96,覚醒
アモンは朝、部屋を出た。
誰も見ていなかった。
街の外れの廃屋に入った。
誰もいなかった。
静かだった。
アモンは床に座った。
目を閉じた。
魔力を集中させた。
限界まで、振り絞った。
朝から夕方まで。
ずっと続けた。
周囲の空気が、わずかに歪んだ。
黒かった。
静かに、でも確実に、何かが変わっていた。
ふと。
レリスの顔が浮かんだ。
アモンが小さく息を吐いた。
「手間のかかるやつチュ」
誰もいなかった。
アモンは目を閉じた。
また続けた。
───
レリスは毎日練習していた。
全く光らなかった。
でも、ユニスとの練習は楽しかった。
4日目。
中庭でユニスが言った。
「今日も新しいこと聞いてきました」
「なに?」
「魔力って、水みたいに感じるらしいですよ」
「みずみたいに?」
「体の中を流れる感じらしくて」
レリスは目を閉じた。
水を感じようとした。
分からなかった。
目を開けた。
「ユニス、どこで聞いてくるの?」
「先生に聞いてるんです」
「いいなー、わたしのクラスもうあの授業ないんだよね」
ユニスが首を傾けた。
「え、ないんですか」
「うん」
「レリスさん、クラスどこですか?」
「Aクラス」
ユニスが目を丸くした。
「え、Aクラスなんですか。すごい」
「え、そうなの?そうかな、えへへ」
「Aクラスはすごい人しか入れないって聞きましたよ」
レリスは少し考えた。
自分はすごいのか。
うーん。
城に住んでるからすごいかも。
「Aクラスならもうみんな魔法使えるんじゃないですか?」
「え、そうなの?」
レリスは瞑想した。
だめだった。
ちょっと落ち込んで帰った。
夜ご飯はステーキだった。
美味しかった。
───
6日目。
やはりうまくいかなかった。
明後日はテストだった。
さすがに焦っていた。
ユニスに言った。
「明後日のテスト、やばい」
「テストですか? 何のテストですか」
「魔法の、光るやつ」
ユニスが手の中の棒を見た。
それからレリスを見た。
レリスが頷いた。
ユニスが少し間を置いた。
「Eクラスのテストは、2ヶ月後ですよ」
レリスが固まった。
「2ヶ月後?」
「はい」
レリスがうなだれた。
大変なのは自分だけだった。
───
トボトボと帰ってきた。
部屋にアモンが待っていた。
レリスを見た。
「だめみたいチュね」
レリスがうなだれた。
「本気でやるなら教えるチュ」
レリスが顔を上げた。
「がんばる」
アモンが頷いた。
「食べてからチュ」
───
夕食が終わった。
レリスの部屋で。
アモンが静かに言った。
「覚悟はいいチュか」
「大丈夫」
アモンが変身した。
なんかすごかった。
部屋の空気が変わった。
暗くなった。
黒いゾワゾワが、アモンの体からレリスに向かって伸びてきた。
沢山あった。
うごめいていた。
レリスは動かなかった。
全部、くっついた。
そのまま、気を失った。
───
朝、目が覚めた。
天井が見えた。
アモンが枕の横にいた。
いつもの小さなネズミだった。
「今夜またやるチュ」
それだけ言った。
レリスは頷いた。
体が、少し重かった。
でも。
何かが変わった気がした。
まだ分からなかった。
でも、変わった気がした。




