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覚悟 2

「今日は随分地味な練習しているね」

 転がったボールを拾っている美月に、サミュエルが声をかけた。

「あら、サミュエル王子、来ていたんですか?」

「酷いね、ミツキ。僕は毎日来ているじゃないか」


 ―――ああ、そういえば…。

「…そうでしたね」

「それに、…今日はミツキに大事な話があるしね」


 ―――大事な話…。

「―――わかりました。…それと、サミュエル王子はご存じないかもしれませんが、地味な練習ほど大事なんですよ。今やってるドリブル練習も、次に行うパス練習だってね。リフティングは…、まあ1000回もしなくても良いんだけどね。それじゃ、後で」

 表情が強ばったのは一瞬のことだった。美月は笑って去っていく。


「地味な練習ほど大事ねぇ。―――知ってるよ、そんな事」

 サミュエルは頬杖をつき嘆息した。


「これは驚きました。地味な練習が大事だと知っておいででしたか」

 後ろからかかる遠慮のない言葉に、片眉を上げる。


「ジュール…。今のは独り言だ。話を広げなくてもいいよ」

「殿下は地味な練習はお嫌いですものね」

 サミュエルの片眉が再び上がる。


「この前から、嫌味に遠慮というものが無くなってきているようだけど?」

「おや、“嫌味”と仰られるということは、私の言葉は殿下に届いているのですね」

「……何が言いたいんだい?」

「申し訳ございません、殿下。ですがそこは訂正させていただきます。私のこれは、嫌味ではなく忠臣からの進言でございます」

「じゃあ、もう黙っててくれる?」

「…御意」

 もともと気の利いた話などしない側近は、良いか悪いかだけを判断して引き下がるのが常だ。それも呆れるほどにあっさりと。もちろん説教などされたこともない。それなのに、最近は会話が続いている。嫌味にしか聞こえないので、楽しくはないし苛々させられているだけが…。ハーヴェロードに来てからその兆候はあった。だが、美月の誘拐事件以降、特に顕著に現れている。


 そういえば、『ハーヴェロードに来てから思う所があった』と言っていたな…。…余計なものに感化されないで欲しいんだけどね―――。

 面倒くさくなってきたと、再び嘆息した。




 基礎練習をみっちり行い、最後にミニゲームで締めて練習は終わった。

 練習場を出ると、サミュエルが待っていた。


「やあ、ミツキ、お疲れ様」

「殿下も毎回お疲れ様。そんなにサッカーが好きなら一緒にすればいいのに」

「あれ?前にも言ったよね?サッカーをしているミツキを見るのが好きだって」

「そうでした?」

「そうだよ。ところでミツキ、なんで今日は付き添いがいるんだい?」

「付き添い?」

 サミュエルの目線を見る。オリヴァーと目があった。

「団長は今日、お休みなんですよ」

「へえ、休みの日にサッカーに付き合ってるの?…律儀だね」


「それで、大事な話ってなんですか?」

「ああ、―――歩きながら話そうか。休みの団長殿に申し訳ない話だけどいいかな?」

「何のこと?団長に関係ある話なの?」

 美月が怪訝な目を向ける。


「関係ないとは言えないだろうね。多分休んでいられなくなる」

 サミュエルはどこか楽しそうに言った。

「何?どういうこと?」


「メイソンが回復したと言えばわかるかい?」

「!」

 美月の足が止まった。


「正確には、完全な回復じゃない。だけど、どうせ精霊の力を借りるんだし、ミツキを帰すことぐらいは出来そうなんだよ。お望みなら明日にでも」

「明日………」

 美月は自分の顔が青ざめ、火照っていた身体の体温が一気に下がるのを感じた。さっきまでしていた葉擦れの音も、今は何も聞こえてこない。こんなに木々がざわめいているというのに。一人だけ隔離されたみたいだった。かわりに耳鳴りがしてくる。


「お待ちくださいサミュエル殿下。ミツキ殿の誘拐事件に関しての調査も、まだ終わっておりません。しばらくお時間を頂けませんでしょうか」

 オリヴァーが慌てて介入してくる。


「ほらね、休んでいられなくなっただろう?で、時間とは?どれくらい要求するつもり?」

「それは私からお答えすることはできません。協議してまいります」

「ふうん、わかったよ」

「では、早速報告に…」

 オリヴァーが去ろうとしたその時、呼び止められた。


「待って!」

 不穏な呪縛を解くかのように、美月は声を張り上げた。


「ミツキ殿…」

 オリヴァーが止まったのを確認して、美月は一度深呼吸をする。それからサミュエルに向き直った。


「サミュエル王子、私は本当に帰れるの?」

 真剣な眼差しだった。


「そうだけど、どういう意味だい?」

 サミュエルが肩を竦める。


「だって、サミュエル王子は私を迎えに来たんでしょう?それなのに帰してくれるというのは何故?」

「なんだ、そんな事―――。言ったじゃないか、君の望みを叶えてあげたいって。君が帰りたいって言っているんだ。そうするしかないだろう?」

 サミュエルが嫣然と笑う。


「それを信じろと?私の都合などお構いなしに異世界に連れてきておいて、私が望むから帰すなんて言われても、信じられるわけないでしょう?―――誤魔化さないで」

「誤魔化しているつもりはないんだけどね」

「私を本当に元の世界に戻してくれるというのなら、その確証を頂戴」

「確証ねえ。…ミツキ、君は相変わらず手厳しいことだね。分かったよ。それはメイソンに何とかしてもらおう。それでいいかい?」

「わかった」

「それと何故ミツキを帰すのかという質問だったね」

「ええ」

「そんな事、簡単だよ。ミツキがここにいることが嫌だからさ」

「……」

「やっとミツキに会えると思ったのに、君は僕の下ではなくハーヴェロードの、しかも王城に落ちた。寄りにも寄って。僕がどれほど慌てたかわかるかい?嫌な予感がして急いで来てみれば、君は王太子の婚約者だというじゃないか。馬鹿な、君には他に好きな奴がいたはずだ。それなのに王太子と一目惚れで婚約だって?そんな事信じられるわけがない」

「え?」


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