92,ソランの来訪
セバチャが地下に来た。
「カキンオー様」
カキンオーが顔を上げた。
「天空のソラン様が謁見にいらしております」
カキンオーは棚を見た。
完全回復薬があった。
これをどうするか、まだ決まっていなかった。
そっちの方が大切だった。
面倒くさかった。
天空の奴らは嫌いだった。
カキンオーは立ち上がった。
───
謁見の間に入った。
玉座に座った。
ライラが壁際に立っていた。
緊張していた。
セバチャが隣に控えた。
扉が開いた。
ソランが入ってきた。
静かな足音だった。
カキンオーを見た。
カキンオーはソランを見た。
何も感じなかった。
早く終わらないか、と思った。
ソランが前に立った。
しばらく、カキンオーを見ていた。
それから、口を開いた。
「君は何を求めているのか」
誰も答えなかった。
静寂があった。
長かった。
ソランが待っていた。
カキンオーは答えなかった。
答えるつもりもなかった。
沈黙が続いた。
セバチャが一歩前に出た。
「カキンオー様は、その、平和をお望みかと存じます」
ソランがセバチャを見た。
「争いごとはお体に障りますので」
カキンオーは天井を見た。
ソランがカキンオーを見た。
カキンオーは天井を見ていた。
───
「君は世界を支配したいと思うか?」
カキンオーは答えなかった。
セバチャが続けた。
「カキンオー様は、その、できれば何も支配しようなどとは思っていません。城からもほとんど出ません」
セバチャが少し眉をひそめた。
「ただ、フロストスの件しかり、天空の件しかり。カキンオー様が動かれるたびに世界が揺れますので、私としては大変心配しております」
ソランがカキンオーを見た。
カキンオーはまだ天井を見ていた。
早く終わらないか、と思っていた。
───
「いざという時共に戦えるか?」
カキンオーは答えなかった。
セバチャが口を開きかけた。
止まった。
しばらく考えた。
「それは、あの」
また止まった。
「カキンオー様のお体が心配で」
ソランが少し止まった。
「お体が心配、か」
「はい」
セバチャが真剣な顔で頷いた。
「天空に乗り込まれた時も、帝国に向かわれた時も、肝が冷えました。カキンオー様は全くお気になさらないのですが」
ソランがカキンオーを見た。
カキンオーはようやく天井から視線を戻した。
ソランを見た。
ソランがカキンオーを見た。
しばらく、無言だった。
ソランが小さく息を吐いた。
「分かった」
それだけだった。
踵を返した。
扉に向かった。
扉の前で少し止まった。
「一つだけ」
振り返らずに言った。
「封印のことは、私が責任を持つ」
それだけ言って、出ていった。
扉が閉まった。
───
謁見の間が静かになった。
セバチャが深く息を吐いた。
「カキンオー様、ご無事で何よりでございます」
カキンオーは玉座から立ち上がった。
地下に戻った。
完全回復薬の棚の前に立った。
これをどうするか。
まだ決まっていなかった。
そっちの方が大切だった。
───
城門の外では。
タルドがまだ金色のドラゴンと向き合っていた。
ドラゴンがタルドを見ていた。
タルドがドラゴンを見ていた。
どちらも動かなかった。
ドラゴンが鼻息をついた。
タルドが吹き飛んだ。
尻もちをついた。
ソランが出てきた。
ドラゴンが空に上がっていった。
タルドが地面に座ったまま見送った。
「つかれた」




