はじめての外出 3
再びルーカスに手を引かれて着いた場所は、これまでのテントと様相が違っていた。
「射的?」
「なんだ、知っているのか?」
娯楽を中心としたテントが立ち並び、広場では大道芸も繰り広げられている。
「神社の縁日でねー。多分同じものだと思う」
「へえ、それじゃあ、腕前を見せてもらおうか?」
「わかった、って違う!射的じゃない!弓じゃないの!」
「そうだが?ミツキの国は違うのか?」
「まあ、ね。よし、何事もチャレンジだ!あの的に当てたらいいのね?」
「そうだが…。ミツキ、待て」
「へ?何?」
「持ち方が反対だ」
「!」
「それでどうやって弓を飛ばすつもりだ?こう持つんだ」
「おおっ!なるほど、しっくりくるわー」
「ほら、射ってみろ」
「わかった」
美月は狙いを定めて弓を引き、放つ。
矢は的から外れて後逸し、天井近くの板に突き刺さった。
「嬢ちゃん、しっかり狙ってくれよ!店が壊れちまう。ま、でもなかなか馬力があるじゃあねえか」
「任せて!力には自信があるから。次は当てるわよ!」
「へえ〜。そりゃあ頑張って…」
――タンッ
的の端に矢が突き刺さる。
「よっし。次は真ん中だ!」
「お、やるじゃねえか」
美月はすぐさま矢を構える。
――タンッ
「あ〜、悔しい外れた!」
「いや、大したもんだよ。嬢ちゃん、やるねぇ」
「任せろ、ミツキ」
ルーカスが矢を放つ。
――ダンッ!
「命中だ」
続けて残りの2本も的の中心を貫いた。
「いや、ダメだよ兄ちゃん、素人じゃあないだろう?」
「はは、悪い」
「まあ、いいや。ほれ、嬢ちゃん景品だ。いい筋してるよ、また来いよ」
「わ、ありがとう。またね、おじさん」
店主の男性は、日に焼けた顔で笑って手を振った。
「ねえ…、それで、これは一体何?」
食堂で注文した料理を待つ間、美月は先ほど受け取った景品を机の上に乗せる。
「人形…じゃあないのか?」
「藁…だよね?」
ルーカスの言葉に美月も答える。
「藁だが、どうした?」
「藁人形…」
「ミツキ様、藁だと何かあるのでございますか?」
これまで会話に入ることを遠慮していたアイラが尋ねてくる。
「ふっ…。私の国では、呪いの藁人形というのがあってね…」
あのおどろおどろしい雰囲気を思い出しながら、美月が語る。
「呪い…でございますか」
その様子に、緊張感漂うアイラ。
「だ、大丈夫だミツキ。この人形からはそんな魔力や術は欠片も感じない」
ルーカスは美月を安心させようと藁人形に意識を集中させた。
「ルーク、ありがとう。もちろん違うことは分かってるわよ?だってその藁人形はこんなにポッチャリと可愛くないもの。もっと細くて…」
呪いの札や五寸釘が…と続けようとしてカイトが話に入ってくる。
「ミツキ様、僭越ながら申し上げます。その藁の人形は、南のノーライズ領や周辺の地域に古来より伝わる、願いを叶える人形でございます」
「願いを叶える?」
カイトの言葉に、テーブルを取り囲む空気は一変し、明るくなった。
「はい。ノーライズ領は海からの強い潮風に作物は育たず、また、大きな港もなく漁に出るのも小さな船でしか方法がありませんでした。村は貧しく民の生活も苦しかったと聞いております。そんな村人達が春の祈願祭の時に、この藁人形に祈願して豊かな実りや豊漁を願うのです」
「そっか…。大事な人形なんだね」
「ええ、ですが、個人の願掛けにも使われるのです。ミツキ様も何か願いをかけられますか?」
「願い…?」
「はい。何でも宜しい様でございます。心の広い神のようですので」
「何でも…」
美月は一見土偶のような藁人形を見つめた。
「そうだね、考えとくわ」
美月は革のベルトに繋がれたポシェットにその藁人形を仕舞った。
「さあ、お待たせしたね。たっくさん食べとくれ!兄さんが女の子連れてくるなんて珍しいからね。今日はサービスしとくよ!」
タイミングを計ったかのように、女将が料理を運んでくる。
「ありがとう女将。ここの料理はどれも美味いが、俺はこの肉と煮込んだ芋が一番好きだ」
「流石だねえ兄さん、うちの味を分かってるねえ。この芋は北のキルマ地方で栽培されているんだ。あの赤土で栄養たっぷりに育っているからね。肉汁の染み込んだ芋は、ねっとりと粘りもあって、精力増強まちがいないさ!頑張りな、兄さん」
「おい、女将!大声で何を言ってくれるんだ」
「なーに恥ずかしがってんだい、いい男が二人も揃っててさぁ。まったく、男が頑張らなくてどうすんのさ、ねぇ?ああ、そうそう。今日はいい魚も入ってるからね、待ってな〜」
相変わらず豪快に笑って厨房に戻る女将と対照的に、テーブルを囲む4人は少し赤い顔を伏せながら、取り分けた料理を口に運ぶ。
「美味しい!」
「本当に美味しゅうございます」
「よかった。たくさん食べてくれ。今日はなかなかの量だからな」
「任せて!」
ルーカスとミツキの会話を微笑ましく見ていたカイトは、数分後にその言葉が本当なのだと知る事になる。




