表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/129

覚悟 1

 今朝は随分冷え込んでいる。

 少しだけ悴んだ手を、温めようと吐いた息が僅かに白くなる。


 花壇を彩るダリアも、心なしか寒そうだ。


 ―――冬が来る。


 まだ見ぬハーヴェロードの冬景色を、想像しかけてやめた。

 突然の風に慄く。

 北の山からの吹き降ろしの風が、胸の奥まで吹き抜けていったかのようだった。


 美月は再び歩きだし、騎士団の練習場へと向かった。


「ミツキ殿―、待ってくれ、ミツキ殿―――」

 いつもの声に振り返る。

 オリヴァー騎士団長が駆けてくる姿に、少し胸が温かくなった。


「あれ?団長、今日は休みだって聞いていたんだけど」

「そうなんだが、トレーニングには付き合おうと思ってなぁ」

「………」

 思わず目を瞬かせた。


「私のせいで忙しかったんでしょう?ゆっくり休めばいいのに!」

「何を言っている!ミツキ殿のせいではない!」

 驚く美月に、団長の大声が飛んだ。


「…や、…でも…。何というか…、ねえ?」

 美月は言葉を濁した。

「何というか?何だ?」

「―――いや、やっぱいいわ。…じゃあ、今日もよろしく!団長」

「ああ、2日ぶりだからな、皆楽しみにしているはずだ」

「そっか。うん、わかった」


 美月は当然のことながら、ジェイソンもジョージもイアンも、私の救出の為に港町まで来てくれていた。マイクとリチャードは、事件の処理と調査の為にまだ港街に残っていると聞いた。

 勿論、朝一のサッカー練習などできるわけがない。団長だって騎士団の取り纏めをしているから働き詰めの筈だ。

 騎士団だけではない。美月には想像もつかないくらいの多くの人が、美月の救出に関わっている。

 昨日の国王夫妻のお出迎えには、自分の仕出かした事の重大性に気付かされた。だけど、どうしたら良かったのかなんて考えても分からない。私はきっと同じことをしてしまう。レオには自覚を持つようにと言われたけど、一体何の自覚を持てばいいのかすら分からない。

 唯一分かっていることは、怒られそうだから口にはしない。でも、考えてしまう。

 ―――迷惑かけているなあ―――と。

 それも迷惑かけたくない、大事な人ばかりにだ。


 考え込んだまますっかり無口になった私の隣で、団長は静かに歩調を合わせて歩いてくれる。

 優しいよね。

 泣きそうなくらいに。


 騎士団の練習場に着くと、そこにはいつものメンバーが待ってくれていた。

「ミツキー、遅いぞ!待ちかねた」

「ミツキ、今日は何をするんだ?」

「ミツキ、シュートが曲がらないんだが、ミツキのように弧を描くにはどうしたらいい?」


 いつもの会話にいつもの笑顔。

 ありがたくて、嬉しくて、やっぱり申し訳なくって…。


「みんな、助けに来てくれてありがとう。それと、迷惑かけてごめん」

 やっぱり黙っていられなかった。

 頭を下げる私と一瞬の静寂。

 折角、みんなが気をきかせてくれたのに、ぶち壊しちゃったか―――

 ところが、すぐに笑い声が湧き上がる。

 ―――あれ?


「何言ってるんだ、ミツキ。助けに行くのなんて当たり前だろう?」

 リチャードが声をかけてくれる。

「そうだ、何を言っているんだ」

 ハーリーも笑っていた。

「まさか、俺たちが助けに行かないと思っていたのか?それはそれで傷つくぞ!」

 ジョージがにやりと笑う。


「いや、それはないよ。だってみんな騎士団の立派な騎士だから…」

 美月は慌てて否定する。


「なんだよそれ」

 リチャードの機嫌が悪くなった?

「そうだそうだ」

 ハーリーは相変わらず相槌を打っている。

「確かにミツキは殿下の大事な婚約者だ。それは変えようのない事実だ。だが、俺たちにとっては婚約者である前に、仲間だ。大事な仲間なんだ」

 ジョージが力強く語る。

「そうだそうだ」

 相変わらずのハーリー。

「大事な仲間を助けに行くのに騎士団は関係ない」

 イアンが微笑んだ。


 美月は驚いて顔を上げる。


「え、何だその顔は?えっ、もしかしてそう思っていたのは俺たちだけ?」

 イアンも驚いた顔をしていた。


「本当か?それはショックなんだが」

 ジョージも目を見開いている。


「あ、団長。睨まないでください。もちろん騎士としての矜持は捨てておりません」

 リチャードはオリヴァーの表情を敏感に読み取っていた。


「当たり前だ。だが、ミツキ殿。そういうことだ」

 オリヴァーも笑っている。


 いつの間にか泪が零れていた。

「ありがとう皆。…私もみんなのこと、大事な仲間だと思っている…。私、私も…、皆のピンチには、私も戦うから!」

 美月は力いっぱい握った手で、語気を強めた。


「いや、それはいい」

「そうだな、それはやめてくれ」

 即座に否定される。


「え、なんで?それじゃあ、不公平だ」

 折角やる気なのだ。


「いや、流石にそれはダメだろう。それにサッカーで充分助けてもらっている」

 イアンが慌てる。

「そうだな。ミツキ殿にはミツキ殿にしか出来ないことがある。俺たちはもう十分助けてもらっているよ」

 オリヴァーが感謝の意を伝えた。


「皆…。分かった。みんなの気持ちに応えれるようにもっと頑張るね」

「その意気だ」

 異世界でのサッカー仲間と、改めて気持ちが通じ合えた。じわりと胸が温かくなる。



「うん、ありがとう、団長、皆。それじゃあまず初めに、感謝のリフティングから行こうか!」

「感謝のリフティング?」

「うん。みんなのリフティングが1000回続けられるよう懇切丁寧に、がっちりしっかり指導するよ!さあやろう!」

「1000回?」

「なんだそれ?そんなに出来るのか?」

「いや、俺はシュートを…」

 皆が動揺する。


「はい、つべこべ言わない!みんなボール持って…、用意スタート」


 訓練場で汗を流す団員たちの火照った頬を、北からの乾いた風が吹き抜けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