第7話-奪還(Recuperatio)
果ての都で探索者として活動を始めてから数日。
ウィアたちは初級依頼を中心に経験を積んでいた。
最初に受けたのは薬草採取の依頼だった。
果ての都から半日ほど離れた遺跡に守られた草原地帯。
風に揺れる背の低い草の中を、ウィアはしゃがみ込みながら進んでいく。
「えっと……葉の縁がギザギザで、茎が赤い。」
手元の資料と見比べながら呟く。
「これで合ってるはず。」
「正解です。」
肩の上に座った小さいエラが即座に答えた。
「薬効成分も規定値を満たしていると思われます。」
「そこまで分かるの?」
「分析しました。」
当然のような返答だった。
一方その頃。
少し離れた場所では、カーデンスが不機嫌そうな顔で草をかき分けていた。
「面倒くせぇ……。」
「全部同じ草に見える。」
「だから確認しながら採るんだよ。」
「探索者ってもっと遺跡とか行くもんじゃねぇのか。」
「初心者はまずこういう仕事からです。」
エラが容赦なく言い放つ。
結局その日一番多く薬草を採取したのは、分析能力を活用したエラの指示を受けたウィアだった。
カーデンスは最後まで薬草と雑草の違いに苦戦していた。
次に受けたのは近郊巡回任務だった。
果ての都周辺の街道を見回り、異常がないか確認する依頼である。
派手さはないが重要な仕事だ。
街道には商人の荷車や旅人たちが絶えず行き交っていた。
「異常なし」
カーデンスが周囲を見回しながら言う。
「平和だな。」
「その方が良いんだよ。」
ウィアは肩をすくめた。
「問題が起きてからじゃ遅いからね。」
その時だった。
街道脇の茂みから子供の泣き声が聞こえてきた。
三人が駆け寄ると、小さな男の子が一人で座り込んでいた。
どうやら家族とはぐれてしまったらしい。
「大丈夫?」
ウィアが膝をついて声を掛ける。
少年は涙を浮かべながら頷いた。
幸い、近くで必死に子供を探している母親が見つかり、すぐに再会することができた。
何度も頭を下げる母親を見送りながら、ウィアは少しだけ嬉しくなる。
遺跡探索だけが探索者の仕事ではない。
誰かの役に立つこともまた、この仕事の大切な一面なのだと知った。
そして最後に。
遺跡周辺の安全確認依頼。
こちらは3人にとって最も探索者らしい任務だった。
対象となるのは果ての都近郊にある小規模遺跡。
既に調査は完了しているが、危険生物が住み着いていないか定期的な確認が必要だった。
薄暗い石造りの通路を進みながら、ウィアは周囲へ視線を巡らせる。
壁面には風化した古代文字。
崩れかけた柱。
微かに残る文明の痕跡。
それだけで胸が高鳴った。
「何か見つかったか?」
後ろからカーデンスが尋ねる。
「まだ何も。」
そう答えた直後だった。
奥の物陰で何かが動いた。
反射的に3人が身構える。
だが現れたのは危険生物ではない。
小動物ほどの大きさしかない清掃機械だった。
古代文明時代の設備なのか、今も黙々と床の砂を集め続けている。
「なんだよ。」
カーデンスが脱力する。
「少しくらい戦いがあると思ったんだがな。」
「安全確認依頼なんだから安全で良いんだよ。」
ウィアは苦笑した。
その後も遺跡内部を調査したが、大きな異常は見つからなかった。
依頼完了。
報酬は決して高くない。
英雄譚になるような発見もなかった。
だが探索者として必要な経験は確実に積み重なっていた。
薬草採取。
街道巡回。
遺跡点検。
地道な仕事ばかりだ。
それでも3人は少しずつ探索者としての歩みを進めている。
果ての都には、まだ無数の依頼と未知の冒険が待っていた。
仕事を終え、探索者協会で依頼の完了報告をしていた時だった。
「ウィア君、貴方たちに招集命令が出ているわ。」
受付の女性がいつになく真面目な表情で告げた。
「招集命令?」
ウィアは思わず聞き返す。
「ええ。高難度の依頼が発生した際、必要と判断された探索者を会長直々に指名して招集する制度よ。」
女性は少し声を落とした。
「ちなみに、正当な理由が無い限り拒否はできないわ。拒否した場合は協会からの信用にも関わるの。」
その説明にウィアとカーデンスは顔を見合わせた。
ただ事ではないらしい。
「分かりました。」
ウィアが頷く。
受付の女性は小さく微笑んだ。
「急いだ方がいいわ。もう皆集まっている頃だから。」
ウィアたちは礼を言い、足早に大会議室へ向かった。
協会の上層部に設けられた大会議室。
重厚な扉を開けた瞬間、張り詰めた空気が流れ込んできた。
室内には10名ほどの協会職員。
そして30名ほどの探索者たちが集まっている。
誰もが歴戦の強者だった。
身体に刻まれた傷。
使い込まれた発掘品。
無言で座っているだけなのに、ただならぬ圧力を放っている。
ウィアは思わず息を呑んだ。
カーデンスも珍しく無言だった。
やがて会議室の扉が再び開く。
入ってきたのはオリヴィエとフェリアだった。
その瞬間、全員が一斉に立ち上がる。
まるで軍隊のように統率された動きだった。
ウィアとカーデンスも慌ててそれに倣う。
オリヴィエは全員を見渡し、静かに口を開いた。
「皆、よく集まってくれた。」
穏やかな声だった。
だが、その場にいた誰もが自然と耳を傾ける。
「果ての都に危機が迫っている。」
会議室の空気がさらに重くなる。
「その対応のため、諸君らを招集した。」
オリヴィエは一拍置いた。
「なお、この依頼は皇帝陛下直々に下された特命である。」
ざわり、と室内が揺れる。
「失敗は許されない。」
その一言だけで十分だった。
誰も口を挟まない。
「諸君の奮闘を期待する。」
そして視線を隣へ向ける。
「フェリア、説明を頼む。」
「承知しました。」
フェリアが前へ出る。
氷のような青い瞳が会議室全体を見渡した。
「本日未明、都市地下に存在する第1、第8、第13発電所が静天同盟によって占拠されました。」
室内がざわめく。
(エラ、静天同盟って?)
