↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/56

第六話 開かれた門

「モモ、前だけ見て走れ。振り返るんじゃねえぞ」


 クロウが大剣を背に担ぎ、モモの細い手を引いて険しい道を駆け上がる。

 その前を走るシキは周囲の闇へ目を配り、いつでも刃を突き出せるよう身構えていた。


 火の海と化した船の明かりが遠ざかり、周囲はうっそうとした原生林と、切り立った岩壁が織りなす闇に包まれていく。

 道を危うげに照らすのは、船から逃れてきた男たちがかかげる松明の炎だけだ。

 さっきまで連携も取れずにうろたえていた男たちは、いまや生き残るために互いの距離をつめ、必死に足を動かしている。


 幾度目かのいびつな曲がり角を抜けたところで、モモは、ふと気がついた。


 あの白髪の奴隷がいない。

 口調こそていねいだが凍るような目つきで、ばらばらだった男たちを統率し、先頭に立って道を指し示していたはずのトウヤ。

 その姿が、どこにも見当たらない。

 彼の背には、決して浅くはない矢が突き刺さっていた。

 乱戦のさなかに落伍して、異形のえじきになったのだろうか。


 闇にまぎれて消えたトウヤに、モモは胸騒ぎを覚えた。

 だが、その疑問を口にする余裕も、考える時間も残されていなかった。


「柵だ! あれが、あの野郎の言ってた関所なのか?」


 先頭を走っていた男の一声が、次なる試練の幕開けとなった。

 視線の先、切り立った二つの岩盤の隙間を埋めて、巨大な防壁がそびえ立つ。

 幾重にも組まれた頑強な丸太。

 奇怪な意匠のほどこされた強固な門。

 島の中枢へと続く道をはばむ壁。


 紅鬼が守る関所は閉ざされ、篝火のたかれた門前には、オニの群れが立ちはだかっていた。


「しまった」


 シキが小さくうめきを漏らした。

 青ざめた横顔を見て、モモにもわかった。

 消えたトウヤと、関所で待ち構えているオニの群れ。

 二つの事実が、最悪の形で結びつく。


 自分たちは、ここへ誘導されたのだ。


 背後には浜辺から追ってきた群れが、距離をつめてきている。

 前方には強固な防壁と、手ぐすね引く無傷の軍勢。

 完全な挟み撃ちだった。

 男たちの足が、ふたたび止まりかける。


「引けば全滅、進めば活路だ。門を破るしかない!」


 シキの一喝が、恐怖にすくみかけた男たちの背を押した。


 クロウは大剣を抜くと、オニの群れへと突撃した。

 大剣が夜闇に弧を描き、門前を塞いでいたオニをはじき飛ばす。

 その一撃が、すくんでいた男たちの目を覚まさせた。


「生きて帰りたけりゃ、ここをぶち破るしかねえんだよ!」


 一団は半狂乱のまま、門前の異形どもへ突撃した。


 戦闘にまぎれ、影をぬって門へ近づいたシキは、刀の切っ先を重い門扉の隙間へと差しこみ、内側の閂を探った。

 しかし門扉はびくともしない。

 小細工はききそうになく、力押しでも開きそうにない。

 シキの眉が険しく寄せられた。


 クロウは片腕でモモの肩を抱き寄せると、もう片方の手で構えた大剣の刃を寝かせて薙ぎ、敵をけん制した。


「門はどうだ」

「簡単には開きそうにない」


 シキが答えた直後、後方から地鳴りが轟いた。

 浜辺から追ってきたオニの群れが、ついに追いついた。

 前線から引いていた男たちが次々と倒れ、夜の森に悲鳴がこだました。


 シキも門から離れて刀を構え直したが、疲労はモモの目にも明らかだった。

 鋭い爪が反応の遅れたシキの肩口をかすめ、白い衣服に血がにじむ。


「苦戦してるじゃねえか」


 言ったそばから、クロウも隙を突かれた。

 背後からの巨大な槌を間一髪で受け止めたものの、体勢を崩して地に膝をつく。


 モモは短い悲鳴を上げて、硬直した。


 傷つき、なすすべもなく追いこまれていく二人。

 まばたきも、できなかった。

 目に映るものすべてが死を連想させる。

 守られてばかりじゃ、何も変えられない。


 こわい。

 けれど、動け。


 考えるほどに、身体は動かなかった。

 それでもモモは、二人の幼馴染の前に身を投じ、獰猛な牙をむき出しに迫りくるオニを、にらみつけた。


「わ、わたしが……!」


 オニよりも早く、二人が動いた。

 膝をついたクロウと、血を流すシキの瞳に、執念に似た光が同時によみがえる。

 二人は残された体力を振りしぼり、地を蹴って、ふたたび奮起した。

 クロウの大剣が敵を薙ぎ払い、シキの白刃が的確にオニを退けていく。


「なっ……にやってんだ!」

「これだから目が離せない」


 二人がモモを背にかばい、敵を寄せつけまいと得物を振るう。

 しかしそれも、長くは持たない。

 包囲が縮まり、全員がこの場で殺される――誰もがあきらめかけた、その時。


 閂の外れる音が、門の内側から漏れ聞こえた。

 固く閉ざされ、シキの細身の刀では微動だにしなかった強固な門が、内側からひとりでに開き始めた。

 不快な金属音とともに、門扉が左右へと分かれていく。


「開いたぞ!」

「助かった、奥へ走れ!」


 クロウもまた、モモの身体を抱き上げて、門の内側へと駆けこんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。