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接触 1

「あの、ミツキ様!」

 練習を終え、美月は観覧席のルーカスのもとに向かっていた。不意に呼ばれて振り向くと、ご令嬢の方々が駆け寄ってくるところだった。


 ―――忘れてた。


「皆様、遅くまでお引き止めしてしまいました。申し訳ございません」


「まあ、そんなことお気になさらないでください」

「そうですわ。わたくしたち、今猛烈に感動しているところですのよ」


「サッカーは気に入っていただけましたか?」

「勿論でございます!」

「あの、何故ミツキ様は殿方よりもお強いのですか?」

「そうでございます!あのように速く走れて、殿方の指導もなさって。わたくしは驚きのあまり失神してしまいそうでしたのよ」


「そんなオーバーな…。サッカー歴が長いだけですよ。騎士団の皆さんはサッカーを始めてまだ10日あまり。それであそこまで対応できる方が凄んですよ」


「そうなのですか?でも、わたくしたちにはミツキ様が一番輝いて見えましたわ」


「それは、ありがとうございます。でもその話は内緒にしておいてくださいね。騎士団の面々に怒られそうですから」

「まあ、美月様ったら」

 軽くウインクする美月に、令嬢たちは頬を染めた。

 しかし次の瞬間、きゃあっと悲鳴が上がる。


「ミツキ、終わったのか?」

 ルーカスが美月を見つけて向かって来たからだ。ご令嬢たちは更に興奮して手を取り合った。


「ルーク。今日は見に来てくれてありがとう。どうだった?」

「ああ、凄いな」

「でしょう?10日あまりでこんなに形になるなんて、騎士団ってすごいね!」


 ふっとルーカスが笑う。

「馬鹿。凄いのはお前だ、ミツキ」

「ふぇっ、そ…それはどうも…」

 ルーカスの甘い笑顔に、顔を真っ赤にする美月。


「ちょっと、僕を無視してふたりの世界に入らないでくれる?」

 柳眉を上げながら顳かみを引きつらせたサミュエルが、割って入る。


「サミュエル王子…。そういえばふたり仲良く並んでいたね、何を話していたの?」


「サミュエル殿にサッカーについて教えてもらっていた」

「へえ。王子、サッカー詳しいの?」

「毎日来ているからね。もうそんな話はいいよ。それよりミツキ、このあと時間取れないかい?」

「取れません」

「即答だね。まあ、いいよ。後で正式に申し込むから」

「セクハラなしですよ?」

「わかった。善処してあげるよ」

「善処じゃなくて禁止です!」

「相変わらず厳しいね、君は」

「当然です」


 騎士団の練習場を出た一行は、王城の玄関ホールまで戻ってきていた。

「ルークはこのあと公務があるんでしょう?」

「ああ」

「忙しいのにありがとう。じゃあまたね」

 王族の居室や執務室は東の宮にある。客室は西宮だ。ということで、ここで分かれるのはルーカスのみだった。

 改めて見ると、隣国のいけ好かない王子に王太子妃を狙っているご令嬢と取り巻きの令嬢、自由奔放な美月。ルーカスはこのメンバーに不安を覚えずにはいられなかった。―――いや、きっとほかの誰でも不安に思うはずだ―――頼りになりそうなのは…と見回す。

「ウォーカー、あとは頼んだぞ」

「御意」

 ウォーカーは慇懃に礼をした。


 ルーカスはその所作に満足げに頷き、美月に向き直ると優しく笑った。

「ミツキ、また後で」

「うん」

 ふわりと柔らかく笑うルーカスに見とれつつ、美月はその後ろ姿を見送った。


「ミツキ様、あの…。お時間を少し頂けますでしょうか?」

「え?」

「わたくしお話したいことが…」

「んー、歩きながらでも構わない話?」

「いえ、出来ればどこか別の場所で…」

「そうだね…。このあとまだトレーニングがあるから、それ以降なら」

「でしたら是非!」

「わかりました。時間はまた知らせるようにしますね」

「ありがとうございます」

 イザベル嬢たちは淑女の礼をして階段を上がっていく。


「ミツキ。僕との時間を忘れてはいないだろうね?」

「忘れたいけど、覚えているわよ」

「相変わらずだね、ミツキ」

 サミュエルは僅かに笑みを零し、美月に歩み寄った。不意に顔を近づけられ美月は驚き背中を反らせて距離をとる。ウォーカーはすぐに動けるように右足を引いた。剣に置こうとした手を握り締め堪える。相手は王子だ。


「王子、何をっ…」

「イサベル嬢には気をつけたほうがいいよ?」

 サミュエルは、美月の耳許でそっと囁いた。


「えっ?どういう事でっ…!」

 そして、離れ際に美月の頬に口づけを落としていった。

「◎※△×!!」

 美月の顔が朱に染まる。

「何を!セクハラは無しって…」

「情報料だよ」

 フフッと笑い、

「また後で」

 とサミュエルも朱丹の間へと戻っていった。


 油断してしまった自分を悔いる思いと、サミュエルの残した言葉への疑問が綯交ぜになり、美月はその場に立ち尽くしていた。


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