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接触 5

 菫青の間で、美月と楽しげに談笑していたサミュエルの纏う空気が剣呑に変わる。

 隣のトマスに緊張が走るのが、美月にも伝わって来る。


 ―――あれ、もしかして犬猿の仲とか?めっちゃ空気悪いんだけど。

 対ルークより空気悪い?


「それで、ご用件はなんでしょうか」

 こんな時はさっさと終わらせて部屋に戻ろう!美月の方向性は決まった。


「なんだと思う?」


 ―――イラッ

「わかりません」


「当ててみて?」


 ―――イライラッ

「じゃ、いいです。帰ります」


 美月が踵を返そうとすると、サミュエルは一層大きな声で美月に話しかけた。

「君に関係していることだよ、ミツキ」

「じゃあ早く言ってください」


 美月の嘆息する様子に、サミュエルは右手で顔を覆い、左手を大きく広げた。一処に落ち着かず面会室を右へ左へと動き、大仰に動作を繰り返すさまは、さながら舞台俳優のようだ。

「せっかちだね。せっかくこうして会えたのに」

 相変わらず本題に入ろうとしないサミュエルに、美月は苛々を通り越して呆れてきていた。

「揶揄うだけなら帰りますよ?」

「揶揄ってなんかいないよ。だって僕は怒った美月の顔も好きなんだもの。ずっと見ていたいのさ。駄目かい?」


 美月は眉根を寄せる。

「…変態ですか?」

「ミ、ミツキ様っ!それはあまりにも…」

 慌てるトマスに、ジュールが声をかける。


「いいえ、トマス殿、構いません。わたくしもミツキ様と同感でございます。殿下もいつまでも遊んでないでいい加減本題に入ってください」

「ジュール、お前はやっぱり気が利かないし面白味に欠けるよ。折角のミツキとの時間なのに、ねぇ?」

 サミュエルは美月に向けウインクした。

 美月はそれに対し、怪訝な表情を返す。


「ねぇ、じゃないですよ王子。用件は?」

「ミツキ、君もノリが悪いね。もう少し付き合ってくれればいいのに…。さて、用件かい?…用件はメイソンのことだよ」

「メイソンって、あの魔導師の?」

 思わぬ名前に、美月は身を乗り出した。


「ふふっ、焦らしてみるものだね。いつの間にかミツキとの距離がこんなに縮まった」

 そう言ってニヤッと笑ったサミュエルは、美月の顎を右手で持ち上げる。

「!」

 美月は慌てて後ろに下がった。面会室のソファーの後ろに立っていた美月に、サミュエルはいつの間にか詰め寄ってきていたのだ。

「いつの間にっ!」


「ぷっ、くくっ…。相変わらず君は面白いね。大丈夫だよ、今日はこれ以上近づかない」

 サミュエルはクスクスと笑いながら、応接室のソファーに腰を落とす。長い足をに組んで微笑んだ。


「メイソンの回復が思いのほか早くってね。ひと月を待たずに君を帰せそうなんだ。良いニュースだろう?」


「…えっ」


「はっきりとした日時が決まれば知らせるよ」

 サミュエルの微笑みが、満足気に艶を増していった。




 その後は、どう歩いたのか覚えていない。気がついたら翡翠の間に戻っていた。


 アイラが心配そうに覗き込んでくる。トマスもまだ残ってくれている。忙しいだろうに悪いなぁ…。自分の関わっていることなのに、なんだか他人事のようだ。

 …ああ、そうだ、明日の準備しないとね。

 どうしてかな?なんだか声が遠くに聞こえる。

 私は何でこんなにヘラヘラ笑っているんだろう。バカじゃないの?


「ミツキ様、準備はこれでよろしいですわ。それよりも、あの…大丈夫でございますか?」

「へっ?ああ、うん、大丈夫だよ。楽しみだね、明日」

 アイラとトマスに笑いかける。

「はい。今夜はゆっくり休めるように後でハーブティでもお持ち致しましょうか?」

「ありがとう。お願いね」

「かしこまりましたわ」

 アイラの気遣いが、嬉しい。

 その事に安心したのか、少し落ち着いてきたようだった。


 その様子を見てトマスが声をかけてくる。

「ミツキ様、少しよろしいでしょうか」

「何?トマス」

「私、先ほどのサミュエル殿下の会話の中で、解らないところがあったのですが…」

「え?そうだったの?」

「はい」

「何?どんなこと?」

「ひとつは“セクハラ”です。ああでも、会話の様子から何となくは分かりました。女性に対する嫌がらせみたいなことでしょうか?」

「そうだね、女性に限った事でもないんだけど。あとは?」

「あの…ハッキリと言葉を覚えていないのですが“ナントカぼりを食う”とかだったと思うのですが」

「おいてけぼり?」

「そう、それです。あれはどういう意味ですか?私は何を食わされたのでしょう?」

「食べる事じゃなくてね、えーとなんだっけな?確か昔話だったと思うんだけど、私もはっきり覚えてないのよね〜。ほら、私とジュールさんが二人で会話していて殿下とトマスが会話から置いていかれてたでしょ?その事を“おいてけぼりを食う”って言っていたのよ」

「なるほど!ミツキ様もサミュエル殿下も博識でございますね」

「いや、…それは違うと思うよ」

 満面の笑みのトマスに、美月は乾いた笑いを向けた。


 なんだかいろいろ引っかかることがあるように思うが、今日は頭の中の整理が出来そうにない。先ほどのサミュエル王子の言葉が頭から離れなかった。


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