ウィアが脳内で尋ねる。
(静天同盟とは、神々の嵐は皇帝によって引き起こされていると主張する反政府組織です。)
エラが即座に答えた。
(かなり過激な連中って噂だな)
カーデンスも会話へ加わる。
(ええ。武力行使も辞さない危険思想集団です。)
エラの声には僅かな悲しみが混じっていた。
(本来、神々の嵐は皇帝が起こしている訳ではありませんから。)
(エラ……)
ウィアは何も言えなかった。
フェリアの説明は続く。
「彼らは発電所を警備していた帝国軍部隊を全滅させ占拠したようです。」
空気が凍り付く。
「さらに第1発電所に隣接する情報集積室も同時に襲撃しています。」
大型の投影装置が起動し、地下施設の見取り図が表示された。
「第8、13発電所は軍と巡察隊が担当します。」
「我々の任務は第一発電所及び情報集積室の奪還です。」
地図上に赤い印が灯る。
「発電所へ続く入口は既に先遣部隊によって確保されています。」
「我々は直ちに部隊を編成し、地下へ突入します。」
フェリアは迷いなく言い切った。
「なお、作戦指揮は私が執ります。」
その言葉に異議を唱える者はいない。
五羅針の一人。
白氷のフェリア。
彼女が率いるならば当然だった。
「以上です。各員、作戦準備に入ってください。」
会議は終了した。
ウィアたちは複数の部隊へ振り分けられる探索者たちを横目に見ながら待機する。
やがてフェリアが近づいてきた。
「ウィアトル様、カーデンス様。」
「お二人は遊撃部隊として行動していただきます。」
「私の直接指揮下です。」
「了解しました。」
ウィアが答える。
カーデンスも頷いた。
そして数十分後――。
都市地下へ続く巨大な昇降施設前。
そこには即席で設置された発電所奪還作戦本部が築かれていた。
帝国軍。
探索者協会。
支援要員。
数多くの人員が慌ただしく動き回っている。
果ての都始まって以来とも言える大規模作戦。
ウィアは地下へ続く巨大な入口を見つめた。
その奥には敵がいる。
そして、まだ誰も知らない何かが待っているような気がした。
今回の奪還作戦では、地下施設へ続く複数の侵入経路を利用し、3方向から同時に突入する手はずになっていた。
発電所前に設営された作戦本部は慌ただしい空気に包まれている。
照明機材が並べられた仮設テントの下では、通信担当が絶えず端末を操作し、帝国軍と探索者協会の職員たちが忙しなく行き交っていた。
やがて、1隊、また1隊と攻撃部隊が地下へ降下していく。
重い装備を身につけた探索者たちの背中が、巨大な昇降施設の闇へと消えていった。
ウィアとカーデンスはその様子を固唾を飲んで見守っていた。
地下へ続く入口は巨大な穴のようだった。
冷たい風が吹き上がり、地下施設の奥深くから機械音にも似た低い振動音が響いてくる。
作戦開始からしばらくして、通信担当の元へ最初の定時連絡が入った。
「こちらα隊。順調に進行中。」
通信機から雑音混じりの声が響く。
「敵数名と遭遇後、交戦。」
「敵戦力は少数の可能性あり。」
本部内に僅かな安堵が広がる。
しかし次の瞬間だった。
「ん? どうした――」
通信の向こうで誰かが叫ぶ。
直後、悲鳴が響いた。
「なっ……これは……!」
「フェリアさん、まずい! こいつら――」
激しい金属音。
何かが砕ける音。
怒号。
そして、
「忘れられ、忘れた者たちを目覚めさせやがった――!」
ブツッ。
通信は突然途絶えた。
室内が静まり返る。
誰も言葉を発しない。
通信担当だけが慌てて呼び掛けていた。
「α隊、応答してください!」
「α隊!」
返事は無い。
それから間もなく、β隊とγ隊からも報告が届いた。
両隊とも敵との交戦を報告したが、遭遇した敵は少数だったらしい。
ただし共通していたのは不穏な情報だった。
地下の奥から金属の足音が聞こえること。
そして施設内に不自然な活動痕跡があること。
フェリアは即座に判断を下した。
「β隊とγ隊は合流してください。」
短い命令だった。
だがその声には迷いが無い。
通信途絶。
それは探索者にとって最悪の兆候の1つだ。
「問題はα隊です。」
フェリアが静かに言う。
氷青色の瞳がウィアたちへ向けられた。
「通信は完全に途絶しました。」
「つまり、それだけの事態が発生したということです。」
カーデンスが腕を組む。
「少数の襲撃であの面子がやられるわけねぇな。」
