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殿下と共にあれ

 ひんやりとした風が頬に当たる。

 見事に色付いた紅葉。その葉擦れの音の奥から、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 秋晴れの空は高く、澄み渡っていた。


「今日もいい天気だね、団長」

「そうだな、この時期ハーヴェロードは晴れの日が多いからな」

「そうなんだ。じゃあ、この前みたいに一日雨が続くのは珍しいの?」

「そうだなあ。いや、全く降らないわけではないからな。雨を間に挟んで冬に向かっていくんだ」

「冬かぁ…。ねえ、雪も降る?」

「そりゃ、冬はな。湖には氷も張るぞ〜」

「え、本当?見てみたいなぁ、綺麗だろうね。この城の中だけでもこんなに素敵…」

 言いかけて、美月は立ち止まった。

「どうした?大丈夫か?ミツキ殿?」

「……大丈夫。いろいろ思うところはあるんだけど、それより忘れてた。ゴメン団長…」

「は?どういうことだ?」


 たどり着いた騎士団の練習場から聞こえる黄色い…悲鳴?


「な、なんだ?」

「サッカーのトレーニングの見学に来たいって言うから、許可したのよね。思いのほか人数が多そうな気がしてたけど…。やっぱり多かったみたいだね」

「見学…」

 オリヴァーは、観覧席に立ち並ぶ女官たちを見回した。


「団長に断りを入れておこうと思ってたのに、すっかり忘れてたわー。ごめんなさいっ」

 美月が顔の前で手を合わせる。

「いや、まあ、サッカーの時だけなら構わないが。…よもやここで断りでもしようものなら、あのお嬢さん方に呪われそうだな」

「まさか」

 美月が動くたびに、女官たちが反応して声を上げる。隣にいるオリヴァーは嫉妬の対象だろう。視線が痛かった。


「ミツキ殿は、あの視線に圧迫感は感じないか?」

「全く」

「…そうか。…それじゃあ、始めるか」

「うん。今日もよろしくね、団長!」

「よし!さて、今日もゲームをするのか?」

「勿論!」


 オリヴァーの想像していた通り、いや、それを上回る声援が騎士団練習場に木霊する。さらにゲームが始まると、その声は賑わいを増していった。


「なんともまあ、ミツキは人気者だねぇ」

 本日もサミュエルは早くから訓練場に来ていた。

「サミュエル殿下、嬉しそうですね」

 ジュールはいつものように表情を崩さない。

「愛しい人が人気者なのは嬉しいと思うけど、ジュールは違うのかい?」

「さあ、考えたこともございませんので」

「じゃあ、今考えてよ」

「何故です?」

「ノリが悪いなあ。会話を楽しみたいからじゃないか」

「殿下は、私と会話を楽しめると思いますか?」

「思わない」

「では無茶を言わないでください」

 サミュエルは肩を竦めた。

「君も変わらないよねぇ…」


「何、浸っているんですか?」

 両手を腰に当て、ミツキはため息をつく。

「あれ?なんだい?今日はもう終わりかい?」

「終わりですよ。今日はちょっと用事があるので早く終わるんです!騎士団の訓練の邪魔になるから帰りますよ、サミュエル王子」

「邪魔ねぇ…。仕方がないね、戻ろうか…」

 サミュエルはゆっくりと腰を上げた。


「ミツキ殿!」

 女官やサミュエルとともに訓練場を出るところで、オリヴァーが呼び止めた。

「団長、どうしたの?」

「あー、ちょっといいか?」

「分かった。…ごめんね。皆先に帰ってていいからね」

 美月は女官たちに手を振り、オリヴァーの許へ駆けていった。


「ごめん団長、何か忘れてたかな?」

「いや、そういうわけではないんだ。さっきのことだ」

「さっきのこと?」

「話の途中になっただろう?」

「えーっと、なんだっけ?」

「ハーヴェロードの冬景色が見たいと言っていただろう?」

「ああ、その事か。うん。そうだね、綺麗だろうね」

「湖面に張る氷も、その上に降り積もる雪も美しいぞ。一面の銀世界だ」

「うん…」

 冬の風景に思いを馳せるオリヴァーを見ていると、美月も自然に笑みが零れた。

「冬だけじゃない。ハーヴェロードは春も夏も一年中美しい国だ」

「そうだろうね…」

「見たい景色があれば、自分の目で見るといい。春も夏も…、ルーカス王太子殿下の隣で、この国をずっと見ていくんだ。ミツキ殿」

「団長、それは…」

 突然真剣な眼差しを向けてくるオリヴァーの話す内容に、息を呑む。


「ルーカス殿下と共にあれ、ミツキ殿。俺たちもそれを望んでいる」

「団長…」

 美月の表情が僅かに歪む。


 逡巡する美月に、オリヴァーは焦りを顕にした。思わず美月の肩を掴む。

「どうか、受け入れて欲しい。殿下の隣には、最早ミツキ殿しか考えられないのだ、俺たちも」

「買いかぶり過ぎだよ…」

 美月は目を伏せた。胸が締め付けられる。


「ごめん団長…、今日は時間がないんだ。早く戻らなきゃ」

「あっ、あ、いやっ…」

 オリヴァーは、美月の肩を掴んでいることに初めて気がついたかのように慌てて手を離した。

「す、すまん、ミツキ殿!」

「ううん。ありがとうね、団長。じゃあ」

 去っていく美月の後ろ姿を見送りながら、オリヴァーは拳を握り締めた。


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