88,魔核と指輪
カキンオーが作業台から魔核を取り出した。
前回とは違う種類だった。
慎重に作業をした。
上手く出来た。
アモンに差し出した。
アモンが見た。
手を伸ばした。
受け取った。
しばらく魔核を見ていた。
「良さそうチュ」
カキンオーが頷いた。
アモンが床に降りた。
扉の方へ歩いた。
振り返らなかった。
扉が閉まった。
───
廊下の奥の、誰もいない部屋だった。
アモンが床に立った。
魔核を見た。
前回とは違った。
アモンが魔核を使った。
しばらく、何もなかった。
それから。
体の中で何かが動いた。
広がった。
馴染んでいった。
アモンの毛並みが、変わった。
艶が出た。
尻尾の毛先が、少しだけ光った。
キラキラしていた。
アモンは前足を見た。
それから、口を開いた。
「馴染むのに時間が必要か」
地の底から響くような声だった。
静かな部屋に、低く広がった。
誰もいなかった。
アモンは動かなかった。
ただ、静かにそこにいた。
───
広場で。
カイトがユキナと並んでいた。
「強くなりたい」
ユキナが言った。
「もっと」
「そうだな」
カイトが少し考えた。
「俺はアドバイスできないな」
「なんで」
「お前は魔法使いだ。俺は剣士だ。魔法のことは分からない」
ユキナが少し黙った。
「じゃあ……」
カイトが城を見た。
「カキンオーに聞いてみたらどうだ」
ユキナが少し止まった。
「だよね、でも教えてくれるかな」
「あいつの魔法はおかしいレベルだ。何か分かるかもしれない」
ユキナが城を見た。
「そうだね」
頷いた。
───
カキンオーの部屋の前に。
ライラが立っていた。
ユキナが近づいた。
「話したいんだけど」
ライラがユキナを見た。
少し間を置いた。
「聞いてみます」
扉を小さくノックした。
中に入った。
すぐに戻ってきた。
「どうぞ」
ユキナが入った。
───
カキンオーが作業台の前にいた。
ユキナを見た。
「強くなりたい」
ユキナが言った。
「魔法で。もっと強くなる方法を知りたい」
カキンオーは少し考えた。
この世界での魔法の強化。
最も簡単で効率がいいのは装備だ。
アクセサリーで能力を上げる。
ゲームでは強力なアイテムがあった。
でも守銭奴運営のせいで強力な課金アイテムはアカウントに紐づけされていた。
譲渡不可だった。
ほとんどが。
カキンオーは指輪に意識を向けた。
探した。
あった。
魔力が大幅に向上する指輪だった。
譲渡不可だが試す。
取り出した。
ユキナに差し出した。
ユキナが固まった。
「え」
カキンオーが差し出したままにしていた。
「く、くれるの?」
ユキナは、なんとか言葉を繫ぐ。
「指輪?」
カキンオーが頷いた。
ユキナがそろそろと手を伸ばした。
受け取った。
しばらく眺めていた。
カキンオーはなぜつけないのかと思った。
黙っていた。
ユキナがこちらを見た。
カキンオーが頷いた。
ユキナがおずおずと指輪をつけた。
手を開いた。
指輪を眺めた。
表情が、緩んだ。
カキンオーは効果があったのかと思った。
ユキナは何も言わなかった。
お互いの視線が絡んだ。
「ありがとう」
ユキナが部屋を出た。
カキンオーは作業台を見た。
効果があったのだろうか。
まあ、いいか。
回復薬の作業に戻った。
───
廊下で。
カイトがユキナを見た。
「どうだった」
「指輪もらった」
「指輪?」
カイトが少し考えた。
「ゲームだとアクセサリーはほとんど譲渡不可じゃなかったか」
「うん」
「効果はありそうか」
ユキナが首を振った。
嬉しそうだった。
「効果はなさそうだな」
カイトが頷いた。
「それなら何か別のものに変えてもらうように言ってきてやろうか」
ユキナが止まった。
カイトを見た。
「絶対にそんなことしないで」
恐ろしい声音だった。
カイトが少し後退した。
「は、はい」
それしか言えなかった。
ユキナが指輪を見た。
また表情が緩んだ。
カイトはそれ以上何も言わなかった。