ウィアも頷いた。
「何か別の問題が起きたんだと思います。」
「その通りです。」
フェリアは即答した。
「時は一刻を争います。」
「遊撃部隊である我々は直ちにα隊と合流します。」
そう言うと、フェリアは地下への入口へ足を踏み入れた。
その表情は冷静だった。
だがウィアには分かった。
彼女もまた不安を感じているのだと。
地下施設は迷路のように入り組んでいた。
灰色の金属壁がどこまでも続き、天井には古い照明が一定間隔で並んでいる。
灯りの一部は故障しており、通路には不規則な陰影が落ちていた。
足音だけが長く反響する。
幸い、第1発電所への最短経路は把握されている。
一行は迷うことなく進んでいった。
途中、通路脇には静天同盟の戦闘員たちが倒れていた。
帝国軍の銃撃を受けた者。
機械兵に破壊されたらしい者。
死因は様々だった。
フェリアは足を止める。
しゃがみ込み、戦闘員の装備を確認した。
「発掘装備は持っていませんね。」
ウィアも視線を落とす。
装備自体は悪くない。
軍隊で支給される標準装備と同程度の品質だ。
しかし発掘装備ではない。
発掘装備は古代技術によって作られた高性能装備だ。
大量生産品とは性能差が大きい。
そんな装備で探索者が集まる果ての都を占拠するなど、あまりにも無謀だった。
嫌な予感が胸をよぎる。
敵には別の切り札がある。
そんな気がしてならなかった。
さらに奥へ進んだ時だった。
遠方から怒号が響く。
金属同士が激突する音。
爆発音。
そして無数の機械音。
戦場の混乱が通路を伝って流れ込んできた。
一行は速度を上げる。
そして発電所へ続く途中の物資集積所へ到着した。
そこで彼らは目を見開いた。
「これは……。」
ウィアが言葉を失う。
広大な倉庫空間を埋め尽くすように、無数の機械兵がいた。
緑の光学センサーが闇の中で無数に光っている。
まるで星空のようだった。
いや――。
死の光景だった。
その手前ではα隊が必死に防衛線を維持している。
傷だらけではあるが、幸い致命傷を負った者はいない。
「お待たせしたようですね。」
フェリアが前へ出る。
α隊の隊長格らしき男が苦笑した。
「助かる。」
「こいつら後から後から湧いてきやがる。」
その言葉通りだった。
破壊された機械兵の残骸が山のように積み上がっている。
だが、その奥からさらに新たな機械兵が押し寄せていた。
終わりが見えない。
フェリアの頬を汗が伝う。
100や200ではない。
1000。
あるいは数千。
もしかすると1万規模かもしれない。
その全てを相手にしながら死者を出さないなど現実的ではなかった。
せめて本気が出せる発掘装備を持ってきていれば…。
判断を迷う時間など無い。
フェリアは決断する。
「ウィア、カーデンス。」
2人が振り返る。
「ここは私とα隊で抑えます。」
「貴方たちは発電所へ向かい、この事態の原因を探ってください。」
「了解!」
「任せろ!」
同時に返事が返る。
その頃にはβ隊とγ隊にも同じ命令が伝達されていた。
だが発電所への通路は機械兵によって塞がれている。
その時だった。
「道は俺たちが作る!」
α隊の探索者が叫ぶ。
彼は金属球を蹴り飛ばした。
球体は空中で展開。
ブースターが噴射し、複数の刃を展開しながら機械兵の群れへ突っ込む。
轟音。
金属片が四散した。
それを合図にα隊が一斉に動く。
巨大な鎌を持つ探索者が踏み込む。
機械兵が回避したように見えた次の瞬間、その身体は真っ二つになっていた。
刃が複数へ分裂していたのだ。
別の探索者は右腕の銃口から青白い電撃を放つ。
稲妻が通路を走り、機械兵たちをまとめて吹き飛ばした。
「今です!」
フェリアが駆ける。
白銀の短刀が閃いた。
機械兵が次々と切り裂かれ、通路に突破口が生まれる。
「頼みましたよ!」
その声を背に、ウィアとカーデンスは全力で駆け出した。
背後ではフェリアとα隊が立ちはだかり、押し寄せる機械兵の大群を食い止めていた。
あの数の機械兵を突破されることまでは想定していなかったのか。
発電所へ続く通路は、不気味なほど静まり返っていた。
先ほどまで耳を埋め尽くしていた金属の衝突音も、怒号も、銃声も聞こえない。
響くのは自分たちの足音だけだった。
薄暗い地下通路を駆けながら、ウィアは嫌な胸騒ぎを覚える。
静かすぎる。
