95,シチューの夜
学校から帰ってきた。
アモンがいなかった。
「アモンは?」
ミナが少し間を置いた。
「出ていったきりで」
レリスが部屋を見た。
アモンの定位置の枕があった。
誰もいなかった。
「ガルドいない」
「ガルド様はしばらく学校に来られないそうです」
「なんで」
「実習中とのことで」
レリスが椅子に座った。
棒を握った。
光らなかった。
どうしたらいいか分からなかった。
ミナが静かに見ていた。
───
扉が開いた。
「ただいまー、疲れた」
ユキナだった。
どさっと椅子に座った。
「ミナさん、今日は何?」
「シチューですが、よろしいですか」
「もちろん。ミナさんの料理は何でも美味しい」
ユキナが机に突っ伏した。
「今日も復興のお仕事ですか?」
「そう、魔法で色々やってたんだけど疲れた」
レリスがユキナを見た。
「まほう?」
「ん?」
「ユキナ、魔法使える?」
「使えるわよ。それもこの街なら一番よ」
レリスの目が輝いた。
「すごい、ユキナ! 魔法おしえて!」
ユキナが困った顔をした。
「んー、それがね」
「なに?」
「私の魔法ちょっと特殊で、教えるのが難しいのよ」
レリスがガーンと落ち込んだ。
机に突っ伏した。
ユキナが少し驚いた。
「え、なに、そんなに?」
ミナが静かに説明した。
学校のこと。
魔法の授業のこと。
来週のテストのこと。
ユキナが聞いていた。
レリスが突っ伏したまま、ぽつりと呟いた。
「ユキナ、使えない」
ユキナが少し止まった。
「こら、それは良くない」
「ごめんなさい、正直すぎた」
「こら」
「ごめんなさい」
───
「うるさいチュ」
いつの間にか、アモンが戻ってきていた。
窓の外から入ってきた。
レリスが顔を上げた。
「アモン! どこいってたの」
「うるさいチュ」
アモンがミナを見た。
「お腹すいたチュ」
ミナが小さなお皿にシチューを入れた。
「熱いから気をつけてくださいね」
「ありがとうチュ」
アモンがシチューを食べ始めた。
ユキナとレリスもシチューを食べた。
しばらくして。
レリスがアモンを見た。
「アモンって魔法使えないよね?」
アモンが少し止まった。
「使えるチュ」
「え、うそ。ネズミなのに」
「当たり前チュ」
レリスが目を丸くした。
「じゃあ魔法おしえて」
「チュ?」
ミナが再び静かに説明した。
アモンが聞いていた。
しばらくして。
「今は無理チュ」
「なんで」
「ギリギリまで自分で頑張ってみるチュ」
レリスが少し困った顔をした。
「それでだめなら教えてやるチュ」
「ほんと?」
レリスの顔が輝いた。
「まず自分でやるチュ」
「わかった、がんばる」
アモンがシチューを食べ続けた。
ユキナが苦笑いした。
ミナが静かに微笑んだ。
部屋が、にぎやかだった。
悪くなかった。
───
翌日、学校が終わった。
中庭を歩いていた。
ユニスがいた。
今日も棒を握っていた。
「ユニス!」
「レリスさん」
ユニスが少し微笑んだ。
「今日ね、先生に教えてもらったんです」
「なにを?」
「目を閉じて、心を静かにして。体の中の魔力を感じる方法を」
レリスが止まった。
「わたし、そんなの教えてもらえなかった」
「え?」
「ユニスだけ?」
ユニスが少し考えた。
「なんでだろう」
二人が顔を見合わせた。
分からなかった。
「とりあえずやってみよう」
「そうですね」
二人が目を閉じた。
静かにした。
体の中の魔力を感じようとした。
分からなかった。
全然分からなかった。
しばらくして、二人が目を開けた。
「わかった?」
「わからなかったです」
「わたしも」
二人が顔を見合わせた。
それから、笑った。
棒は光らなかった。
どうしようもなかった。
でも、楽しかった。




