85,手紙
朝、手紙が届いた。
ライラが持ってきた。
「レリスから手紙が届きました」
カキンオーが受け取った。
折り目が丁寧だった。
開いた。
おじさんへ。
テストは60てんめざしています。
ガルドにおしえてもらっています。
ちょっとこわいくらいべんきょうしています。
でも
すごくいいかんじです。
もしかしたら
てんさいかもしれません。
70てんとれるかもしれません。
100てんかもしれません。
テストがおわったらおやすみがあるので
城にかえります。
たのしみにしています。
レリスより。
カキンオーは手紙を読んだ。
もう一度読んだ。
天才かもしれないと書いてあった。
100点かもしれないとも書いてあった。
まあ、それはどうだろう。
でも。
帰ってくる。
カキンオーは手紙を折った。
悪くなかった。
ライラが扉の外から顔を出した。
嬉しそうだった。
「レリス様、帰ってくるんですね」
カキンオーが頷いた。
ライラがさらに嬉しそうになった。
廊下に引っ込んだ。
何か言っていた。
聞こえなかった。
まあ、いいか。
───
城の広場で。
タルドが剣を構えていた。
鉄の芯が入った木剣だった。
向かいにカイトがいた。
「本当にいいんですか、素手で」
「ああ」
カイトが全身に流れを送った。
薄く光った。
身体強化だった。
「来い」
タルドが踏み込んだ。
木剣を振った。
カイトが躱した。
速かった。
タルドが続けた。
振った。
また躱した。
タルドが息を整えた。
「当たりません」
「当ててみろ」
タルドが踏み込んだ。
全力で振った。
カイトが受けた。
素手で受けた。
鈍い音がした。
芯が入っているぶん、重かった。
タルドが止まった。
「い、痛くないんですか」
「痛い」
「じゃあなんで」
「鍛錬だ」
カイトが手をかざした。
回復魔法をかけた。
手が、元に戻った。
「もう一度来い」
タルドが木剣を構えた。
なんか、すごい人だな、と思った。
───
作業場で。
カキンオーが瓶を並べていた。
回復薬の調合だった。
素材を量った。
混ぜた。
加熱した。
色が変わった。
確認した。
悪くなかった。
でも、完全回復薬ではなかった。
完全回復薬は、難しかった。
ゲームでは傷も欠損も全部治る薬だった。
でもここはゲームではない。
この世界でどう作用するか、分からなかった。
腕が生えるかもしれない。
生えないかもしれない。
記憶が戻るかもしれない。
戻らないかもしれない。
分からなかった。
でも、作る意味はある。
カキンオーはもう一度素材を確認した。
足りないものがあった。
比率が、まだ合っていない。
まあ、焦る必要はない。
また試せばいい。
瓶を並べた。
静かだった。
やることがある静けさだった。
───
夜、セバチャが報告書を書いていた。
本日、カキンオー様が回復薬の調合を開始された。
これは市場の掌握である。
回復薬を城で生産し、大陸全土に供給する。
医療という根幹から大陸を支配する。
さすがでございます。
セバチャはそこで一度ペンを止めた。
しかし。
薬は一歩間違えると毒になる。
カキンオー様のやることに間違いがあるなど、あり得ない話ではあるが。
いや、確認は必要だ。
私が飲むしかない。
いや、全て飲んでみせる。
まずは飲み水を絶って備えねば。
セバチャは静かに頷いた。
報告書の末尾に、丁寧な字で書き添えた。
粉骨砕身、尽くしますぞ。
一切合切が、全力でズレていた。
───
数日後。
また手紙が届いた。
レリスからだった。
開いた。
おじさんへ。
テストがおわりました。
えっと。
60てんを、めざしていました。
すごくいいかんじでした。
てんさいかもしれないとおもっていました。
53てんでした。
たぶん。
てんさいは、ちがったとおもいます。
でも。
まえより、わかるようになりました。
おやすみがおわったら、城にかえります。
レリスより。
カキンオーは手紙を読んだ。
もう一度読んだ。
天才は違ったと書いてあった。
53点だった。
まあ。
前より分かるようになったと書いてあった。
まあ。
帰ってくる。
それで、十分だった。
カキンオーは手紙を折った。
悪くなかった。




