↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/56

第三十話 港町の兄弟

 この港町――イトカワでクロウとシキが寄り添うように生活を始めてから、長い歳月が流れていた。

 港の貧困街に子供が多いのは、十年前に終結した戦のせいだと大人たちは言う。

 戦火を逃れ流れ着いた者のなかには、身寄りのない者たちもいた。

 二人も、その口だ。

 血のつながりはない。

 しかし、飢えと寒さをむしろ一枚でしのぎ合う日々のなかで、二人は強固な絆で結ばれていった。


 その日、桟橋に一隻の商船が入港してきた。

 船乗りたちが慌ただしく動き回るのを見計らい、クロウは荷揚げの手伝いをするため、貧困街から動ける子供たちを集めにかかった。

 だが、集まった顔ぶれを見たクロウは、眉をひそめる。

 いつもなら一番に駆けてくるはずの、年若い子供の姿が見当たらなかったからだ。


「おかしいんだ。たまり場にも、寝床にも、いなかったんだよ。遊びにでも行ったのかな」


 招集を手伝った孤児の一人が、頼りない声を漏らした。


 気になりはしたものの、今日を生き延びるために、日銭を稼がねばならない。

 クロウはそのことを心に留め、子供たちを引き連れて桟橋へと向かった。


 船の側では、荷を前にして人手不足に頭を抱える船乗りたちが、怒号を飛び交わせていた。

 その険しい空気のなかへ、やせこけた子供、シキが、飄々とした足取りで進み出た。


「ガキがくるとこじゃねえぞ」


 肌どころか髪まで日焼けした船乗りが見下ろした。

 物怖じもせず、子供はにっと笑うと、賢しげな目つきでこう切り出した。


「僕はシキ。このあたりは僕らの縄張りさ。何も知らない大人より、よっぽど地理に明るいし、働きも確かだよ。この時期はどこも手不足で、ろくな人足は集まらないはずさ。ここがだめなら他をあたるまでだけど、どうする?」


 よほど場慣れしているのだろう。

 落ち着き払った少年の物言いに、船乗りの男は興味を示したようだ。

 見回せば、子供にしては体躯のすぐれた数人が、遠巻きにこちらの様子をうかがっている。

 船乗りは少し考えると、目の前の少年を値踏みするように語りかけた。


「まあ、試しに手伝わせてみるか。この積み荷を、ワラシベっていう商家に卸してるんだが、わかるか?」

「中央の店? それとも西の蔵?」

「へぇ……西だ。頼めるか?」

「積み荷はこれだけだね。銀で二十五。どう?」

「ふむ、いいだろう。一刻で運びきれるなら払ってやる」

「商談成立だね。――クロウ!」


 合図とともに、赤髪の少年が先頭に立ち、子供たちを動かし始める。

 無駄のない動き、息の合った連携。

 特に重い荷は、その少年が次々と肩に担ぎ上げ、運び出していった。

 船乗りたちはすっかり舌を巻いてその働きを認め、一刻の後には、約束通りの銀子を彼らの手のひらに握らせるのだった。


 夕闇が港を包むころ、二人は酒場の片隅へと身を潜めた。

 喧騒にまぎれて聞こえてきたのは、海の男たちが声を潜めて交わす、不穏な噂話だ。


「聞いたか? 誰も近づかねえ、あの霧の海域を通った船の話をよ。夜中だってのに、まるで真昼みたいに明るく光る怪異を見たらしいぜ」

「その霧の向こうに、島の影が見えたってよ。噂の隠ヶ島ってやつだろうなあ」


 あくる日の朝、またしても一人、子供が姿をくらませた。

 争いの跡も、人の気配もない。

 これは単純な縄張り争いや、嫌がらせの類ではなさそうだ。

 こんな時でも、孤児である子供たちは、町の大人を頼ることはできやしない。


「俺たちの場所を荒らす悪党を、のさばらせておくわけにはいかねえ」


 怒りをあらわにしたクロウを、シキが支えた。

 二人は、これ以上の犠牲を出さないため、孤児たちが孤立しないよう、数か所に集めて見張りを立てた。

 そして当人たちは、夜の闇にまぎれて動き出す。


 その夜、シキは雑踏を抜けると、薄暗い路地裏をひとりで歩き、人気のない袋小路で横になった。

 むしろをかぶり、眠りにつく。


 誰もが寝静まったころ、足音をしのばせて、袋小路へと迫る姿があった。

 二人組の男が麻袋を広げ、シキが眠るむしろへと手を伸ばさんとする。


 男たちの背後に、野獣のごとき獰猛さで襲いかかる影が現れた。

 クロウの拳が脇腹を容赦なく打ち抜き、くの字に折れ曲がった男を鈍い音とともに地面へたたき伏せると、声を上げるいとますら与えず、男の四肢をねじ上げた。


 慌てたもう一人の男が、腰の短刀へ手を伸ばし、身構えようと動く。

 しかし、背後からするりと伸びたシキの手が、一瞬早くその短刀を引き抜くと、そのまま男の首筋に押し当てた。


「口を割らせるだけなら、二人もいらねえ。正直に話したほうの命は助けてやる」


 クロウの怒気にのまれた二人組は、恐怖に顔をゆがめて、代わる代わる白状した。


「み、港に停泊している商船……赤獅子丸だ」

「船倉に、子供ばっかり何人か、閉じこめている……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。