仲間 1
朝晩の冷え込みに、ハーヴェロード王城内の木々も紅葉し始め、彩を増していた。北にある山々の紅葉はもう麓まで到達していた。山頂の木々は既に葉を落とし越冬の準備を整えつつあるようだ。それでも今日のように天気の良い日中は、暖かく過ごしやすかった。
「団長、なんだか元気ないけど大丈夫?」
「え、ああ。大丈夫だ」
「昨夜遅かった?」
「あー、まあ、夜会のときはこんなもんだ」
「だから、訓練も昼からなんだね」
「そういうことだ。遅くまで警備についていた者も居るからな」
「それはご苦労様だね。そうだ、今日のトレーニングなんだけど…」
そこまで話して、美月は向けられた視線に気づく。
「どうした?」
オリヴァーもその方向を見てあっと声を上げた。
進行方向――トレーニングに向かうために歩いていた廊下――の先に、艶やかなドレスに身を包んだご令嬢方が数人、こちらを見ている。と、言うよりは一人の熱い視線がオリヴァーに向けられていた。オリヴァーを見上げると、青くなったり赤くなったりしている。
「オリヴァー騎士団長様!」
オリヴァーを見つけて嬉しそうに頬を染める令嬢。
「イザベル嬢…」
「昨夜はあの、ありがとうございました」
「ああ、いや、あの後ご気分は良くなられましたか?」
「はい。オリヴァー騎士団長様のお陰でございます」
「そ、そうか。それは良かった」
どうやら昨日の夜会で、二人が接近する出来事があったようだ。
「団長様はどちらへ?」
「騎士団の訓練場へ行くところだが…」
「団長!先に行ってるから、ゆっくり話してから来たら?」
美月はにやりと笑った。
「え、いや、待て。一緒に行く」
「でも…」
イザベル嬢はオリヴァーとまだ話をしたそうだ。
「イザベル殿、すまぬが…」
「じゃあ、訓練場までご一緒なさいますか?イザベル様?」
オリヴァーの声を遮るように美月が提案した。細かい事情は分からないが、団長のチャンスを潰してはならない!にっこり笑うと何故だかイザベル嬢も、その周りの取り巻きのご令嬢方も頬を染めた。
皆、シャイだなあ。
ふふっと笑うと今度は黄色い悲鳴が上がった。
「あの、ご一緒させていただいても宜しくて?」
「もちろん。歓迎いたします」
「あのっ、わたくしたちもぜひ」
「喜んで!ね?団長」
「あー…まあミツキ殿がかまわないなら」
「ミツキ…様?あの…どちらのお方なのでしょう?」
「あら、申し遅れました。ミツキ・ネモトと申します」
「まあ、こちらこそ失礼いたしました。イザベル・ブラウンですわ。ミツキ様はオリヴァー様と同じ騎士団の方でございますか?」
「いえ、違いますよ。団長とは一緒にトレーニングをしているだけです」
「トレーニング?」
「あー…、ミツキ殿は、ルーカス王太子殿下の婚約者だ」
「ええっ!」
「殿方ではないのですか?あの…何故そのような格好を…?」
「サッカーですよ。そうだ、百聞は一見に如かず、です。見学されますか?」
「…はい」
狐につままれたように目を瞬かせるご令嬢たちに、美月はにっこりと微笑んだ。
騎士団の訓練上では、騎士たちがウォーミングアップを始めていた。美月の姿を見つけると、口々に声をかけ寄ってくる。2日間来なかっただけで、早くも懐かしい。
「ミツキ殿、2日も休むと、体が鈍っているのでは?」
「そう!本当にそうなのよ!昨日どれだけボールを蹴りたかったことか!」
「やめてくれ。綺麗なドレスを着て『走り出したい』と言われた時には、肝を冷やしたぞ」
「ミツキ殿ならドレスでもサッカーしそうだな」
「流石にそれはしないよ……」
―――いや、するな。絶対―――
否定しようとしたところ、騎士団の面々に、妙に確信に満ちた目を向けられた。
皆、結構失礼だよね。
「そんなことより、皆、調子はどう?」
「絶好調だ!今日こそミツキ殿に勝負を挑めそうだな!」
「へえ?マイク、随分な自信だね。左足でのドリブルもマスターした?」
「お、おう!勿論」
「ふーん。分かった。じゃあアップが済んだら勝負する?」
「よっしゃ!望むところだ」
「あ、おい!狡いぞ、マイク!ミツキ殿と勝負するなら俺が先だ!」
「え?なに、今日は勝負してくれるのか!じゃあ俺はその次で!」
嬉々として群がってくる騎士団員達を、笑顔で捌きながら訓練場の内周を走る。その間に、団員たちは、着々と準備を進めている。
逞しくなったなあ。―――いや、もともと逞しいが―――サッカーを楽しいと感じて真摯に向き合ってくれているところがとても嬉しい。美月は走りながら嬉しさに顔がにやけていた。
ウォーミングアップが終わると、個々に練習していた団員たちに一度集まってもらう。驚いたことに勝負の話をすると、全員が対決を希望してきた。
それじゃあ3本ずつね、と順番に相手をする。
想像はしていたが、まだまだ勝負にならなかった。だが…。
「すごいね。皆すっごく上達していてびっくりした。じゃあ、今日の練習は新しいことにチャレンジしていこう!」
と、3対3でミニゲームを行いながら指導していく。
「マイク!苦手でもちゃんと左足を使って?そう、そうだよ!できるじゃない!」
「リチャード、そのスペースの使い方、いいねぇ。そうやって空いたスペース上手に使って」
「ハーリー、今のフェイント格好いい!そのあとが続くように頑張って!」
「団長!次は何処でボールをもらうの?ゴールまでの道筋を意識して!」
見学に来たご令嬢達は、次々と繰り出される美月の指導や言葉に、文字通り呆然と見つめていた。