それは安全を意味しない。
むしろ何かが起きた後の静寂のようだった。
やがて巨大な隔壁を抜け、第1発電所へ辿り着く。
だが――。
「誰も……いない?」
カーデンスが眉をひそめた。
広大な発電施設の内部には人影がなかった。
静天同盟の戦闘員も。
機械兵も。
戦闘員の姿すらない。
拍子抜けするほどの無人状態だった。
ウィアは周囲を見回す。
中央では巨大な発電炉が低い唸り声を上げながら稼働していた。
青白い光が断続的に明滅し、施設内部を照らしている。
その時、違和感に気付いた。
「……あれ?」
発電炉の周囲に並ぶはずの設備が欠けている。
無理やり引き剥がされたような痕跡。
配線が千切れ、固定具が破壊されていた。
「蓄電タンクだ。」
カーデンスが呟く。
本来なら設置されているはずの大型蓄電タンクが2基消えていた。
まるで最初からそれだけを狙っていたかのように。
嫌な予感が強まる。
だが立ち止まっている暇はなかった。
「エラ。」
ウィアが呼びかける。
光輪が淡く回転した。
「生体反応を検知。」
「反応は発電所ではありません。」
「情報集積室です。」
即座に答えが返る。
「急ごう。」
3人は発電所を飛び出した。
その途中でβ隊、γ隊と合流する。
どうやら彼らも同じ結論へ辿り着いたらしい。
探索者たちは一言も交わさず駆ける。
全員が事態の異常さを理解していた。
そして。
放棄された情報集積室へ到着した時だった。
広大な施設の中央。
そこに1人の男が立っていた。
まるで最初から待っていたかのように。
灰色の外套を纏い、ゆっくりとこちらへ向き直る。
「これはこれは。」
男は優雅に一礼した。
その口元には薄い笑みが浮かんでいる。
「愚劣な詐欺師、カエルム皇帝陛下に与する探索者の皆様ですか。」
その声音には露骨な侮蔑が滲んでいた。
「ですが残念でしたね。」
「一歩遅かった。」
男は肩を竦める。
「私の目的は既に達成されています。」
その瞬間だった。
カーデンスの視線が男の外套に縫い付けられる。
胸元に刻まれた紋章。
中央の雷。
それを消し去るように刻まれた3本の横線。
「あのマークは……」
声が震えた。
次の瞬間。
記憶の奥底に沈んでいた何かが弾ける。
失われた記憶。
記憶の奥底に沈めていた過去が、容赦なく浮かび上がる。
燃える家々の向こうで、村人たちの悲鳴が響いていた。
雷の紋章に横線が3本刻まれた印を胸に付けた者たちが、笑いながら村を蹂躙していく。
「助けてくれ!」
「カーデンス!」
大人たちの叫びが耳に刺さる。
だが12歳のカーデンスには何もできなかった。
拳を握り締め、震えながら立ち尽くすことしか。
その時、倒れていた6歳の妹が小さく手を伸ばした。
「お、お兄ちゃん……」
カーデンスは慌てて駆け寄り、その身体を抱き起こす。
妹の服は赤く染まっていた。
「大丈夫だ……! 今助けるから……!」
震える声でそう言うが、自分でも嘘だと分かっていた。
妹は苦しそうに息をしながら、それでも兄を見つめる。
「みんなを……守って……」
「しゃべるな……!」
涙が止まらなかった。
助けたいのに助けられない。
守りたいのに守れない。
妹は弱々しく微笑んだ。
「お兄ちゃん……大好き……」
伸ばされた小さな手が、力なく落ちる。
その瞬間、カーデンスの世界から音が消えた。
燃える村も。
村人たちの悲鳴も。
何も聞こえない。
ただ、腕の中で動かなくなった妹だけがそこにいた。
やがてカーデンスはゆっくりと顔を上げる。
炎の向こうに、雷の紋章に横線が三本刻まれた印が見えた。
その姿を、彼は涙で滲む目に焼き付ける。
決して忘れないように。
決して許さないように。
「おまえぇぇぇぇぇぇ!!」
咆哮。
床が砕ける。
カーデンスは一直線に突撃した。
怒りだけで加速した拳が男へ迫る。
だが――。
届かない。
ゴゴゴゴ……。
背後の壁が動いた。
いや、違う。
壁だと思っていたものが立ち上がったのだ。
巨大な腕が伸びる。
鋼鉄の掌がカーデンスの拳を受け止めた。
轟音。
衝撃波が吹き荒れる。
「なっ……!?」
探索者たちが息を呑む。
それは人型だった。
全高15メートルを超える鋼鉄の巨人。
長い年月を経てなお威圧感を失わない古代兵器。
「エラ、あれは……」
ウィアが問う。
エラの声が僅かに強張った。
「あれは盟約時代に開発された危険生物迎撃兵器。」
