99,城の日々
朝、タルドが城門の外に出た。
日課だった。
空を確認する。
異常がないか確認する。
それだけだった。
でも最近、もう一つ日課が増えた。
城門の脇に、ドラゴンがいた。
金色ではなかった。
カキンオーが従えたドラゴンだった。
タルドを見た。
タルドがドラゴンを見た。
「お、おはよう」
ドラゴンは答えなかった。
タルドが少し近づいた。
ドラゴンが動かなかった。
逃げなかった。
タルドが止まった。
逃げなかった。
昨日より、近かった。
───
作業場で。
カキンオーが付与の練習をしていた。
ライラがお茶を持ってきた。
「どうぞ」
カキンオーが受け取った。
飲んだ。
うまかった。
ライラが作業台を見た。
鉄片が並んでいた。
「付与の練習ですか」
カキンオーが頷いた。
「随分並びましたね」
また頷いた。
ライラが少し微笑んだ。
「毎日やっているんですね」
カキンオーは答えなかった。
鉄片を手に取った。
流れを作った。
通した。
光った。
ライラが見ていた。
静かだった。
悪くなかった。
───
昼、タルドが城門の外にいた。
ドラゴンの前に立っていた。
手に肉があった。
大きかった。
倉庫から持ってきた。
「食べるか?」
ドラゴンが動かなかった。
タルドが少し前に出た。
肉を差し出した。
ドラゴンが鼻を動かした。
タルドが固まった。
ドラゴンが口を開けた。
肉が消えた。
「た、食べた!」
タルドが振り返った。
誰もいなかった。
「食べた!!」
ドラゴンが舌を出した。
タルドが嬉しくなった。
───
午後、タルドがライラを見つけた。
「ライラさん! ドラゴンが肉を食べました!」
「そうですか」
「俺の手から食べたんです!」
「それは良かったですね」
「名前をつけてもいいですか」
ライラが少し止まった。
「カキンオー様に聞いてみてはいかがですか」
───
作業場の扉をノックした。
「カキンオー様、ドラゴンに名前をつけてもいいですか」
カキンオーが顔を上げた。
タルドを見た。
しばらく見ていた。
首を横に振った。
「なんでですか」
答えなかった。
「なんでですか!」
また答えなかった。
作業に戻った。
タルドが扉を閉めた。
廊下でしばらく立っていた。
「なんでだ」
誰もいなかった。
───
夕方。
ライラが廊下を歩いていた。
角を曲がると、カキンオーがいた。
窓の外を見ていた。
城門の方角だった。
ドラゴンがいる方角だった。
ライラが隣に立った。
何も言わなかった。
カキンオーも何も言わなかった。
二人で窓の外を見た。
タルドがドラゴンの前に立っていた。
また肉を持っていた。
ドラゴンが食べていた。
タルドが嬉しそうだった。
ライラが小さく笑った。
カキンオーは答えなかった。
でも。
窓から離れなかった。
しばらく、二人で見ていた。
静かだった。
───
夜、作業場で。
カキンオーが鉄片を並べていた。
扉が少し開いた。
「カキンオー様、夜食をお持ちしました」
ライラだった。
入ってきた。
作業台の端に置いた。
カキンオーが見た。
「食べてから続けてください」
カキンオーが頷いた。
ライラが出ていこうとした。
カキンオーが少し動いた。
ライラが止まった。
振り返った。
カキンオーが夜食を見ていた。
それから、椅子を引いた。
座った。
食べ始めた。
ライラが部屋の隅に立った。
いつもなら出ていくところだった。
でも今日は、立っていた。
カキンオーが食べていた。
静かだった。
しばらくして。
カキンオーが顔を上げた。
ライラを見た。
ライラが少し頷いた。
カキンオーはまた食べた。
それだけだった。
でも。
何かが、少し違った。
ライラにはそう感じた。
カキンオーは食べ終わった。
作業に戻った。
ライラが夜食の皿を持って部屋を出た。
廊下が静かだった。
悪くなかった。




