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接触 3

 何を渡されても、何も口にしない。

 距離を取って、近づきすぎない。

 最低でも、アイラとウォーカーを側に置く。


 イザベルと会うために、アイラから出された条件だ。


 約束してイザベルを翡翠の間に迎え入れる。


「ミツキ様、わたくしの望みをお聞き入れ頂きました事、心より御礼申し上げます。またお招き頂きましてありがとうございます」

「良いのよ、そんなに気を使わないで。私もあなたとお話したかったから」

「わたくしと、でございますか?」

「そうよ。まず、イザベルさんの話を聞かせて?」

「はい。…その前に、お人払いをしていただけませんでしょうか」

「人払い…」

「はい」

 アイラたちに緊張が走るのが伝わる。


「わかったわ。でもアイラとウォーカーは私が信頼を置いている二人なの。二人には側に居てもらってもいいかな?」

 美月は少し困ったように首を傾けた。

 イザベルはアイラとウォーカーの顔を交互に確認する。二人ともここは引かないというように、イザベルに視線を投げかけていた。


「分かりました。構いませんわ。というよりミツキ様のお側の方にも、お聞きいただいていたほうがよろしいと思いますもの。わたくしもそのほうが有難いですわ」

「そう、なの?」

 ニッコリと笑うイザベルの顔に、少し緊張のほぐれた美月はアイラと視線を交わす。


「お話致したいことは二つございます。まず、わたくしの父の事なのですが…。ミツキ様は、わたくしが王太子妃候補と言われていたことはご存知でいらっしゃいますか?」

「さっき、聞きました」

「わたくしは幼き日より、父から王太子妃になるようにと言われて育ちましたの。あっ、あのミツキ様のお立場を揺るがすようなことは考えておりませんの、それははじめに申し上げておきますわ」

「ああ、いいわよ。気にしないで続けて?」

「はい。あの、ですからわたくしは幼き頃は、父の言う通り王太子妃になるものだと信じて疑いませんでしたの。ですがそのうち家の外に出るようになると、それが決まった話ではないことに、そして他にもたくさんの候補となられている方がいらっしゃることを知りました。わたくしはショックで一時期は食事も喉を通りませんでしたわ。でも、父はそんな私に厳しく『お前がその座を勝ち取るんだ』と憂えていることを許してはくれませんでした」

 イザベルは目を伏せた。その目許は微かに震えている。


「イザベル…」

 美月の声掛けに、イザベルは再び顔を上げる。

「わたくしは父の期待に応えるべく、来る日も来る日も家庭教師に学び、そして社交の場でも王太子妃候補としてふさわしくあるようにと努力し続けました。ですから、昨夜の夜会はとても辛くて…。ですが、ミツキ様と王太子殿下お二人の仲睦まじいお姿を見ているうちに、わたくしではとてもかなわないと気づいたのです。幼き頃より王太子殿下と接してきたわたくしでも、あのような殿下の表情は見たことがございませんもの」

「表情?」

「ええ。王太子殿下はお優しいので、わたくしたちをないがしろにすることはございません。ですが、その笑顔はどこか冷たくて、こちらを見ていてもわたくしではなく遠くを見ているような…。心がここにないことが分かるのです。ですがミツキ様とご一緒の時には、王太子殿下の溢れんばかりの幸せな思いがこちらまで伝わって来るというか、見ているこちらまで恥ずかしくなるくらいの思いが…」

「……」

 頬を赤らめるイザベルの前で、さらに赤い顔をした美月は恥ずかしさのあまり言葉が出てこない。それに気づいたイザベルが慌てた。

「すみません、わたくし余計なことを…」

 不自然な咳払いをしつつ、美月は返事をする。

「…いや、いいよ」


「わたくしは、決めたのです。お二人を心から祝福させていただこうと!すみません。もうご婚約までされているお二人に対して烏滸がましいのですが、これがわたくしの正直な気持ちですわ、ミツキ様。…ですが、…父はまだ諦めていないようなのです。何やら画策しているようで、わたくしにはそれが恐ろしいのです」

「イザベルさん…」


「申し訳ございません。ミツキ様を巻き込むつもりではございませんので、その事をご理解いただきたいのです。ですが…、娘の私が言うのもおかしな話でございますが、父にはお気をつけくださいませ」

「わかった。ありがとう」


「あと一つはエクセター侯爵家のお嬢様、マチルダ様のことでございます。マチルダ様も私と同じく、王太子妃候補でございました。お家柄もよろしく、どんな方にも分け隔てなくお声をかけて下さる立派なお方なのです、いつもおっしゃっているお言葉に間違いはないのですが…。あの、なんと申しますか、いつもお話したあとに辛くなり落ち込むのでございます」


 ―――ブラックか?

 美月は眉根を寄せた。


「そのマチルダ様は王太子妃にかける思いもとてもお強く―――ご本人は認めておられませんが―――ミツキ様に対して向ける視線が恐ろしくて。…わたくし夜会の席で、恐ろしさのあまり失神しそうになってしまいましたの」

「そんなに?」

「申し訳ございません。これはあくまで私が感じたことでございます。これまでのことも思い出してしまったのがいけなかったのかもしれません。ですが、私の父と同じくマチルダ様にはお気をつけくださいませ」


 あの夜会で感じた違和感、マチルダ嬢の刺すような視線だったのかもしれないなぁ、と思い返す。


「ありがとう、イザベルさん。この事を話すのに勇気がいったでしょう?あなたのその勇気が、きっと私にも勇気をくれるわ」

「―――ミツキ様」

「もう体調は大丈夫なのね?」

「はい、それは、あの、オリヴァー騎士団長様が介抱してくださいまして…」

 イザベル頬が朱に染まる。


 ―――あらら。

 美月はアイラと視線を合わせ微笑んだ。


「私がいなければ、ルークの隣に居たのはイザベルさんだったかもしれないのよね。私の存在が無ければ、ううん、無くなればイザベルさんはルークの隣を選ぶのか聞きたかったんだけど…」

「え?それはどう言う…」

「ミツキ様っ!」

 何を言われているのか分からないイザベルに、硬い表情で慌てるアイラ。


「ううん、何でもない。聞くまでもないのかな?想い人がいるようだし」

 美月はふふっと微笑んだ。


 お陰様で50話となりました。

 こうして読んで頂けることがとても励みになります。

 ありがとうございます。

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