91,天空の議会・完全回復薬
天空の評議の間では、今日も会議が行われていた。
議題は、カキンオーについてだった。
昨日も同じ議題だった。
先週も同じだった。
オルデンが口を開いた。
「まず、先日の件について改めて確認したい」
「無礼であった」
ドルガが続けた。
「我々の前に乗り込んできた。天空に、だ」
「調子に乗っている」
「全くだ」
「地上の魔王ごときが」
「実に腹立たしい」
全員が頷いた。
しばらく似たようなことが続いた。
一人が気づいた。
「そういえば、今日はソラン様は?」
書記が手元を確認した。
「ご用事があるとのことで、欠席の連絡が来ております」
「そうか」
オルデンが頷いた。
「では続けよう」
また始まった。
「それにしても、あの態度は許し難い」
「全くだ」
「地上の者が天空に乗り込んでくるなど、前代未聞だ」
「しかも魔物まで連れて」
「無礼の極みだ」
全員が頷いた。
また似たようなことが続いた。
しばらくして。
一人が少し声のトーンを変えた。
「そもそも、ソラン様が独断でお決めになったことも、いかがなものかと思うのだが」
場が少し静まった。
「ほう」
オルデンが目を細めた。
「ソラン様が間違ったと?」
「そのようなことは言っていない」
男が少し慎重になった。
「ただ、このような重要な事柄は、慎重に検討すべきだと言いたいのだ。議会を通すべきだったのではないかと」
「まあ、確かに」
ドルガが頷いた。
「検討は必要だったかもしれない」
「そうであろう」
男が続けた。
「あのような独断をされては、議会の意味がない。守護の任を受けておられるとはいえ」
「おい」
別の男が低い声を出した。
「口が過ぎるのではないか」
場が静まった。
誰も続けなかった。
オルデンが咳払いをした。
「まあ、今日のところはここまでにしよう」
全員が頷いた。
何も決まらなかった。
また明日、同じことをするのだろう。
───
城の地下では。
カキンオーが作業台の前にいた。
瓶を手に取った。
色を確認した。
密度を確認した。
反応を確認した。
間違いなかった。
素材も、手順も、反応も。
全部、正しかった。
完全回復薬だった。
たぶん。
試していないので、本当に完成しているかは分からなかった。
効果がどの程度かも分からなかった。
でも、これ以上やることはなかった。
カキンオーは瓶を棚に置いた。
棚の扉を閉めた。
紙が貼られていた。
持ち出し禁止。
カイトに念を押されていた。
カキンオーは作業台を片付けた。
静かだった。
セバチャに使うべきだろうか。
わからなかった。
───
城門の外で。
タルドが空を見ていた。
日課だった。
今日も何もない空だった。
そのはずだった。
影が差した。
大きかった。
タルドが見上げた。
ドラゴンだった。
金色だった。
大きかった。
今まで見たどのドラゴンより、大きかった。
ゆっくりと降りてきた。
タルドが動けなかった。
言葉が出なかった。
ドラゴンが降り立った。
地面が揺れた。
ドラゴンの背から、人が降りた。
白髪の男だった。
静かだった。
タルドを見た。
「カキンオーに会いたいのだが」
タルドは唖然としたまま、男を見ていた。
ソランだった。