「《マキナ・ロリカ》――巨機械鎧です。」
その名が告げられた瞬間、空気が変わった。
ただの大型兵器ではない。
古代文明が生み出した戦闘機械。
伝承にのみ語られる存在だった。
男は嬉しそうに巨体へ触れる。
「素晴らしい。」
「これさえあれば皇帝も帝国軍も終わりです。」
そして操縦席へ乗り込んだ。
次の瞬間。
マキナ・ロリカの全身が発光する。
危険を察知した探索者たちが叫ぶ。
「散れ!!」
直後。
無数の光線と銃弾が室内を埋め尽くした。
轟音。
爆炎。
崩落。
情報集積室が一瞬で戦場へ変わる。
探索者たちは咄嗟に回避する。
床が抉れ、壁が砕け、金属片が嵐のように飛び散った。
回避と同時に反撃。
銃撃。
斬撃。
炎。
雷。
様々な発掘品が火花を散らす。
しかし――。
全てが弾かれた。
マキナ・ロリカの周囲に半球状のシールドが展開されていた。
どんな攻撃も通らない。
絶対防御。
まるでそう呼ぶべき光景だった。
(エラ、弱点を探して。)
(了解しました。)
光輪が激しく明滅する。
その間も戦いは続く。
そしてカーデンスだけは無謀な突撃を繰り返していた。
拳を振るうたび傷が増える。
血が流れる。
それでも止まらない。
まるで自分の命などどうでもいいかのように。
ウィアはその肩を掴んだ。
「カーデンス!」
怒りに呑まれた友の姿に、かつての自分を重ねながら。
「離せ。」
カーデンスが荒々しくウィアの手を振り払った。
その姿は、旅に同行させる前の彼を思い出させた。
誰も信じず、怒りだけを支えに生きていた頃の姿を。
「カーデンス!」
ウィアは一歩踏み込み、正面へ回り込んだ。
戦場のど真ん中だ。
こんな行動は命取りになりかねない。
それでも今、止めなければならないと感じていた。
爆発音が響く。
銃撃が飛び交う。
マキナ・ロリカの放つ砲火が周囲を削り取っていく。
そんな混乱の中で、ウィアは真っ直ぐカーデンスの瞳を見つめた。
その視線に射抜かれるように、カーデンスは僅かに目を逸らす。
「あいつは……」
掠れた声だった。
「あのマークの奴らは……」
拳が震えている。
「妹の……」
そこで言葉が詰まった。
歯を食いしばる音が聞こえる。
「覚えてなきゃいけなかった。」
「それなのに…俺は。」
その言葉で十分だった。
ウィアは理解する。
カーデンスの失われた記憶。
妹を喪った原因。
それが静天同盟なのだと。
胸の奥で怒りが湧き上がる。
だが同時に、ウィアは自分自身のことを思い出していた。
怒りに呑まれそうになった時。
母に言われた言葉を。
「カーデンス。」
静かに呼びかける。
「本当にあいつを倒したいなら冷静になるんだ。」
カーデンスは何も答えない。
ウィアは続けた。
「――怒りは視界を狭める。」
「感情をコントロールしろ。」
「……って、僕の母さんは言ってたよ。」
しばしの沈黙が流れた。
周囲では戦闘が続いている。
轟音。
爆炎。
怒号。
それらが遠く聞こえるほど、二人の間だけ時間が止まったようだった。
そして――。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
咆哮。
カーデンスは勢いよく振り向くと、そのまま壁へ頭を叩きつけた。
鈍い音が響く。
額が裂け、血が流れ落ちる。
だが。
不思議なことに、その表情からは先ほどまでの狂気じみた怒りが消えていた。
荒い呼吸を繰り返しながらも、その目には理性が戻っている。
「カーデンス、大丈夫?」
ウィアが声を掛ける。
それは怪我を心配しての言葉だけではなかった。
心の方を気遣う声だった。
カーデンスは鼻を鳴らす。
「悪かったな。」
ぶっきらぼうな謝罪。
だが、それだけで十分だった。
視線を前へ向ける。
そこではマキナ・ロリカとの激戦が続いていた。
探索者たちは、見事な連携を見せている。
誰一人として、無駄な動きをしていない。
流石は招集命令で集められた精鋭達だった。
致命傷を避けながら戦線を維持している。
だが――。
決定打がない。
攻撃そのものは当たっている。
しかしシールドが全てを受け止めていた。
剣も。
銃弾も。
発掘品による特殊攻撃も。
まるで分厚い壁に阻まれているかのようだった。
その時。
エラの光輪が激しく明滅する。
(ウィア、解析が完了しました。)
(本当!?)
