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サッカー女子のソウルフード 2

 地下への螺旋階段を下り切ったところには、ワインセラーがあった。棚というよりは分厚い壁の中がくり抜かれそこにワインなどが並んでいる。その夥しい数に圧倒されつつ、美月は料理長の案内に従い次の部屋へと向かう。

 次に案内されたところは生鮮食料貯蔵室。鴨や鳩、ガチョウに兎などこれから捌かれるのであろう獣肉が吊るされている。その奥ではチーズやバターを貯蔵しているという。なかなかにワイルドな匂いに満ちていた。

 次の部屋では、食器もカトラリーも種類や材質ごとに分けられており、その数は美月の想像をはるかに超えていた。その中でも王族の使うものは別の部屋で保管されているという。

 1階に上がり調理場に行くと、そこはさながら戦場だった。鍋を振る音に食材を洗う水音、調理中の炎の音、その合間に怒号が飛んでいる。ここでも王家の食事を扱うものとそうでないものは、ハッキリと区切られていた。帽子にも制服にも王家のものを扱える者には特別な紋章が授けられていた。


「すごい…。想像以上でした。でも活気があって楽しいですね、一日中居られそうです」

「なんと、それほどに気に入っていただき光栄ですな。して、ミツキ様のお国の料理はお教えいただけますかな?」

「ええ、勿論!そこの空いている調理台を使ってもよろしいでしょうか?」

「なんと、今からお作りになられるのですか?」

「はい、材料も揃いそうなので」

 美月はニッコリと笑った。




 そっと扉を押し開ける。

 中を覗いてキョロキョロと確認する。

 ……あれ?誰もいない。アイラもどこかに行ったのかな?まあでも…。


「良かった。間に合ったみたいだね」

 ホッと胸を撫で下ろす。


「何に間に合ったんだ?」

「ひゃあっ!!」

 誰もいないと思っていた所に声がしたのだ。驚きと後ろめたさに、持っていたお盆を放り投げそうになった。


「ルーク…。来てたんだ」

「来ると言っておいただろう?まったく、…帰った早々に忙しいことだな?」

「お陰様で…」

 美月は肩を竦める。

「まあ、元気にはなったみたいだな」

「うん、皆のお陰だよ…」

「そうか…」

 美月の笑顔にルーカスも安堵した。


「ところでそれは?」

「あ、忘れてた。さっき料理長に、私の国の料理を教えてほしいって言われてね。ここにある食材で私が作れる物ってこれくらいかなって思って…」

「ミツキが作ったのか?」

「そうだよ。食べてみる?」

 美月は持っていたお盆をテーブルに置き、ドームカバーを開けた。


 ふわっと香るニンニクとハーブ。

 だがそこにあったものは、ルーカスが見たこともない茶色の物体の山。

 更にはその横に、小枝の切れ端のようなものが積み上げられている。彩に野菜が添えられてはいるが…。


「………」

 ルーカスは冷や汗とともに、リアクションに困っていた。

「皆同じリアクションするんだね」


「あ、いや、……皆とは?」

「料理長たち。香りはいいが形がグロテスクだって」

「グロテ……」

「この形が食欲そそるんだけどなぁ。仕方がないか。まあ、いいや、一口食べてみる?私が毒見するから」

「わ、わかった」

 覚悟を決めた緊張感漂うルーカスの表情に、若干の怒りを覚えながらも、美月は毒見を終えたものを差し出した。

 ルーカスが受け取り、生唾を飲み込んでから口に入れる。

 その様子に更にムッとしながらも、美月は黙ってルーカスの反応を見ていた。


 ルーカスは一口噛むと目を見開いた。

「美味い!」

 思わず口にする。

「ふふっ、そこも皆と同じだ」

「これは?」

 ルーカスが隣の小枝を口に放り込んだ。

「待って、まだ毒見が…」

「ミツキが作ったんだろう?なら良い。…これも美味い!」


「お口に合って良かった。何が作れるかなーって考えたときに、ふっと気がついたんだ。こっちに来て揚げ物を食べてないなって」

「揚げ物?」

「そう。油を使って高温で調理するのよ。料理長に聞いたら、低温で料理するものはあるけど高温調理は無いって言うからじゃあって、ね。でもすぐ使えるものが鴨しかないって言うし、なんか固そうだったから対策としてうちの母直伝の玉ねぎのすりおろしとワインビネガーも揉み込んで、醤油の代わりにトマトソースを使てみたり…、いろいろ苦労したのよ?その唐揚げ」

「唐揚げ…。美月はよく食べるのか?」

「勿論!学校の近くに唐揚げ屋さんがあってね。本当は、揚げ物は消化によくないからって運動後には推奨されてないんだけど、そんなこと言ってられないくらいに何時もいい匂いがしてるんだもの。だから友達と寄り道しては、唐揚げとか、フライドポテトとかコロッケとかを食べてるのよ。いわば私たちサッカー女子のソウルフードね」

「ミツキはいつでもどこでも食べているんだな」

「だって、動くとお腹がすくんですもの。お腹がすくと苛々するじゃない。身体の為にも心の為にも食べなきゃ!食は命の源よ!」

「そ、そうだな…」


 食に関して譲らない美月の力説に押されながらも、唐揚げとフライドポテトに手を伸ばすルーカスだった。


 この後、唐揚げについての力説を終えた美月が、残り1個になった唐揚げを目にして固まりその恨みを買うことになろうとは、この時のルーカスは知る由もなかった。


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