89,城の日々
朝、レリスが廊下を歩いていた。
セバチャが後ろからついてきていた。
「レリス様、どちらへ」
「たんけん」
「探検でございますか」
「うん。城ってひろいんだよ」
「左様でございますね」
───
いくつかの部屋を回った。
セバチャは城の部屋を把握していた。
武器庫、倉庫、作業場。
淡々と案内した。
でも。
一つ、扉の前で足を止めた。
「こちらは」
セバチャが少し間を置いた。
「存在は把握しております。ただ、入ったことはございません」
「なんで」
「入る必要がなかったものですから」
レリスが扉を見た。
「はいろう」
「そうでございますね」
二人で入った。
古い部屋だった。
窓があった。
城の外が見えた。
沼地が広がっていた。
「ひろい」
「そうでございますね」
レリスがしばらく外を見た。
セバチャも見た。
二人で並んで、沼地を見ていた。
「おじさん、なんでここに城たてたんだろ」
「さて」
「しずかだから?」
セバチャが少し考えた。
「そうかもしれません」
レリスが頷いた。
「しずかだね」
「そうでございますね」
───
廊下に戻った。
レリスが先を歩いた。
角を曲がった。
扉があった。
「ここは?」
「ライラの部屋でございます」
「はいろう」
「それはなりません」
「なんで」
「人の部屋に勝手に入ってはいけません」
「いいよー」
レリスが扉を開けた。
セバチャが止める間もなかった。
───
中は可愛かった。
フリフリの洋服が並んでいた。
ぬいぐるみが棚に並んでいた。
小さな花が飾ってあった。
レリスが目を丸くした。
「かわいい!」
「これは」
セバチャが部屋を見渡した。
「ほう」
一言だった。
レリスがぬいぐるみを手に取った。
「かわいい! これライラの?」
「そのようでございますね」
「しらなかった」
「私もでございます」
レリスがくるくると部屋を見ていた。
そこに。
扉に人影が差した。
「何をなさっているのですか」
ライラだった。
静かだった。
静かすぎた。
レリスが固まった。
セバチャが深々と頭を下げた。
───
ものすごく怒られた。
二人とも。
廊下に出された。
扉が閉まった。
レリスが小さくなっていた。
セバチャが静かに言った。
「人の部屋に勝手に入ってはいけませんね」
「そうだね」
二人が頷いた。
しばらくして。
「かわいかったね」
「そうでございますね」
また頷いた。
セバチャが居住まいを正した。
「では私は仕事がございますので」
「うん」
「ごきげんよう、レリス様」
「またたんけんしよう」
「喜んでお供いたします」
セバチャが廊下を歩いていった。
レリスが一人になった。
───
廊下を歩いていた。
曲がり角に、人がいた。
カキンオーだった。
作業場から戻ってきたようだった。
「おじさん」
カキンオーが立ち止まった。
「ライラにおこられた」
カキンオーは答えなかった。
「セバチャとライラの部屋に入っちゃった」
また答えなかった。
でも、少し動いた。
歩き始めた。
レリスが隣についた。
並んで歩いた。
「おじさんの部屋、たんけんしてもいい?」
カキンオーが少し止まった。
それから、頷いた。
「やった」
レリスが隣で笑った。
カキンオーは歩き続けた。
廊下が静かだった。
悪くなかった。
「おじさんって、なんでここすんでるの?」
カキンオーは答えなかった。
「しずかだから?」
少し間があった。
カキンオーが、小さく頷いた。
「そっか」
レリスが頷いた。
「しずかだね」
二人が廊下を歩いた。
城が静かだった。
───
遠く、ファルネイスでは。
ミナが一人の部屋にいた。
静かだった。
窓から外を見た。
誰もいなかった。
レリスもユキナもいなかった。
ミナは椅子に座った。
お茶を飲んだ。
静かだった。
一人の時間だった。
悪くなかった。
ミナはお茶を飲み続けた。
静かに、満喫していた。