(あの敵は半球状のシールドしか展開できません。)
ウィアの瞳が見開かれる。
(つまり前後から同時に攻撃すれば――)
(攻撃は通ります。)
エラは即答した。
だが続ける。
(ただしタイミングが重要です。)
(シールドは攻撃方向へ瞬時に自動で展開されています。)
(展開遅延は0.15秒。)
「0.15秒!?」
思わず声が漏れる。
それを聞いたカーデンスが顔を引きつらせた。
「0.15秒……そんなもん人間に合わせられるのかよ!?」
「なら。」
ウィアは迷わなかった。
「何度も試すしかないね。」
その瞳には覚悟が宿っていた。
「エラ。」
「みんなに伝えて。」
これまでエラはウィア達以外の前でほとんど話していない。
だが今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
光輪が輝く。
次々と探索者達へ情報が共有されていく。
「カーデンス。」
ウィアが短槍を構えた。
「行くよ。」
「ああ。」
カーデンスが拳を握る。
次の瞬間。
2人は同時に飛び出した。
ワイヤーが空中を走る。
ウィアの身体が弾丸のように加速する。
反対側からカーデンスが突撃した。
だが。
合わない。
ほんの僅かに。
タイミングがずれる。
シールドが展開される。
防がれる。
もう一度。
失敗。
さらにもう一度。
失敗。
何度も。
何度も。
繰り返す。
そのたびにマキナ・ロリカの砲撃が飛び交い、探索者達が命懸けで時間を稼いだ。
そして――。
ついにその瞬間が訪れる。
ウィアのワイヤーがマキナ・ロリカの脚へ絡みつく。
強引に体勢を崩しながら、正面から短槍を突き出した。
シールドが反応する。
その刹那。
背後。
カーデンスのブーストナックルが炸裂した。
轟音。
衝撃が巨体を貫く。
シールドが展開しきる前に攻撃が通った。
マキナ・ロリカが大きく前へ傾く。
そして――。
倒れた。
凄まじい轟音が情報集積室を揺らす。
「この……!」
男の怒声が響いた。
先ほどまでの冷静沈着な姿は消えている。
顔を歪め、激昂していた。
「ゴミ虫どもがぁぁぁっ!!」
暴走するようにビームが乱射される。
銃弾がばら撒かれる。
巨大な腕が薙ぎ払われる。
15メートルの巨体。
それだけで十分すぎる脅威だった。
探索者達は前方から攻撃を集中させる。
その間に。
カーデンスが飛んだ。
渾身の一撃。
ブーストナックルが天井を破壊する。
崩落。
大量の瓦礫が降り注ぐ。
視界が遮られる。
マキナ・ロリカが怯んだ。
その隙を逃さない。
カーデンスと探索者達が下側へ潜り込み、一斉攻撃を叩き込む。
そして。
ウィアは見つけていた。
天井から垂れ下がる太い電力ケーブルを。
ワイヤーが伸びる。
切断されたケーブルを引き寄せる。
そして――。
全力でマキナ・ロリカへ叩きつけた。
閃光。
凄まじい過電流が流れ込む。
各部から火花が散る。
ビーム砲口からは炎が噴き出した。
そして。
半球状のシールドが消滅する。
「今だ!!」
誰かが叫ぶ。
そこから先は一方的だった。
斬撃。
銃撃。
炎。
雷。
無数の攻撃が叩き込まれる。
ついに。
マキナ・ロリカは膝をついた。
そして完全に動きを止める。
静寂。
エラの声が響いた。
「完全な機能停止を確認。」
歓声が上がる。
誰もがその場へ座り込んだ。
全員が満身創痍だった。
「皆、無事ですか?」
通信機からフェリアの声が聞こえる。
「なんとか……無事です。」
通信担当が力なく答えた。
誰も余裕はない。
だが生きていた。
それだけで十分だった。
「合流します。」
「その場で待機してください。」
通信が切れる。
フェリア達もこちらへ向かっているらしい。
周囲には機械兵の残骸が山のように積み上がっていた。
さらに通路の奥には、今まさに襲い掛かろうとしていた機械兵の大軍が立ち尽くしている。
操っていたマキナ・ロリカを失ったことで停止したのだろう。
そしてフェリア達もまた。
その機械兵の大群を相手に戦い抜き、限界寸前だった。
カーデンスがマキナ・ロリカのコクピットを強引にこじ開けた。
ひしゃげた装甲板が軋みを上げながら外れ、内部の様子が露わになる。
中には2人の男がいた。
衝撃で意識を失っているのか、どちらもぐったりと座席に倒れ込んでいる。
