98,帝国の鍛冶師
地下の作業場で。
カキンオーが瓶を並べていた。
セバチャは変化がない。
考えても仕方がない。
瓶を並べる。
ふと、手が止まった。
あの付与武器のことを思い出していた。
二色の発光だった。
赤と青。
どうやって作ったのか。
チョンパという名前が頭にあった。
カキンオーは瓶を棚に戻した。
作業台を見た。
回復薬は終わった。
次は付与武器だ。
でも、あの二色が引っかかっていた。
カキンオーは鉄片を一つ手に取った。
流れを作った。
通した。
定着した。
薄く光った。
一色だった。
鉄片を置いた。
また手に取った。
───
帝国の城で。
カイトがモブテキと向き合っていた。
広い部屋だった。
「帝国は落ち着いているか」
「おかげさまで」
モブテキが頷いた。
「フロストスの件から随分立て直した。天空の件も、ソランが謝罪したことで少し落ち着いた」
「そうか」
「カキンオーのおかげだな」
カイトが少し止まった。
「あいつはそういうつもりはないと思うが」
「分かっている」
モブテキが苦笑いした。
「それでも結果はそうだ」
少し間があった。
「ところで」
モブテキが続けた。
「最近、帝国で少し話題になっていることがある」
「なんだ」
「チョンパという鍛冶師だ」
カイトが少し動いた。
「知っているか」
「名前だけ。二色の付与武器を作る鍛冶師だろ」
「そうだ。若い。でも腕は確かだ」
モブテキが少し考えた。
「ただ、ガドラはあまりよく思っていないようだが」
「ガドラが?」
「チョンパはガドラの弟子だ」
カイトが少し止まった。
「会いに行ってみるか」
───
ガドラの工房は街の外れにあった。
大きかった。
煙が出ていた。
カイトが扉を開けた。
熱かった。
奥でガドラが鉄を叩いていた。
大きな男だった。
厚い手だった。
カイトに気づいた。
「カイトか」
「久しぶりだ」
ガドラが手を止めた。
タオルで手を拭いた。
「城の主の使いか」
「そういうわけじゃない。色々見て回っているだけだ」
ガドラが頷いた。
「チョンパの話を聞きに来たか」
カイトが少し止まった。
「分かるか」
「最近そういう奴が多い」
ガドラが椅子に座った。
カイトも座った。
───
「チョンパは弟子の中で一番の才能だった」
ガドラが静かに言った。
「今でもそう思っている」
「でも、よく思っていないんだろ」
「よく思っていないとは違う」
ガドラが少し間を置いた。
「惜しいと思っている」
「二色の発光のことか」
「ああ」
ガドラが手を見た。
「一色の先に何があるか。あいつはまだそれを見ていない」
「一色の先に何があるんだ」
「俺にもまだ分からない」
ガドラが静かに言った。
「でも、ある」
カイトが少し止まった。
「カキンオーの付与を見てそう思ったか」
ガドラが頷いた。
「あの城の主に会った時、一言だけ言われた」
「何と」
「流れだ、と」
カイトが黙った。
「それだけか」
「それだけだった」
ガドラが遠くを見た。
「でも、道が開けた」
静かだった。
「自分で考えたわけじゃない。ただ、霧が晴れた」
「それでも、ガドラが進化させたんだろ」
「まだ途中だ」
ガドラが手を見た。
「先はある。まだある」
しばらく、沈黙があった。
「チョンパに会うか」
カイトが頷いた。
「会わせてもらえるか」
「ああ」
ガドラが立ち上がった。
「ただ、あいつに言っておけ」
カイトを見た。
「一色の先を見てから、二色に行けと」
カイトが頷いた。
───
城の地下では。
カキンオーが作業台の前にいた。
鉄片を手に取った。
流れを作った。
通した。
定着した。
薄く光った。
一色だった。
カキンオーは鉄片を眺めた。
二色。
どうやって作るのか。
いや。
そもそも二色にする必要があるのか。
やってみるか。
また流した。
静かだった。




