86,おかえり
馬車が城門に着いた。
タルドが門の前に立っていた。
レリスが馬車から降りた。
「タルド!」
「おかえり。学校、楽しかったか?」
「たのしかった! テスト53てんだった!」
「そうか。頑張ったな」
タルドが頷いた。
ユキナが降りた。
アモンがレリスの肩にいた。
「アモンも久しぶりだな」
「うるさいチュ」
「相変わらずだな」
タルドが苦笑いした。
───
城の扉が開いた。
ライラが出てきた。
「お帰りなさい」
「ただいま!」
ライラがレリスを見た。
「大きくなりましたね」
「この前もそれ言ってたよ」
「大きくなりました」
レリスが少し照れた。
「そんなに?」
「そうです」
ライラが頷いた。
───
ライラがユキナの方に向いた。
視線を合わせなかった。
ユキナも合わせなかった。
二人がすれ違った。
その瞬間。
「おかえり」
小さかった。
ライラの声だった。
ユキナが一瞬止まった。
ためらいがちに、言った。
「ただいま」
二人がすれ違った。
どちらも振り返らなかった。
どちらの表情も、柔らかかった。
───
城の中に入った。
廊下の奥から声が聞こえた。
「セバチャさん、もうやめてください」
カイトの声だった。
「いえ、これは私が飲んで確認しなくては」
セバチャの声だった。
扉が開いていた。
中を覗いた。
机の上に、空になった容器が並んでいた。
大量にあった。
カイトがセバチャの腕を掴んでいた。
セバチャがまた容器に手を伸ばそうとしていた。
二人が気配に気づいた。
セバチャがレリスたちを見た。
「お客様でしたか」
深々と頭を下げた。
「これは失礼いたしました」
丁寧に微笑んだ。
「お名前を伺ってもよろしいですか」
レリスが固まった。
「え」
「お名前です」
「レリス」
「レリス様でございますね」
また深々と頭を下げた。
「セバチャと申します。以後お見知りおきを」
レリスがカイトを見た。
カイトが静かに首を横に振った。
レリスがライラを見た。
レリスがまたセバチャを見た。
「セバチャ、わたしのことしらない?」
「存じ上げず、申し訳ございません」
「しってる」
「いえ、申し訳ございません」
「しってるよ!」
「それは大変失礼をいたしました」
全然動じていなかった。
丁寧だった。
穏やかだった。
レリスが困惑した。
「なんで」
レリスはさみしくなった。
「なんで」
ライラが静かに言った。
「人は忘れることもあるんですよ」
レリスがハッとした。
しばらく考えた。
「そういえば」
小さく言った。
「べんきょうしても、すぐわすれる」
ライラが少し微笑んだ。
「そうですね」
レリスがセバチャを見た。
「じゃあ、おしえてあげる」
「ありがとうございます」
セバチャが深く頭を下げた。
ライラがレリスの肩に手を置いた。
「まずお風呂ですよ」
「えー、今からおしえる」
「お風呂が先です」
「でも」
「お風呂です」
レリスが連れて行かれた。
セバチャが見送った。
また容器に手を伸ばした。
「セバチャさん」
カイトが素早く手を掴んだ。
───
夕食の時間になった。
食卓に全員が集まった。
珍しかった。
カキンオーも席についていた。
レリスが隣に座った。
当然のように座った。
アモンがレリスの膝にいた。
ユキナがカイトの隣に座った。
ライラが給仕をしていた。
タルドが緊張した顔で端に座っていた。
セバチャが丁寧に立っていた。
ラスボス代行もなぜか、入口に立っていた。
食事が始まった。
しばらくして、レリスが口を開いた。
「テスト、53てんだった」
「まあ」
カイトが言った。
「前より上がったんだろ」
「51てんから53てんになった」
「上がってるじゃないか」
「2てんだよ」
「2点でも上がった」
レリスが少し考えた。
「そっか」
アモンが欠伸をした。
「次は55点チュ」
「もっといけるよ!」
「60点チュ」
「そうだよ!」
「じゃあ最初からそう言えチュ」
レリスがむくれた。
カイトが笑った。
ユキナが続けた。
「私はもう少しファルネイスにいようと思う」
「そうか」
カイトが頷いた。
「俺はまた帝国を見てくる。モブテキのところが少し気になる」
カキンオーが頷いた。
「カキンオー、何かある?」
カキンオーは答えなかった。
食事を続けた。
「まあ、そうだな」
カイトが笑った。
食卓が、にぎやかだった。
悪くなかった。
───
食事が終わった。
レリスがセバチャのそばに行った。
「セバチャ、聞いて」
「はい、レリス様」
「わたし、5さい」
「はい、レリス様」
「様じゃない、レリス」
「わかりました、レリス様」
「カキンオーのおじさんのとこにすんでる」
「左様でございますね」
「セバチャはね、むかしわたしのことしってたんだよ」
セバチャが静かに聞いていた。
「いっつもお話聞いてくれた」
「それは光栄でございます」
「あとね、むかしは変なこと言ってた」
「申し訳ございませんでした」
「おもしろかったよ」
「ありがとうございます」
「あとね」
レリスがどんどん話した。
セバチャが丁寧に頷いていた。
カキンオーがそれを横目で見た。
地下への階段に向かった。
一段、降りた。
また一段。
静かだった。
部屋の扉を開けた。
───
暗かった。
作業台があった。
瓶が並んでいた。
そこに。
作業台の上に、アモンがいた。
「話があるチュー」
その声は冷たかった。