そのうちの1人――先ほどまで巨機械鎧を操り、静天同盟を率いていた首魁と思われる男の襟首を掴み、カーデンスは乱暴に外へ引きずり出した。
男の身体が床を擦り、鈍い音を立てる。
周囲の探索者たちが息を呑んだ。
カーデンスの表情は険しい。
拳は固く握り締められ、その肩は小さく震えていた。
今にも振り下ろされそうな殺意。
誰の目にもそう見えた。
その時だった。
「カーデンス。」
ウィアが静かに声を掛ける。
「僕とエラは君を見ている。」
短い言葉だった。
だが、その一言でカーデンスの動きが止まる。
しばらく沈黙が流れた。
握り締められた拳が小さく震える。
「分かってる。」
低い声だった。
「こんな奴を殺しても意味が無いことくらい。」
「妹が帰ってこないこともな。」
苦しそうに吐き出された言葉。
カーデンスは男を睨み続けていた。
まるで憎しみを押さえ込もうとしているかのように。
「だけどよ……。」
声が震える。
「俺の中で激しく渦巻くんだ。」
「怒りが。」
その顔は悲痛に満ちていた。
長年押し込められていた感情。
失われた記憶。
取り戻した真実。
全てが一度に押し寄せているのだろう。
ウィアは静かに歩み寄った。
「でも君は、もう歩いてる。」
「新しい道を。」
澄んだ瞳が真っ直ぐカーデンスを見据える。
「そうだろ?」
「カーデンス。」
その言葉に、カーデンスは何も返さなかった。
ただ黙って立ち尽くす。
長い沈黙が流れる。
やがて。
「妹は最後まで俺を信じていた。」
「みんなを守ってって、そう言って逝ったんだ。」
一度目を閉じ、静かに息を吐く。
「だけど俺は何一つ守れなかった。」
「このままじゃ、あいつに顔向けできない。」
再び目を開き、ウィアを見据えた。
「だから俺と戦え。」
突然の申し出だった。
周囲の探索者たちが思わず顔を見合わせる。
「こんな時にか?」
「仲間同士で何やってんだ……。」
呆れたような声も聞こえる。
「ウィアを傷付けたら私が許しま――」
エラが口を開く。
しかし、その言葉を最後まで言わせず、ウィアが小さく手を上げた。
そして頷く。
「いいよ。」
カーデンスが構える。
次の瞬間。
ブーストナックルが唸りを上げた。
轟音。
推進炎が噴き出す。
カーデンスの身体が弾丸のように前へ飛び出した。
拳が一直線に迫る。
ウィアはワイヤーを射出した。
金属線が天井へ突き刺さる。
身体を引き寄せ、一瞬で側面へ回り込む。
拳が空を切った。
そのまま短槍を突き出す。
カーデンスが腕で弾く。
火花。
衝撃。
何度も打ち合う。
拳と短槍。
激突する度に鈍い音が響いた。
2人とも既に限界だった。
マキナ・ロリカとの戦いで体力も能力も消耗している。
呼吸は荒い。
汗が流れる。
足元もふらついていた。
それでも2人は止まらない。
互いの想いをぶつけるように戦い続ける。
そして。
最後の一撃。
カーデンスのブースターが最大出力で唸った。
ウィアも全力でワイヤーを収縮させる。
最速。
渾身。
互いに残された力の全てを込める。
拳と槍が交差した。
轟音。
衝撃波が周囲へ広がる。
次の瞬間。
2人の身体が吹き飛んだ。
壁へ激突する。
石片が散る。
そして、そのままうつ伏せで倒れ込んだ。
「全く理解できません。」
呆れた声が響く。
エラだった。
そう言いながら、彼女はマキナ・ロリカから回収したエネルギーを美味しそうに吸収している。
光輪が満足そうに明滅していた。
床に寝転んだまま、カーデンスは天井を見上げる。
荒い息を吐く。
だがその顔に、先ほどまでの憎悪は無かった。
驚くほど穏やかだった。
「なぁ、ウィア。」
「何?」
「すまなかった。」
静かな声だった。
「村のこと。」
「お前の母親のこと。」
「俺が弱かったから。」
「憎しみを振りまいた。」
カーデンスは拳を握る。
「俺は……お前ほど強くなかった。」
そして。
ゆっくりと身体を起こした。
地面に額が触れるほど深く頭を下げる。
「許してもらおうとは思ってない。」
「だけど俺は贖罪を続ける。」
「お前にも。」
「村の奴らにも。」
「他の場所で奪った命にも。」
「だから――」
頭を上げる。
真っ直ぐな視線。
迷いは無かった。
「俺を、お前の旅に同行させてくれ。」
その言葉は本心だった。
ウィアはしばらく黙っていた。
そして懐へ手を入れる。
取り出したのは支配の鍵だった。
