロードにもこんな元気な女の子が増えたらいいなと。この国では女性の活躍する場面が少ないのよ」

「それは感じます」

「でしょう?家督は長男が継ぐし、ほかの次男三男もそれなりに仕事はするけれども、女の子ってお嫁に行くことが人生最大のイベントでしょう?もちろん家を守っていく、それも大事なことだけれど。でも結局は執事だの家令だのがいるわけじゃない?」

「そう、ですね…」


「だからね、わたくし思いましたの。ハーヴェロード王国にも、ミツキさんの国のように女の子のサッカーチームを作ったらどうかって」

「えっ!」

「うふふ、びっくりした?」

「…はい」

 王妃が悪戯が成功した子供のように笑った。


「ねえ、考えたら素敵じゃない?あなたのような元気な女の子達が走り回って試合をするのよ。もちろん、あなたのように小さい時からサッカーをするのがベストだと思うの。でもね、わたくし、この数日前に見てしまったのよ」

「何を…ですか?」

「数人の女官が、ボールを蹴っている所を」

「ええっ!!」

「ねえ、びっくりでしょう?」

「はい」

 王妃が楽しそうに笑うのを、美月も瞳を輝かせて見つめていた。

 サッカーに興味を持つ女性がいる!そんな些細なことでも、大きな勇気が湧いてくる気がした。


「お休みの日だったんでしょうね。ワンピースのスカートを持ち上げながら走っていたの。城の外の空き地でね」

 美月の顔が輝きを増す。


「それを見て、ああ、これは女子サッカーチームを作るべきだって思ったの!まあ、今、騎士団の殿方も練習しているようだから、()()()に彼らもチームを作れば良いとは思いますけれど?―――どうかしら?」

「素敵です。王妃様!実現すれば、とっても素敵です!」

 いつしか二人は、手を取り合っていた。


「ありがとう。あなたならそう言ってくれると思ったわ」

「ただねぇ、困ったこともあるのよ」

「そう、なのですか?」

 少し目を伏せる王妃を、美月は心配そうに見つめた。


「ええ、そうなのよ。王国に国王がいるように、騎士団に団長がいるでしょう?サッカーチームにだってそれを統べる者が必要じゃない?」

「勿論です」

「わたくしが適任だと思う人が一人しかいなくって。その方がどう思うのか、受けていただけるのかが分からなくて…」

「でしたら、私からもお願い…、いえ、説得します!」

「本当に?」

「ええ、是非!」

「嬉しいわ!あなたにそう言ってもらえたらどんなに心強いことか!」

 王妃が美月の手を握り締めた。

「王妃様!」

 美月もしっかりと握り返す。


「じゃあ、受けてくれるわね?」

「はい?」

「今、説得してくれるって言ったでしょう?」

「言いましたが?」

「だから、あなたよ。あなた以外に誰が適任だというのかしら?」

「ですが、私は…」

「賛成してくれるんでしょう?受けてくれるわよね?」

「……王妃様…」

 美月の腕から力が抜けていく。


「ごめんなさい、驚かせてしまったようね。でも、私の気持ちはもう決まっているの。急なことだと思うのだけれど、考えてくれないかしら」

「………」

「お願いよ」

「―――はい」

 消え入りそうな返事を確認すると、王妃は相好を崩した。


「それじゃあ、せっかくだもの。目の前のデザートをいただきましょう」

「はい…」


 更に力ない返事に、さすがの王妃も眉尻を下げた。

 顔を伏せたままムースを口に運ぶ美月に苦笑する。

「ごめんなさいね、ミツキさん。そんなに悩ませるつもりじゃなかったのよ。さっきの話は後で考えてくれればいいの。まずは楽しくいただきましょう?」


「ああ、違うんです、王妃様」

「え?」

「私、昨日から味覚がおかしくて、味を感じなくなってしまっているんです」

「どういう事かしら?」

「私にもよくわからないのですが、以前にも同じようなことがあったので、数日で治ると思うのですが―――」

「それじゃあ今は…」

「申し訳ございません。先程のタルトも以前頂いたものと似ていたのでその味の感想を言っただけなんです」

「そう、…おかしいと思ったわ。だって、そのタルトはあなたが来る前に、料理長が試食させてくれたのよ。爽やかな酸味のクリームに完熟の桃の甘さがちょうどいい具合だったの。あなたの言った感想と逆だもの」

「すみません。料理長にも申し訳ないことですね」

「仕方がないわ。大丈夫よ、食べることが辛いなら、わたくしと舌の肥えた侍女とで、しっかり食べて料理長に感想を伝えるから」

「そうしていただけると有難いです」


「それと、ちゃんと医師に見てもらわなければダメよ。今、来てもらうから待っていなさい」

「いいえ、それには―――」

「ダメよ。ここではわたくしがあなたの母親代わりなのよ、言うことを聞きなさい。いいわね?」

 王妃が美月の鼻先を軽く弾いて笑った。


 美月は何とも言えず真っ赤になって頷いた。


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