80,帰還
謁見の間は静かだった。
天空の者たちは、もういなかった。
誰もいなかった。
城門の外で、カキンオーがドラゴンの頭を見ていた。
ドラゴンは頭を垂れたまま動かなかった。
そこに、足音が来た。
「カキンオー様!」
タルドだった。
地下から駆け上がってきた。
息が切れていた。
「ご無事ですか!ずっと下で聞いてました! すごい音がして! 何があったか全然分かりませんでしたが!」
カキンオーが頷いた。
「よかった! あの、外のドラゴンは」
カキンオーがドラゴンを指した。
タルドがドラゴンを見た。
ドラゴンがタルドを見た。
タルドが一歩後退した。
「……味方、ですか」
カキンオーが頷いた。
「そう、ですか」
タルドがもう一歩後退した。
ドラゴンはじっとしていた。
カキンオーは空を見た。
静かだった。
───
夕方、馬車が来た。
カイトが降りてきた。
次にライラが降りてきた。
ラスボス代行が降りてきた。
カキンオーが三人を見た。
ライラの服が、新しかった。
傷があった。
ラスボス代行の体に、亀裂の跡があった。
修復されていたが、跡が残っていた。
カイトが前に出た。
真剣な顔だった。
「セバチャさんが」
カキンオーが、カイトを見た。
「セバチャさんが、消えた」
静寂があった。
カイトが続けた。
「俺を助けるために、無理をして、消えた」
カキンオーは答えなかった。
動かなかった。
「俺のせいだ。申し訳ない」
カイトが頭を下げた。
カキンオーはしばらく、カイトを見ていた。
それから、踵を返した。
城の中に入っていった。
───
謁見の間の奥に、小さな別室があった。
カキンオーが扉を開けた。
棚があった。
その中に、黒い宝珠があった。
手に取った。
重かった。
カキンオーは宝珠に意識を向けた。
魔力を注いだ。
ゆっくりと、注いだ。
宝珠が光った。
黒い光だった。
部屋の空気が、変わった。
───
カイトが扉の外で待っていた。
ライラも待っていた。
ラスボス代行も立っていた。
タルドが一番後ろにいた。
何が起きているか分からなかった。
しばらくして。
扉が開いた。
カキンオーが出てきた。
カイトが中を覗いた。
部屋の片隅に、人影があった。
白髪の老人だった。
カイトが息を飲んだ。
「セバチャさん」
踏み込んだ。
老人が振り返った。
カイトが駆け寄った。
「セバチャさん、セバチャさん」
老人が、カイトを見た。
静かな目だった。
穏やかな目だった。
でも。
「……どちら様でしょうか」
カイトが止まった。
老人が続けた。
「失礼いたしました。申し遅れました」
深々と頭を下げた。
「私はカキンオー様の執事、セバチャと申します。以後お見知りおきを」
カイトが動けなかった。
「セバチャさん、俺だ。カイトだ」
「カイト様、でございますか」
セバチャが頷いた。
「カキンオー様の城にいらっしゃるということは、ご友人でしょうか」
カイトが唇を噛んだ。
「そうだ。友人だ」
「それは、よろしゅうございました」
セバチャが微笑んだ。
いつもと同じ微笑みだった。
カイトが顔を伏せた。
───
扉の外で。
ライラが部屋の中を見ていた。
セバチャが、カイトに丁寧に頭を下げていた。
カイトが、顔を伏せていた。
ライラは何も言わなかった。
何も言えなかった。
ただ、見ていた。
扉を静かに閉めた。
廊下に立った。
ラスボス代行が隣にいた。
タルドが後ろにいた。
誰も、何も言わなかった。
廊下が、静かだった。
ライラは前を向いた。
少しだけ、目を伏せた。
それだけだった。
後書き
【作者より】
命と引き換えに皆を守ったセバチャ。
主の力によって復活を果たしたものの、その代償はあまりにも重いものでした。
セバチャ「皆様はじめまして、執事のセバチャでございます」
第80話という大きな節目までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
彼らの戦いと、この先のカキンオー城の行方を「見守りたい」「セバチャー(泣)」と少しでも思っていただけましたら、80話到達の祈りとして、ページ下部の【評価ポイント】を押していただけると執筆の大きな励みになります。