「じゃあ、これはもう必要ないね。」
解除命令を発する。
鍵が淡く発光し、その機能を停止した。
カーデンスの目が見開かれる。
「お前、それは……。」
驚きを隠せない。
ウィアは小さく笑った。
「君を許すよ。」
「でも。」
表情が僅かに引き締まる。
「君をそこまで追い詰めた理不尽は許せない。」
その言葉に。
カーデンスは何も返せなかった。
ただ静かに、もう一度頭を下げる。
今度は心の底からの感謝と共に。
「終わりましたか。」
聞き慣れた落ち着いた声に振り返る。
そこにはフェリアが立っていた。
激戦を終えたばかりだというのに、その姿勢は崩れていない。
黒い戦闘装束には無数の傷や汚れが刻まれていたが、それでも氷のような端正な雰囲気は失われていなかった。
フェリアは倒れたマキナ・ロリカを見上げる。
全身を覆っていた装甲は砕け、各所から白煙が立ち上っている。
周囲には破壊された残骸が山のように積み重なっていた。
戦闘の激しさを物語る光景だった。
「このような化け物とやり合った直後に、まだ戦闘を続けるとは。」
わずかに呆れたような声音だった。
そしてフェリアはウィアの前まで歩み寄る。
「体力が有り余っていますね。」
そう言って軽く頭を撫でた。
冷静沈着な彼女にしては珍しい行動だった。
「無事で何よりです。」
その言葉に、ウィアは少しだけ肩の力を抜く。
ようやく終わったのだと実感した。
そこから先は慌ただしかった。
まず行われたのは残存戦力の制圧だった。
気絶していた静天同盟の首魁カエカは厳重に拘束される。
両手両足には発掘品対策用の拘束具が取り付けられ、複数の探索者が監視についた。
生き残った戦闘員たちも次々と武装解除され、連行されていく。
その一方で医療班も到着していた。
担架が運び込まれ、負傷者の応急処置が始まる。
回復用発掘品の淡い光が地下施設を照らし、各所で治療が行われていた。
今はまず生き残ることが優先だった。
ウィアたちも簡単な治療を受ける。
擦り傷や打撲程度で済んでいたが、全身の疲労は隠せなかった。
特にカーデンスは激戦の影響で包帯だらけになっている。
それでも本人は不満そうな顔一つ見せなかった。
その後の取り調べによって、今回の事件の全容が明らかになる。
静天同盟は別の遺跡で発見した資料から、マキナ・ロリカの存在を知った。
保管場所は第1発電所に隣接する情報集積室地下の保管庫。
そして問題は起動方法だった。
マキナ・ロリカを動かすには莫大な電力が必要だったのである。
発電所から奪われた2基の蓄電タンクは、その電力供給のために使用されたらしい。
さらに起動手順や、制御方法が放棄された情報集積室に残されていると予測し、今回の襲撃が実行された。
もし作戦が成功していれば。
マキナ・ロリカを完全起動させた後、追撃してくる帝国軍や探索者部隊を殲滅。
そのまま都中枢――城塔へ向かう予定だったという。
第8発電所、第13発電所への同時襲撃も陽動だった。
帝国軍と探索者協会の戦力を分散させるための作戦だったのである。
あと一歩遅れていれば。
果ての都は未曾有の被害を受けていたかもしれない。
そう考えると背筋が寒くなった。
全ての処理が終わった頃には、既に夜が近づいていた。
ウィアたちは地上へ戻る。
地下施設特有の重苦しい空気が消え、夕暮れの風が頬を撫でた。
赤く染まった空の下、探索者たちは静かに帰還を始める。
疲労の色は濃い。
だが誰もが生還できたことに安堵していた。
探索者協会へ戻ると、フェリアが振り返った。
「ウィアトル様。」
「カーデンス様。」
静かな声だった。
「会長室へ同行してください。」
その言葉にウィアは嫌な予感を覚える。
フェリアは続けた。
「会長がお待ちです。」
会長。
オリヴィエ。
その名前を聞いた瞬間、ウィアは隣を飛ぶエラへ視線を向けた。
エラは何も言わない。
だが光輪がわずかに揺れている。
今回の作戦。
そしてエラが見せた解析能力。
さらに戦場で皆へ直接情報を伝えたこと。
考えられる理由はいくらでもあった。
「……やっぱり。」
ウィアは小さく呟く。
気が重い。
会長が呼んだ理由など、ほぼ予想がついていたからだ。
エラに関する話。
それ以外には思えなかった。
重厚な廊下の先にある会長室の扉を見つめながら、ウィアは小さく息を吐いた。




