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幌馬車ストーリー

 ふぅ…、やれやれだよ。


 …あ、これお母さんの口癖だ。

 いつも言ってるから映ったわ。


 美月は口の端を僅かに上げた。



 助かった。


 まあ、まだ囚われの身だけどね。


 馬車を乗り換えてから随分待遇が良くなった。 ―――乗り換えるときには、やっぱり荷物のように包まれて担ぎ上げられたけど―――今は縛られているのは手首だけ。その先は幌馬車に括りつけられてるけど、何より座っているから頭も打たない。

 さっきの星が飛んだのは、久しぶりの感覚だった。ヘディングしにいって横から倒されたとき、いや、ゴールポストにぶつけた時くらい?

 …んー、それよりはマシか。

 でも流石に見かねたんだろうね。



 さて、と…。ルークのことだから探してくれているはず。


 馬車の中には男が3人。後一人は馬車を走らせている。

 とりあえず、暴れなければそれなりに扱ってくれそうだし、どこかに隙もできるかもしれない。

 とはいえ、隙を見て逃げれる感じではない…と、思う。逃げたところで「ここはどこ?」ってなるのは分かっている。

 そして、何より言葉が通じない。

 致命的だ。


 ふむ。


 うん。

 決めた。


 信じて、待つ。


 消去法…だけど。


『なんだ、それ』

 ルークの声が聞こえてきそうだ。

 イケメン王太子の拗ねた顔が浮かんだ。

 それを見たら、レオが揶揄うだろう。いいコンビだ。


 クスッと笑うと、近くにいる男が顔を引きつらせた。

「?」

 何だと思いじっと見る。

 男は固まっている。

 じいぃぃぃっと見る。

 男は目を潤ませている。泣きそうだ。


 何?!

 もしかして、私に怯えてる?失礼ね。

 ちょっと足踏んだだけなのに!




 俺には親がいない。

 相方にも、アニキにも。

 俺たちは村の教会の孤児院で育った。


 何故か屈強な神父様に教えてもらった武術を活かし、俺たちは領主の自警団で仕事をしていた。でも領主が流行病で亡くなり代替わりしてから、俺たち孤児院育ちはクビになった。あんなに真面目に仕事をしていたのに。

 それから俺たちはアニキが探してくる仕事をした。建築現場の資材運び、用心棒、収穫時期の手伝い、兄貴はいろんな仕事を探してきてくれた。だけど、日雇いの仕事での生活は正直苦しかった。仕事がない日もある。村では限界だった。

 俺たち3人は都に向かった。使わなくなった教会の改修を行うのに人夫をまとめて雇うという話があったからだ。

 初めての王都は何もかもが眩しかった。こんなところで働けると思うとワクワクした。だが、困ったことに俺たちには仕事がなかった。積荷が遅れて資材が揃うまで仕事がなかったのだ。なけなしの金を叩いてやってきた俺たちは、廃教会の前で途方にくれた。

 そんな時い声をかけてきたのが、あのヤバイ人だった。兄貴とは街であったらしい。


 分かってる。一度聞いちまったヤバイ話を、受けないって言っても通るわけがない。なんでこんなことになったんだか。今まで真面目に働いてきたのに。


 俺は、今回の仕事の王太子の婚約者という娘をちらりと見た。

 捉えるときは随分暴れていたのに、今はすっかり大人しくなっている。観念したのだろう。そう思っていた。


 ん?

 ―――笑った?

 いや気のせいだ。縛られて笑う娘など…。


 い、いま、“クスッ”って言った!笑った!笑ってる!

 俺は固まった。


 なぜそこで笑うんだ?


 み、見るな!

 何がおかしい!

 馬鹿にしてるのか?

 俺だってこんな事やりたいわけじゃないんだ!

 だって、知らなかったんだよう~…。


「お前、まだ泣いてんのか?」

「だって…」

「切り替えろって言っただろ?本当は兄貴だって気にしてるんだ。お前が泣くと余計に辛くなるだろう?」

「う…ん」

 相方はしっかりしている。

 本当は分かってるんだ。俺が鈍臭いから、仕事が限られているのも。

 勉強だって何だって俺は落ちこぼれだった。こんなことになったのも、元は俺のせいなんだ。俺がちゃんと読み書きができたら、村でだって仕事があったかもしれない。

 全部俺のせいだ。相方も、兄貴も巻き込んじゃったんだ。




 ………泣いちゃったよ。

 何?

 どういう事?


 美月は目の前で仲間に宥められている男を、目を丸くして見ていた。


 流石に、私の事が怖いわけではなさそうだ。


 目の前のふたりを少し見ていた幌馬車の後部に居る男が、また外へと目を向けた。追っ手が来ないか見張っているんだろう。その背中に哀愁が漂っているように感じるのは気のせいだろうか。

 そして、何だかしんみりしているこの状況で、縛られている私が悪人に見えてしまうのは気のせいだろうか。

 更に、目の前で慰め合っているふたりが、違う意味で怪しく見えるのは気のせいだろうか。

 …理央に見せたい。

 いやいや、違うって。


 気を取り直し――、馬車を走らせている男は、あの酔っぱらいを一突きにした男だ。

 あの男は容赦ない。

 この3人とはちょっと毛色が違う。



 いつの間にか建物が立ち並ぶ道を走っていた。

 馬車の後ろに流れていく景色が違う。街に入ったからか、高速で走っていた馬車は速度を落としている。


 止まった。


 風に乗って潮の香りがする。


 ―――海?


 馬車を走らせていた男が入ってきた。


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