三人組 2
「これはどういう状況でしょうか?」
騎士団の会議室に到着して早々に、レナードの柳眉が上がる。
呼ばれて来たはいいが、何故、誘拐犯と被害者が向かい合って座っているのです?しかもルークまで。意味がわかりません。そしてこんな時絡んでいるのは、やっぱりミツキですね。そうでしょうとも。
「レオ、悪いな。一緒に話を聞いてくれないか?」
「それは構いませんがね…」
「彼ら3人はノーライズ領から来たそうだ」
「ノーライズ領から?」
「ああ、領主の自警団に属していたが、領主の交代を機に西から兵士を雇い、自警団は村から締め出されたらしい」
レナードが眉根を寄せる。
「それで仕事を求めて王都に来ることにしたそうだ。ではセイジ、続きを」
ルーカスに促されたセイジが静かに頷いた。
「私たち3人が王都を目指したのは、使わなくなった教会を改修するのに人夫をまとめて雇うという話があったからです」
再びセイジが話し出す。
だが、馬車と徒歩で7日間かけてやっと王都についてみれば、期待していた仕事はなかった。積荷が遅れていて資材が来るまで仕事はない、しかもいつ着くのかは未定だと。
セイジたちは、なけなしのお金を叩いて王都に来たのだ。見通しが甘かったと言えばそうだろう。しかし、悔やむ暇はなかった。とにかく何か仕事を探さないと、三人で野垂れ死ぬだけだ。
ところが、いや、やはり、田舎から出てきたばかりで紹介者もいないセイジたちを雇ってくれそうなところは、なかなか見つからなかった。そんな時にあの男に声をかけられた。
天の助けだ。簡単な用心棒のような仕事だと言われ、支度金まで払ってくれるという話にセイジは飛びついた。
後悔したのはその後だ。蓋を開けてみると、王太子殿下の婚約者の誘拐だというではないか。騙されたと思った。そう思っても、セイジたちに拒否権はなかった。支度金はすでに食費に使っていた。何より断るならば“死あるのみ”だと言われた。
「そこで私は自分に負けたのです。…申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるセイジは見ていて痛々しかった。
「ねえ、頭を上げて?その後悔が馬車の中でのマシューの涙だったのね?」
「お、俺が、落ちこぼれだから、…鈍臭いから悪いんだ。だから仕事が限られて兄貴が苦労するんだ!兄貴は悪くない!悪いのは俺なんだ!」
美月の口から名前の出たマシューが、思いの丈を口にする。
「おい!言葉遣いに気をつけろ!」
「っすみません!」
イアンに怒られ、マシューが飛び上がった。
「イアン、あなたも落ち着いて」
「申し訳ございません」
「まあ、でも良かったわ」
美月がホッと息を付く。
何を言っているのだと皆の視線が美月に集まった。
「ミツキ、この状況で何が良かったというのですか?」
レナードが、皆の思いを代弁する。
「あ、ごめんなさい。マシューが泣いたのは私を怖いがっているからじゃないかと気になっていたから…。それを確認したかったの。でも私の思い過ごし…」
「怖かったです」
「え?」
「ミツキ様は縛られても笑っていました。それが怖かったんです」
「………」
皆の生暖かい視線が向けられた。
「ちょ…、ちょっと、そんな目で見ないでくれる?あの時は、ルークとレオのやり取りを想像して笑っただけよ!縛られて喜んでいた訳じゃないからね!」
―――それでも、笑わないだろう。
皆はその言葉を飲み込んだ。
「あなたという人は…。それで?確認したいことは終わりましたか?でしたら私の方からも確認したいことがあるのですが…」
「ああ、待って、後ひとつ聞きたいことが…」
「――――では、どうぞ」
レナードが肩を竦める。
「ありがとう。…ねえ、セイジ。港で…、私に睡眠剤が効いていないこと、わかっていたでしょう?船の上でもわざと蹴られてくれたよね?私を逃がしてくれたのは何故?」
「――――私たちの仕事は港までという話になっていました。ですが、いえ、そこもやはりというべきでしょう。そんな約束は無いも同然でした。きっと私たちはこのまま誘拐犯として突き出されるか、殺されるかのどちらかしかないのだろうと思いました。ならばせめてあなただけでも、ミツキ様だけでもと思ったのです。幸い船は出航しています。警備の兵も、乗客も大勢いる。あの男の逃げ道のない今なら何とかなるのではないかと」
「そう。ありがとう…。おかげでこうして助かったわ。マシュー、リオ、足…、思いっきり踏んだから痛かったでしょう?ごめんなさいね。私も必死だったから加減が出来なくて」
三人組が目を丸くしている。
「何故、被害者が誘拐犯に礼を言ったり謝罪をしているのか、私には理解ができません」
レナードがメガネを押し上げながら嘆息した。
「私の気持ちの問題よ。―――さあ、私の確認は終わったわよ?」
美月の促しに、レナードは姿勢を正した。
「承知しました。ではノーライズ領についてですが…。領主が代替わりしたのが2年前でしたね。それから待遇が変わったのは自警団だけですか?」
「いえ、領主様の経営する塩田も、その他の仕事も、領主様直営のものは全て孤児院に関わっているものは除外されました。仕事がなく村を離れる者も私たちだけではありませんでした」
「ですが塩田にしても新たに人を雇わないと、あれだけの規模を維持するのは難しいでしょう?」
「それは初めのうちだけです。すぐに西から人が雇われてきました」
「西?兵士も西から雇ったと言いましたね?西とはどこのことですか?」
「わかりません。でも新しく来た家令の故郷だと噂で聞いています」
「噂ですか…。それでも塩田の規模を縮小しなくてはならなかった?」
「いえ?寧ろ規模は拡大していっています」
「―――なるほど」
ルーカスとレナードが視線を合わせた。




