接触 2
「ウォーカー、今の、ルークには黙っててくれる?」
美月は頬を手で拭いながら、ウォーカーに伝えた。
「よろしいのですか?」
「うん。私にも隙があったから」
美月は口元をキュッと結んだ。
「悔しい…」
ぽそっと呟いた美月の言葉に、ウォーカーも自らを諌めた。
気を取り直して向かった尖塔には、今日も美月のトレーニングサポーターの女官たちが陣取っていた。いつもと時間が違うのに、この情報網は侮れないと感心する。
「ミツキ様、昨夜のドレス姿も素敵でございました!」
「あら、デイジーあなた居たの?」
「はい、わたくし給仕係でしたの。もう、感動で胸が熱くなって、昨夜はあまり眠られませんでしたのよ」
「そ、そうなのね。じゃあ、今日はゆっくり休んでね」
「ありがとうございます!」
「ミツキ様、わたくしも、わたくしにもお言葉を!」
「ま、ずるいですわ。わたくしも」
美月の周りにわらわらと集まる女子パワーに少し押される。
「え、ええっと…なにを言えばいいのかな?」
「あのっ、ミツキ様。わたくしミツキ様のサッカーをされているところを拝見させていただけないかと…」
「え?ああ、それは多分大丈夫だと思うけど」
「きゃあぁぁぁ――――」
「え?」
一斉に湧き上がる悲鳴に美月は後悔する。
―――ヤバイ。一応、団長に確認しておこう―――
「そういえば、昨日の夜会で綺麗なお嬢様方が沢山おいでたけど…」
「もしかして、マチルダ様とイザベル様のことをお気になさっておいでですか?」
「知ってるの?」
「勿論でございます。御二人はそれぞれエクセター侯爵様とブラウン伯爵様のお嬢様で、あっ……」
「ん?何?」
「あの、そのう…王太子妃の有力候補でございました」
「そうなんだ」
「でも、今はミツキ様がいらっしゃるので…」
「ああ、大丈夫よ、ジェシカ。気を使わなくていいからね」
翡翠の間に戻り、いつものように湯を浴び食事を頂く。遅めのブランチだ。
最近知ったのだが、この国の人は1日2食が主流らしい。3食摂るのは肉体を駆使する人なのだと。なので、私の食事は騎士団仕様になっているということだった。みんなお腹空かないんだね。
でも騎士団と同じ食事ということは、同じ釜の飯ってところかな。離れているけど。
そうだ!今度一緒に昼食を食べよう!サッカーミーティングでもしながら。
そんなことを考え妄想に浸っていたから、アイラに呼ばれていたことに気づかなかった。
「ごめん、考え事してた」
「ミツキ様、あの、本当にイザベル様とお会いになられますか?」
「うん、会うよ。どうしたの?」
「イザベル様は、王太子妃の有力候補でございました。そのことはご存知でいらっしゃいますか?」
「うん、さっきジェシカに聞いた」
「イザベル様のお父上のブラウン伯爵様は、とても熱心にイザベル様にお妃教育をなさっておられました。それはもう幼い頃から、ですわ」
「詳しいんだね、アイラ」
「同じ年代ですもの。幼き頃より顔を合わせることも多うございました。何より、互いに父親が城に仕える身でございますゆえ、情報は色々と回ってくるのでございます」
「そうなんだ。…アイラは?王太子妃候補ではなかったの?」
「わたくしは家柄が違いますもの」
「家柄?」
「いえ。現国王も前国王も、家柄にこだわるお方ではございませんのよ。むしろ新しい風をとお考えなのでございます。ですが、やはり王家に嫁ぐならばそれなりの血筋をと求める根強い意見もございまして…」
「それがイザベルの?」
「はい。有力候補のお二人、イザベル様とマチルダ様のお家であられますブラウン伯爵家とエクセター侯爵家は、公爵家に降嫁した2代前の国王の妹姫のご息女がそれぞれ嫁がれておられます」
「えーっと、…要は、遠い親戚ってところかな?」
「そうでございます。ルーカス王太子殿下も良いお年でございますし、このお二人のどちらかが選ばれるものともっぱらの噂でございました」
「そこで、突如として私が現れた」
「そうでございます」
アイラの返事はいつもの可愛い声とは違い、低く重く、それでもはっきりとした口調で美月に語りかけていた。
美月はそんなアイラに敬意を評し、微笑んだ。
「…アイラが心配してくれているのは何?私の命?」
「ええ、そうでございます。…ミツキ様、正式な申し出ではないのですし、今、お会いにならなくても構わないと思います。はっきり申し上げて、わたくしは反対ですわ」
「敵意は感じなかったけど…」
「それでも、でございます。イザベル様とお会いになられたら、今度はマチルダ様から申し出があった場合、お会いにならないとならなくなります。どちらかというと、マチルダ様のほうが少々厄介なお嬢様なのでございます」
「それじゃあ尚更、正式に話が有る前に会っておいたほうがいいんじゃない?正式になると断りづらいんじゃないの?」
「そのように考えることも出来ますが、わたくしは会わずに済む方法を模索しとうございます」
「んー、それじゃあ、ウォーカー達と一緒に会うのは?護衛の騎士がついていて手出しはしないのでは?」
「ミツキ様っ!」
アイラが表情を曇らせる。
「ごめん、アイラ。私、イザベルと話しがしてみたいのよ」
「ミツキ様…」
私の我儘だって分かっている。
だけど、確かめたい事がある…。




